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第1話 【悲報】ワイ将、告白爆死から遠隔操作が始まるまで

「は? 無理だし」


 人生で一番の勇気を振り絞った結果、返ってきたのは、わずか五文字の銃弾だった。


 放課後の渡り廊下。


 夕日はやたらと綺麗で、風もいい感じに吹いていて、青春映画ならここで最高の主題歌が流れる場面だった。


 けれど現実は非情だ。


 クラスの一軍ギャル、藤崎紗夜ふじさき さやは、俺の告白を一秒で粉砕した。


 しかも、ぷいっと顔を背けたままで。


 冷たい。鋭い。無慈悲。


 俺の恋心は、校舎裏の自販機の下に落ちた十円玉くらい、どうでもいい扱いを受けた。


「あ、うん……だよね。ごめん。忘れて」


 俺――御子柴亮みこしば りょうは、笑った。


 いや、笑ったつもりだった。


 たぶん顔面は、古いプリンターが絶望的な紙詰まりを起こした時みたいになっていたと思う。


 そこからの記憶は曖昧だ。


 気づけば俺は全速力で逃げていた。


 行き先は、校舎の端にある男子トイレ。


 個室に飛び込み、便器のフタを閉め、その上に崩れ落ちる。


「……死にたい」


 声が自分でも引くくらい小さかった。


 知っていた。スクールカースト最下層のオタクが、一軍ギャルに告白してうまくいくはずがないことくらい。


 知っていたのに、なぜか今日は、いける気がしてしまったんだ。


 夕日が綺麗だったから。


 今日の紗夜が、一瞬だけ俺を見て優しく笑った気がしたから。


 つまり俺は、夕日と勘違いによって無事に死亡した。


「……現実逃避しよ」


 俺は震える手でスマホを取り出した。


 お気に入りの『5chまとめサイト』を開く。


 誰かの大炎上でも読んで、俺より不幸な人間を探そう。最低な発想だが、今の俺に倫理観を求めないでほしい。


 だが、トップページの一番上。


 新着記事のタイトルを見た瞬間、俺の指が完全に凍りついた。


【悲報】ワイ将(17)、クラスのギャルに告白するも無事死亡wwwww


「……は?」


 まとめられたのは、わずか【3分前】。


 嫌な汗が背中をどっと流れた。


 俺は血の気が引いていくのを感じながら、その記事をタップした。


1:名無しのワイ 2026/05/21(木) 16:15:22 ID:sAyA_999

終わった。

人生終わった。

好きな人に「無理」って言われた。

もう死ぬしかない。


2:名無しのワイ 2026/05/21(木) 16:15:50 ID:w9X7a8b

まーた非モテの妄想スレか。


3:名無しのワイ 2026/05/21(木) 16:16:01 ID:mOt0K9z

詳しく。場所は?


5:名無しのワイ 2026/05/21(木) 16:16:45 ID:sAyA_999


3

放課後の渡り廊下。

夕方が綺麗だったから、いけると思った。

「は? 無理だし」って冷たく言われた。

今トイレの個室で泣いてる。


「俺じゃん!!!!」


 個室の中で絶叫しかけて、慌てて両手で口を押さえた。


 いや、待て。落ち着け。


 場所。時間。セリフ。今いる場所。


 ――全部、一言一句たがわず一致している。


 盗撮? 盗聴? それとも俺のスマホ、誰かにリアルタイムでハッキングされてるのか!?


 パニックになりながら画面をスクロールすると、スレはすでに地獄みたいな盛り上がりを見せていた。


12:名無しのワイ 2026/05/21(木) 16:18:12 ID:aBc123x

悲報すぎる。

でもこれ、ギャル側もちょっとテンパってないか?


