キューピットの成損ない
僕は学園祭当日、校門の前でえみ先輩と待ち合わせをした。えみ先輩は開口一番
「昨日の事、だいご君から聞いたよ。ありがとう」
と、口にした。僕は
「当然のことです。だいご先輩からメールが来て良かったですね」
「んー」
えみ先輩は少し考える素振りを見せた。
「かける君の事を聞けたから良かったかな」
とまばゆい笑顔でえみ先輩が答えた。そういうことではなかったが、えみ先輩が笑っているなら、それで良いか。
「かける君は、私とだいご君が結ばれたら、嬉しい?」
その問いで具体的にえみ先輩とだいご先輩の事を考え少しちくりとした。けれど、この痛みはえみ先輩の幸せには不要な物。
「嬉しいですよ。それがえみ先輩の望んだことですから」
と返した。
「じゃあ…」
えみ先輩が一呼吸置く。
「私がだいご君との未来を望んでいなかったら?」
そう質問された。僕がえみ先輩に恋した時にえみ先輩に好きな人が居なかったのなら、どうしただろう?えみ先輩を自分の物にしたいと思っただろうか?いや、それを考えるよりも
「どうしてそんな質問を?」
そんな僕の疑問にえみ先輩が答える前に、部室に着いてしまった。
「答えは後でね」
そんな言葉を残して、学園祭は始まった。
「えみちゃん!」
「今日もよろしくね」
「皆で頑張ろうね」
サークルの全員がえみ先輩を迎える言葉を発する。僕はホッと胸をなでおろした。
部室にはサークル全員の絵が飾られている。その絵たちの魅力を伝えるのが、受付の役割だ。僕たちポスター制作チームは受付に回る事になった。えみ先輩が笑顔で女の子の対応をしている。あの、迷子で泣いていた女の子だ。女の子はえみ先輩の描いた絵を見ながら
「綺麗だね」
とはしゃいでいた。
学園祭も終わり、えみ先輩に話しかけようとした。すると、それよりも早くだいご先輩が話し掛けに行った。
「少し、話したいことがあるんだ。屋上まで来てくれないか」
「分かった」
そう言うと、えみ先輩はだいご先輩の後を付いていく。僕もこっそりと後を付けた。
「俺、えみに謝らないといけない事がある」
「なに?」
「俺、えみは何もできないんだと思った。でも、前日は発作だったのにこうやって学園祭も成功させて、俺の勘違いだったなって」
「そうかな?それも、かける君のおかげだね」
「そうなのか」
沈黙が流れる。だいご先輩は言いにくそうに
「俺ってまだ、えみの恋人になるチャンスってある?」
僕の鼓動が跳ねる。夢にまで見たえみ先輩の幸せになる瞬間、そのはずなのに、僕はその場から逃げ出していた。僕は今までえみ先輩の幸せを願ってきた。えみ先輩の幸せが僕の幸せなのだと。けれど、実際に僕ではない誰かの人と幸せになる姿は我慢できなかった。でも、それはえみ先輩の幸せには不要な事だ、だから僕は…
「えみ先輩。屋上での話聞きました」
僕はそうえみ先輩に話しかけた。
「屋上での話も聞いてたの?」
「はい」
「もう、悪い子だなぁ。もっと、ロマンチックに伝えたかったのに」
うん?伝えたかった?何を?ああ、だいご先輩と付き合ったことについてか。
「おめでとうございます」
「おめでとうって何が?」
「だいご先輩と付き合ったことについてですよ」
僕は淡々と告げた。話がかみ合っていない気がしなくもないが…。
「え?付き合ってないよ?」
「え…?だってだいご先輩に告白されていたじゃないですか」
「そこだけ聞いて、付き合ったと思ったの?」
確かに、そこだけ聞いて付き合ったと思った。逆に言うと、そこしか聞いてない。
「私の返事はNOだったよ」
「なんでですか?」
「気づいたの。好きかどうかはまだ分からないけれど、支えてくれる人と一緒に居たいなって」
「具体的には誰と?」
「かける君と」
僕は地面が揺れる衝撃を受けた。最初の揺れとは違う、心地の良い、暖かい揺れ。けれど、すぐに反応できない。
「僕と?」
やっと絞り出せた言葉は、なんとも間の抜けた言葉だった。
「かける君と」
えみ先輩はいたずらっぽく笑った。
これがキューピットになれなかった僕とえみ先輩の馴れ初めの話。




