表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/55

#45 授与式

「イーリス! この服装、おかしくないよね!? ね!?」

「まったく……ランドルフよ、うろたえるでない! そなたは精霊を宿した最強の男であるぞ! もっと、しゃきっとせい!」


 と、うろたえる僕は、イーリスにケツを叩かれながら授与式に向かう。

 軍礼服を着ているが、今日の相手は軍関係ではない。場所はセントバリ王国の王宮、貴族達が整列する中で、僕は勲章と爵位を授与することになっている。

 こういう式典というものは、小学生の時に読書感想文で優秀賞を取り、全校集会で表彰されてしまった時以来だ。あの時は緊張した。少佐に昇進した時にも式典はあったが、周りは知った顔ばかりだし、こじんまりとした司令部の会議場内での式典だったから、たいして緊張はしなかった。だから、僕にとっては小学生のあの時以来の緊張状態である。

 だがその時と比べると、生徒達が貴族に、校長先生が陛下に、賞状と記念品が爵位と勲章になったわけだ。式典の重みが、桁違いに重い。


 貴族街の手前で、僕とイーリスは車を降りて、迎えの馬車に乗り換える。

 王宮というところは、未だに車での乗り入れは認められていない。伝統的な雰囲気を崩したくないようで、馬車での乗り入れが必須だという。

 面倒だなぁ……別にいいじゃないか、車で。でも、それを貴族や王族達に進言する勇気は、僕にはない。


 揺られる馬車の中で落ち着かない僕。一方のイーリスは、落ち着いたものだ。

 淡い緑色のドレスに身を包み、静かに座っているイーリス。元奴隷とはいえ、元公爵令嬢でもある。いや、そもそもイーリスは動じることがほとんどない。肝が座っているというか、何というか。やはり呪術師(シャーマン)だからだろうか? 

 僕はといえば、徐々に見えてくる王宮を見て、緊張で倒れそうになる。大丈夫だろうか、式典終了まで、僕の精神は耐えられるのか? 

