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十五代目神さま漂流記――魔女とバカの日々 Part2  作者: UDG
三千世界の彼方で遊べ!
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三十七 日帰り地獄旅行

※当面続きを書きそうにない状況なので、一月に書いてあった原稿を手直しして投稿。

 ゲーム世界の星に三人でやって来て、既に二時間が経過した。

 私は学校を終えて、市役所でモニター役をこなしてから窓口に顔を出した。その上で二時間も経過しているのだから、そろそろ家族が心配するぐらいの状況を想定していたが、どうもそうはならないらしい。

 土球とここは別の宇宙だから、時間の流れも独立している。だからこの星で二時間経過した現在と、土球の二時間前を紐付けすればいい…と、いくら何でも無茶苦茶過ぎる気がする。

 もちろん、異なる宇宙間の話なので、ゆうちゃんの主張が間違ってるのかは分からない。どちらかといえば、理解が及ばないだけ。


「薫、何か空の上にあった?」

「えっ?」

「気持ちは分かるぞ。うむ、地球人類の代表として謝っておく」

「誰が代表だって?」


 …………。

 そう。ガラにもなくシリアスに始まったのは、目の前の景色を忘れたかったから。

 ゆうちゃんの有無を言わせぬないツッコミも、耳に届かない。だってここは――――。


「みっちゃん、あっち行こー」

「やかましい! 遊園地じゃねーだろ!」

「似たようなものよ。絶叫マシンがいっぱい」

「……全然似てないと思う」


 空が赤い世界。

 地面は…、グツグツを音を立てている。鍋料理のようだけど、気を抜けば失神するほどに熱い。これはどう見ても、土球でいうところの溶岩だ。

 そんな溶岩に覆われた不毛の地。

 しかし、困ったことにそこには人がいるのだ。溶岩に煮込まれて、誰かの晩ごはんに? そんな雰囲気はない。似ているとすれば、確かに遊園地。いろいろな種類の叫び声が聞こえてくるし。


「では光安、行ってみよー!」

「や、やめ…って、アチ、アッツ!」

「以下うるさいから省略」

「勝手に省略すんなバカ!」

「あぁん? 誰がバカだって?」


 溶岩の中になぜか立っている巨大な柱。真っ赤に熱された金属の柱に、ゆうちゃんは自分の彼氏をほうり投げた。うう、酷い動物虐待だ。仲良く罵声を浴びせ合いながらケンカするのも当然だ。

 …………。

 光安の身体は、ジュウジュウ音を立てているが燃えていない。意識もある。だから絶叫マシンという喩えも嘘じゃない…って、騙されるな私。

 ここはおかしい。

 どう考えても、まともな思考の及ぶ世界じゃない。



 溶岩ではなく普通の地面の場所をようやく探し出して、私たちは一息ついた。

 あの男の人が、ゲーム世界の宇宙に出現する以前にいたという星。それはおよそ、生物が暮らすという環境ではない。

 人間の姿をした生物は確かにいる。土球人類とも見た目はそっくりで、男女の区別もあるようだ。ただし、子どもはいない。老人もいないように見える。あの男の人と似たような年齢の人たちばかり。

 そんな人たちは、ただひたすらに拷問を受け続けている。光安が抱いたような熱した柱、剣の山、いったいここは何?


「ゆうちゃんは心当たりがあるの?」

「あるといえばあるし、ないと言えばないわ」

「地獄だろ、要するに」


 地獄。

 光安が口にした単語を、私も知っている。

 悪いことをした人が行く場所。土球の宗教では、だいたいそういう話がある。助けを求めてる死者の話を聞かされて、そんな目に遭わないよう…という、お決まりの話。どうやら地球も似たような感じらしい。

 しかし、何か違う気がする。


「やってることは地獄。でも、この人たちは助けを求めていない」

「求める相手がいないからじゃねーのか?」

「こんな状況で、相手がいるかいないかなんて考えてる余裕はないでしょ。だいいち、叫び声だって無意味なんだし」

「うーむ」


 誰も救いを求めない。違和感の一つは間違いなくそれだ。

 そもそも、さまざまな酷い目に遭っている人々から、言葉と呼べそうな声は全く聞こえてこない。叫び声も、何かを叩けば音が出る程度の現象。

 そう、ただこの人たちは、耐えがたい苦痛を作業としてこなしている。


「あの人は四百年、これをやってたわけか」

「たぶんね」

「何のために?」

「私に聞かないでよ。余所の宇宙の事情だし」


 結局、何も分からない。唯一理解できたのは、地獄という名前で連想するイメージそのままだということ。そのくせに、ここには目的がない。この苦痛を与え続ける意味が、そもそもない。地獄なら、そこから脱することを目指すだろうが、この星に脱出先はない。