15:名無しのワイ 2026/05/21(木) 16:19:05 ID:fUzI_456

いや、あの子は昔から照れると口悪くなるタイプだから、まだワンチャンある。


16:名無しのワイ 2026/05/21(木) 16:19:30 ID:iCh1O2k


15

お前、関係者だろ。


17:名無しのワイ 2026/05/21(木) 16:20:01 ID:fUzI_456

違います。通りすがりの親友です。


18:名無しのワイ 2026/05/21(木) 16:20:22 ID:mOt0K9z

認めてて草。


「なんでリアル関係者が混ざってんだよ……っ!」


 怖い。普通にホラーだ。


 けれど、フラれた直後の人間というのは、恐怖よりも別の感情が勝つことがある。


 というか、自分の人生がリアルタイムでネット実況されているのに、読むのをやめられる人間がこの世にいるだろうか。


 いない。少なくとも俺は無理だった。


32:名無しのワイ 2026/05/21(木) 16:25:14 ID:zXy987v

主人公、もしここ見てたら、明日の朝、あえて普通に話しかけろ。


35:名無しのワイ 2026/05/21(木) 16:26:02 ID:w9X7a8b

鬼畜で草。気まずすぎて死ぬだろ。


38:名無しのワイ 2026/05/21(木) 16:27:11 ID:zXy987v

ここで逃げたら一生「気まずいモブ」で終わる。

「おはよ」だけでいい。普段通りにいけ。器のデカさを見せろ。


41:名無しのワイ 2026/05/21(木) 16:28:33 ID:fUzI_456

あの子、たぶん明日めちゃくちゃ気にしてる。

普通に話しかけられたら、多分死ぬ(可愛さで)。


42:名無しのワイ 2026/05/21(木) 16:28:50 ID:mOt0K9z


41

関係者、情報漏らしすぎ。あと(可愛さで)ってなんだよ。


 普通に話しかける。たったそれだけ。


 なのに、今の俺には世界を救うミッションより難しく思えた。


 でも――。


 このまま逃げたら、俺は本当に終わる。


 振られたことそのものより、振られた後に気まずさから逃げ続けることの方が、ずっと惨めで、ずっと格好悪い。


「……やってやろうじゃねえか」


 俺はスマホを限界まで強く握りしめた。


「ネット民のクソ助言、一回だけ信じてやる」


 翌朝。


 教室の空気は、昨日と全く同じはずなのに、俺にはギロチン付きの処刑場に見えた。


 藤崎紗夜は、いつもの一軍グループの中心にいた。


 金色に近い明るい髪、短めのスカート、派手なネイル。


 笑うだけで、教室の空気を少し明るくするような存在感。


 だけど、今日の彼女は少し変だった。


 やたらとスマホを見ている。誰かと話していても、目元だけが落ち着かない。


 しかも、俺が教室のドアを開けた瞬間、彼女の肩がピクッと跳ねたのを、俺は見逃さなかった。


(……いや、自意識過剰か。まさかな)


 最初の休み時間。


 俺は意を決して席を立った。


 ポケットの中のスマホでは、スレ民たちが勝手に盛り上がり散らかしている。


91:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:41:03 ID:w9X7a8b

そろそろ突撃の時間か?


92:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:41:20 ID:mOt0K9z

ワイ将、生きてるか?


94:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:42:01 ID:zXy987v

「おはよ」だけでいいぞ。余計なことは言うな。

お前はすぐ緊張して余計なことを言いそうな顔をしている。


95:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:42:14 ID:iCh1O2k

顔知られてて草。


(うるせえよ!)


