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「久しぶりだな」
「ええ、相変わらず気持ちのいい所ね」
「…父さん、母さん、ただいま」
今日は休暇をとって、彼のご両親に会いにきた。
集団埋葬されているので個別の物はないけれど、お二人の名前が刻まれた大きな墓石の前で私たちは手を合わせる。
「ねえ、どんな方達だったの?」
「…え?」
「あなたは私をここに連れてきてくれていたけれど、あまりご両親の話をしてくれなかった。
辛いのだろうと思って私も深くは聞かなかったけど…」
「…すまない」
彼は自嘲する様にそう呟くと、近くの東屋へと私をエスコートした。
目の前には綺麗な池。枝垂れ柳が囲んで、今にも水面につきそうなくらいにお辞儀していた。
その池を見渡す位置に私達は隣り合って座り、私は彼の肩に頭を跨げて手を握り合う。
「父も、母も、優しい人だったよ。
むしろべたべたとくっつきたがるから、いつも嫌で逃げ回ってた。それすら楽しんでくるから何度怒ったことか」
「だからあんなに生意気な男の子になったのね」
「13歳の男子なんて、みんなあんなものだよ」
ふふふ、と笑うと、彼が私の頭を優しく撫でた。そのまま話を続ける。
「実は俺、両親の死に目には会えていないんだ」
思わず跨げていた頭を上げて、彼の顔を見る。
変わらず彼の視線は目の前の池に注がれていた。
「疫病だったから俺はすぐに両親と離されて、次に会った時にはもう灰だった。
しかも色んな人間のものと混ざっていたから、どれが両親かも分からなくて」
「…いいわ。もう十分よ。ありがとう、話してくれて」
実はあの大きな墓石は、その疫病が大流行した時の死亡者達が葬られたものである。
今はもう弱毒化し脅威的なものでは無くなったが、当時はかなりの死者、とりわけ平民達は特にその餌食となった。
「確かに辛い事だけれど、君には話すべきだったんだ。俺は…」
ゆっくりと彼の言葉を待つ。
私は握っていた手を更に強くした。
「君から逃げていた」
予想通りの言葉だった。
「それは、私が貴族の娘だから?」
「…そう、だね」
「あなた、最初に私に謝ったんだもの。
でもね、私こそあなたに謝らなくちゃいけない。
…私はあなたを確かに見下した。そして落胆した。
それがあなたに伝わったのよね?」
「それは…」
「傷ついた?」
「まあ、当たり前だよな、と」
「ごめんなさい…」
「別にいいよ、もう。
…もっと早くこうやって話すべきだったんだ、俺達は」
「ええ…」
もしあの時彼がああならなければ、今もお互い素直になれずにすれ違ったままだったのだろうか。
「あなたはあの頃、私を愛していた?」
「…分からない。でも、確かに愛おしかったと思う」
「良かった…私もよ。あなたの事を確かに愛おしかったけれど、愛かどうかは分からなかった」
「俺が体裁を気にして仕事ばかりしていたから」
「でも私も素直に一緒にいたいと言えば良かったのよ。
不毛だわ、おあいこにしましょう」
「うん…ありがとう」
再び私は彼の肩に頭を跨げた。その私の頭に、彼もそっと頭を跨げる。
「ねえ…事故が起こる前、あなたが思い詰めていたのは、私…?」
しばしの沈黙。そして彼は小さく頷いた。
「もしかして…離縁しようとか、考えていた?」
彼はもう一度、頷いた。
「…どんどん曇っていく君の顔が、見るに耐えなくて。
そんな馬鹿みたいな事を考える前に、もっと君との時間を作るだけで良かったのにな。
俺は君に愛されていないと決めつけて、表面的な優しさだけでどうにかごまかしていた」
「ふふ…私達って似た物同士ね。
本当、素直になれば良かっただけなのに…」
涙がぽたりと溢れる。
「あなたがそんなに追い詰められていることも知らずに私は…あなたが生きていてくれて本当に良かった…」
「そこまで心が囚われてしまう程君の事を考えてしまう理由を、考えるべきだったんだ。
たくさん辛い思いをさせてごめん」
「辛かったのはあなたよ…良かった、本当に」
本当にあの時、記憶が無くなっただけで済んでよかった。命が助かっただけでなく、五体満足でこうして一緒に隣り合っていられるのだから。
「俺は、もう一度やり直したかったのかもしれない」
「だから13歳の頃に?」
「うん…」
「そうかもしれないわね」
流れていた涙を手で拭う。彼はその手を止めると、代わりに拭ってくれた。そのまま顔を引き寄せられて、キスをする。
「それは見事に成功したという」
「私知らなかったわ、あなたにあんな生意気な時期があったなんて」
「…だから13歳の男子なんてみんなあんなものだって」
「小さな事にも顔を赤くして慌てたり、かと思ったら急な大胆な事してきたり」
「チャーリー達の前で隠れて手を繋いだ時、すごい照れてたよね」
「あ、当たり前だわ!それより、どうしてあんな事を」
「単純に妬いたんだよ。俺にとってまだチャーリーは得体の知れない男だったから、そんな奴と和やかに話してるのが許せなくて。ほぼ無意識だったけど」
またあの時の様に熱くなってくる耳。
彼は笑いながらそこに口付けた後、再び私の唇を塞いだ。