 だから――――、「助ける」という選択肢もない。ゆうちゃんはそう言った。

 土球とも地球とも、そしてゲーム世界とも違う宇宙。私たちの理解が及ばない宇宙に、こちらの倫理観を持ち込んでも仕方ないのだ…と。


「納得するなって言われてる気がする」

「納得しようがねぇぞ。全く理解できない」

「だから納得も理解もするなって話。帰るよ」


 次の瞬間、私たちは事務所にいた。

 目の前の置き時計は、さっきゲーム世界に移動した時間と同じ。


「助かった…」

「アンタに命の危機なんてなかったでしょ?」

「そういう問題じゃねぇ。帰ろう、もう疲れた。寿命が縮んだ」

「みっちゃんの寿命は私がいる限り永遠だから大丈夫。あ、それとせっかくだから、今日からみっちゃんね」

「何もかも納得できないぞ」


 相変らずなバカップルを見せつけられながら、受付の椅子に腰をおろす。

 冗談抜きに、そのまま地底に埋もれていくような感触。疲れている。とてつもなく疲れている。


「ま、今日はこれで解散。薫、疲れてる?」

「見ての通りです」

「元気にしてあげようか?」


 そう言いながら、ゆうちゃんは光安の頭に触れる。すると、彼氏は小さく呻き声を発した。どうやら、能力で彼の疲労を取り除いたようだ。

 そうして、改めて見つめられた私。うーーん。


「やめとく」

「遠慮してる?」

「ううん。せっかくの体験だし」


 ここで安易に疲労を取り除けば、とんでもない今日の記憶が薄まってしまう。そんな気がする。格好良くそう言おうと思ったのに、ゆうちゃんは余計なことを言うのだ。


「自分でもできるからね」

「そうなの?」

「そうでしょ」


 ああそうでした。もう私は普通の少女じゃなかったんだ。何だろう、この軽い絶望感。人類としての逃げ場を失った気分。

 自分でできるのか…。


「やり方は分かるでしょ?」

「やらないからね」

「試してみようと思ったくせに。薫の考えてることは顔見りゃ分かるぞ」

「うるさいなぁ、地球の男は」

「さっきの男なら大人しいぞ」

「四百年しゃべってないぐらい無口な大人だもんね、薫」

「いきなり無茶な話しないで」


 なんでそんな方向に? 申し訳ないけど、異性としての興味は全くわかない。それどころか、同じ生物とすら認識できない。

 だって、あそこにいたんだよ?


「だがなぁ、それで一つ質問なんだが。ゆう」

「光安と私がいつ一つになるかって? それなら今すぐ…」

「あのオッサン、四百年もあそこにいたんだろ? 言葉は翻訳できたって、会話できるのはおかしいよな?」

「どういうこと?」


 むくれた顔のゆうちゃんが、例によって彼氏を羽交い締めにしているが、彼氏はあの会話に移行する気がないらしい。

 女神から深い仲になろうと言われてこの態度とは。思いがけない所でこの地球男子は硬派だ。


「四百年前の飽海は今と同じじゃなかっただろ? 地球にくらべりゃ似ているだろうが。普通は話が通じるはずがない。なぁ、ゆう?」

「みっちゃん意地悪ー」

「えーと、ゆうちゃん、そういうのは誰も見てないところでお願い」

「分かってないわね、薫。誰かに覗かれてどん引きされるところがノロケの醍醐味なの。その表情ゾクゾクするわ、ねぇみっちゃん?」

「頼むから同意を求めないでくれ」


 目の前では、真面目に質問を続ける彼氏の頭が、女神の胸に埋もれている。

 正直言えば、光安の疑問はよく分かる。だから…。


「たぶん、あの宇宙に飛んだ時に、何かそういうものを与えられたんじゃないかな」

「誰が? ゆう?」

「なわけないでしょ。私なら何もしないで連れてくるわ。それが異文化交流っていうものだし」

「お前が言うと、いいオモチャって意味にしか聞こえないが」


 よく分からないけど、飛ばされた先で困らないように誰かが与えたという見解?


「まぁ一応、その件はもう決着したから」

「決着って何だよ」

「話し合ったってこと。私のような有能な彼女は、ダーリンとデートしながら解決できるのよ」

「向こうの神さまがかわいそうに思えてきたぞ、なぁ薫?」

「ど、同意したくなるのはなぜ?」

「同意するのはなぜ?」


 正確には、あの地獄見学の間に現地で接触していたという。

 あの宇宙の神は肉体をもたず、――――比較したくないけど初代みたいな存在らしい。他の宇宙に思念体を作る能力はないが、自分の管轄する宇宙ではわりと何でもできるという。ゆうちゃんに言わせれば、井の中の蛙らしい。

 …あ、これは地球のことわざだって。土球にも井戸の中の魚って言い方があるから、ほぼ同じだ。

 ことわざはさておき、ゆうちゃんと向こうの神が同意したのは、あの男の人の管轄が今後はゆうちゃんに移るという点。

 異論がなかった理由が、ゆうちゃんの脅しのせいなのかは、本人が語らないので分からない。ただ、思いつきで宇宙を創造するような神さまは、人類よりも他の神さまが恐怖する対象だと思う。

 なお、男が別の宇宙に飛んだこと自体は、あの宇宙では稀にある現象らしい。その際に知能や言語能力が変化するというのは、向こうの神さまも初耳だった。というより、消えた人間のその後を知る方法はなく、ただ消失した事実を知るだけだという。


「何だか頼りない神さまね」

「薫、ゆうを基準にするなよ。これは神さまなんていうかわいい存在じゃねぇからな」

「そうよー。私は光安を永遠に束縛する女神なのよー」

「そういうのを地獄の悪魔って言うんだ」


 まぁ、余所は余所、うちはうち。交わるはずもない宇宙に、自分たちの価値観を持ち込んでも仕方ない。その代わり、脱した者はこちら側だから、私たちの基準で扱う。私たちというか、あの宇宙の創造神ゆうちゃんの基準で。

 目の前で彼氏といちゃつく創造神は、地球産の凡庸な男子を彼氏とするぐらいに普通の人間だ。だからあの男の人に悪いことはしないだろう。

 とはいえ、宇宙でたった一人生存する人類。扱いに困るのは目に見えている。だいたい、あの人がいる状態でゲームは始められないよね? 精霊と同じ扱いにできるはずないし。


※ということで、最低限のけりはついたので完結扱いにします。いつか続きを書く日はあると思うけど、何せこれを書き始めるまで八年あいたので、いつになるやら。

 当面は美由紀と弘一の話を更新していきますので、どうぞご贔屓に。

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