 俺は心の中でネット民に鋭いツッコミを入れながら、一歩一歩、紗夜の席へと歩を進めた。


 周囲の空気が、じわじわとざわつき始める。


 昨日派手にフラれた男が、翌朝の休み時間に、その張本人へ近づいているのだ。


 そりゃ見る。


 俺だって逆の立場なら、ポップコーンを買って特等席で観る。


 ついに、紗夜の目の前に立った。


 彼女がゆっくりと顔を上げる。


 視線が交差した瞬間、紗夜の身体がビクッと大きく震えた。


 その怯えたような反応だけで、俺の心臓も非常事態宣言を発令する。


 だけど、ここで引いたら男がすたる。


 俺は大きく息を吸った。


 できるだけ普通に。


 昨日の爆死なんて、最初からなかったみたいに。


「藤崎、おはよ」


「……っ!?」


 次の瞬間、目の前のギャルの顔面が、一瞬で爆発するように赤くなった。


 マジで赤い。夕日より赤い。昨日の夕日、完全にお前の負けだ。


「あ……うん」


 紗夜は視線を激しく泳がせた。


 いつもの強気でギャルギャルしい目が、完全に迷子になっている。


「お、はよ……御子柴」


 声が、めちゃくちゃ小さい。


 昨日の冷酷な「は? 無理だし」と同じ口から出たセリフとは到底思えなかった。


「じゃ」


 俺はそれだけ言うと、スマート――のつもりで背を向けて自分の席に戻った。


 足は生まれたての小鹿みたいにガタガタ震えていた。


 席に座った瞬間、机の下でスマホを取り出す。


 ページを更新。


 画面が書き換わり、新着レスが怒涛の勢いで流れ込んできた。


105:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:45:12 ID:sAyA_999

【急募】話しかけられた!!!!

普通に「おはよ」って言われた!!!!

心臓止まるかと思った!!!!

器デカすぎ無理!!!! 好き!!!!

でも昨日「無理」って言った女が今さらどうすればいいの!?!?!?


106:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:45:30 ID:w9X7a8b

好きって言ってて草。


107:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:45:41 ID:mOt0K9z

これもう答え出てるだろwwww


108:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:46:14 ID:fUzI_456

紗夜、落ち着けって。


109:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:46:30 ID:iCh1O2k


108

本名出してて草。


110:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:46:45 ID:fUzI_456

あ。


 俺はスマホの画面を凝視した。


 それから、ゆっくりと首を動かして教室の向こうを見る。


 そこには、耳まで真っ赤にしてスマホを両手で握りしめている藤崎紗夜の姿があった。


 隣の席の女子――たしか藤井とかいう名前の親友が、慌てた顔で紗夜のスマホを覗き込んでいる。


 そして、その親友がハッとこちらを向き、俺と目が合った瞬間にフリーズした。


 俺はもう一度、手元の画面を見る。


 ID:sAyA_999


 さや。


 紗夜。


「……マジかよ」


 いや、もう「まさか」なんてレベルじゃない。


 確定だ。


 その時、俺の網膜に新しいレスが飛び込んできた。


111:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:47:01 ID:zXy987v

主人公、もしここ見てたら次の指示だ。

昼休み、購買で卵サンドを買え。

女は卵に弱い。


112:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:47:20 ID:w9X7a8b

卵は完全栄養食だからな。恋愛にも効く。


113:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:47:31 ID:mOt0K9z

効かねえよ。


114:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:47:44 ID:iCh1O2k

でもギャルが卵サンド好きなら実質正解だろ。


「絶対ウソだろ、どんな迷信だよ……」


 俺が小さく呆れた声を漏らした、その時だった。


 ざわざわとした教室の雑音をすり抜けて、遠くの席から、信じられない呟きが風に乗って聞こえてきた。


「……っ、卵サンド、めっちゃ好きだけど……」


 聞こえた。


 遮蔽物を突き抜けて、俺の耳にダイレクトに届いてしまった。


 どうやら俺の恋愛は、今日から顔も知らないネット民たちに遠隔操作されるらしい。


 しかも、そのスレを立てた張本人は――昨日、俺を無慈悲に振ったギャル本人。


 終わった。


 いや、違う。


 画面の中で、新しいレスが更新された。


115:名無しのワイ 2026/05/22(金) 08:48:10 ID:sAyA_999

卵サンド買ってきてくれたら、たぶん私、普通に死ぬ。


「……死ぬなよ」


 俺は小さく呟いて、昼休みの購買戦争に参加する覚悟を決めた。


 俺の恋愛は、まだ始まっていない。


 ただし、すでにネット民によって作戦会議は始まっていた。


(第1話・了)

ここまで読んでくださってありがとうございます!


告白爆死から始まったはずなのに、

なぜか5chまとめ民に恋愛を遠隔操作され始めた御子柴。


次回、卵サンドをめぐって購買戦争が始まります。


少しでも続きが気になった方は、

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