 それにしても、この馬車という乗り物は遅い。さっさと王宮に着いてくれないだろうか? じっと座ってる方が、焦らされているようでかえって緊張する。


 ようやく、王宮にたどり着く。馬車の扉が開き、僕とイーリスは降りる。

 衛兵が整列し、出迎えてくれる。その間を僕は敬礼しつつ通り抜ける。

 ここまでは、我々の儀礼が使える。が、一歩でも王宮の建物に入ると、今度はここのしきたりに従わなくてはならない。

 王宮と言っても、建物は一つではない。王都のど真ん中の小高い丘の上の広い敷地に、いくつもの建物が並んでいる。

 最も大きいものは、奥にある「寝宮」と呼ばれる建物。名前の通り、国王陛下とその家族が寝食をする場所である。

 で、今向かっているのは、この王宮の数ある建物の一つで「パレ・ティエンヌ宮殿」と呼ばれる宮殿。式典や社交界といった公式行事に使われる宮殿である。

 そのパレ・ティエンヌ宮殿の大きな扉が開き、我々は中に入る。


 ここから先は、我々の世界ではない。

 ここは伝統的なセントバリ王国のしきたりが支配する、まさに中世そのものの世界だ。


 出入り口付近で、男爵らしき人物が僕らを出迎える。僕はその男爵に右手を胸に当てて、会釈をする。

 イーリスはといえば、ドレスのスカートの裾を持ち上げて腰を下げ、頭を下げる。

 これが、セントバリ王国貴族流の、貴族同士の礼儀作法である。

 イーリスのやつはその動作を自然にやってのける。そりゃそうだ。元貴族だからな。慣れたものだ。

 一方の僕は、なんだかぎこちない。これでも家で練習したんだけどな。

 その男爵に率いられて、赤い絨毯の上を歩く。そして、その奥にある大きな扉が開かれる。


 うわぁ……なんだここは……


 き、貴族で、いっぱいだ……


 まさにそこは、中世貴族がずらりと並んだ広間だった。きらびやかな礼服に身を包んだ貴族達が、中央の赤い絨毯を挟んで並んでいる。


「バーヴァリス準男爵、ランドルフ様! ご入場!」


 入り口に立つ衛兵が叫ぶ。僕とイーリスは、その間を歩く。

 皆、こっちを見ている。もはや、小学校の集会などと比較している場合ではない。僕にとってはまさに異次元ともいうべき世界、背中に、変な汗が流れているのが分かる。

 が、表情一つ変えずに歩く。すぐ後ろをついてくるイーリス。ここではまだ、男尊女卑がまかり通っている世界。女性は後ろに控えめについていくのが礼儀だ。

 そして、僕は壇の前にたどり着く。そこで右手を胸に当てつつ、左足をひざまずき頭を下げる。


 壇上には国王陛下がおり、その右脇には側近であるヴィルアルドゥアン公爵がいらっしゃる。

 そのヴィルアルドゥアン公爵に耳打ちされる陛下。そして左脇に立つ貴族が、巻かれた羊皮紙と勲章を公爵閣下に手渡す。

 うーん、ますます中世だなぁ、ここは。強いて言えば、この会場を照らしているのが電灯であることが、唯一現代らしいところだ。


 そして、壇上からヴィルアルドゥアン公爵が壇から降りて、僕の前に立つ。

 そして、手に持った羊皮紙を広げる。


「バーヴァリス準男爵、ランドルフ!」

「はっ!」

「貴殿の戦場での活躍ぶりを称え、陛下より準男爵号、およびティエンヌ第一等勲章を授与する!」

「はっ! 謹んで、お受けいたします!」


 僕はゆっくりと立ち上がる。立ち上がった僕の胸に、勲章をつける公爵閣下。


「これより先は、そなたは誇りある王国貴族の一人であるぞ。精進致せ」

「はっ! ありがたきお言葉、感謝いたします!」


 僕は、再び丸められた準男爵号授与の証である、その羊皮紙を受け取る。

 おっと、ここで思わずいつもの敬礼するところだった。羊皮紙を受け取った僕はぎこちなく右手を胸に当てて、深々と頭をさげる。

 その瞬間、大きな拍手が起きる。たったこれだけのやりとりだが、なんとかこのイベントを乗り切った。

 イーリスは終始、すぐ後ろでひざまずいたまま待機していた。僕はその場で振り返り、イーリスを伴って赤い絨毯の上を歩く。

 そして、並び立つ貴族達の末席に立つ。イーリスはその後ろに控える。


「此度の勝利は、まさに国王陛下のご威光の賜物である! 我ら王国貴族は……」


 ヴィルアルドゥアン公爵が、陛下を讃える言葉を述べられる。うーん、残念ながら今回のあの戦いの勝利は、僕の後ろに立つイーリスのおかげなんだけどなぁ。でもまさかここで「精霊のおかげ」などと言うわけにはいかない。なにごとも、陛下のおかげ。ここは、そういう国だ。


 で、式典が終わり、僕とイーリスは宮殿を出ようとする。そこに、一人の貴族から声をかけられる。


「そなたが、あの40人を倒したと言うバーヴァリス準男爵か」

「はい、左様です、閣下」


 といっても、相手が誰なのかわからない。王国貴族は全部で100名以上。たった今、その末席に加わったばかりの僕に、分かるわけがない。

 成り上がりの新参者貴族をなじる貴族が現れるというのが、よくある歴史ドラマでの展開だ。僕は思わず身構える。


「私はルテル男爵、ヴァレールと申す。いやあ、勇猛果敢な活躍をされた貴殿に出会えるとは、嬉しい限りだ」

「はっ! お褒めに預かり、光栄であります!」


 ……なんだ、意外とフレンドリーだったな。てっきりなにか嫌味の一つでも言われるものかと思った。


「我が祖先も、昔は武勇で名を馳せたものだが、いまは時代が変わった。地上から争いがなくなり、戦いの場は宇宙に移ってしまった。我が次男も先日、軍に加わったばかりだ。そやつもかように活躍できると良いのであるがな」


 随分と親しく話しかけるお方だ。ルテル男爵ヴァーレル様、今後のために覚えておこう。

 にしてもややこしいな、ここの貴族は。どうして名前が2つもあるんだ? ルテル男爵にしても、「ルテル」という呼び名が姓というわけではない。

 例えば、ルテル男爵のフルネームは「ヴァーレル・バイヤール」というそうだ。「ルテル」という呼び名はあくまでも男爵号の前に着く名前。

 僕のフルネームは「ランドルフ・アスペルマイヤー」という名前であり、決して「バーヴァリス」が名字というわけではない。だが、貴族からは「バーヴァリス準男爵」と呼ばれることになっている。なお、イーリスの場合は「イーリス・ユングリアス」で、イリジアス王国での身分はユングリアス公爵家の令嬢。姓がそのまま貴族名になっており、こっちの方がわかりやすい。ちなみに今のイーリスは僕と結婚して「イーリス・アスペルマイヤー」となっている。


 おかげで、一人の貴族の名前を覚えるのに、名前と姓と貴族名を覚えないといけない。なんてややこしい風習なんだろうか? バルナパス中将も、このややこしさに嘆いておられた。その気持ちはよく分かる。

 で、しばらくルテル男爵と雑談をしたのちに、ようやく僕らは帰路につく。


 ああ、やっとあの緊張から解放された。胸には大きな勲章が、そして手には準男爵号の証である羊皮紙を握っている。

 貴族街を出たところで、車に乗り換える。王宮から車の乗り場までが20分、そこから自宅までが3分。もう、さっさと車に変えてしまえばいいのに。そうすれば今ごろはもう、家に着いているだろう。


 自宅に帰ると、家の前には2人の人物が立っていた。

 それが、エーリク少尉とヘルヴィさんだということは、すぐに分かった。だが、わざわざ自宅の前で待っているのだろうか? 


「あ! 少佐殿!」


 車を降りるや否や、エーリク少尉が僕に声をかける。


「どうした、少尉」

「はっ! 少佐殿に急ぎ、伝えねばならないことがありまして……」


 2人とも私服だ。そりゃそうだ、今はあの戦闘後に与えられた、3日間の特別休暇中だ。だが、休み中に僕に用事とは一体、なんだろうか? 


「艦長、ついに起こったんですよ! 私にも、あの異常現象が!」


 それは、突然のことだった。エーリク少尉のあれが、発動したという話が飛び込んできた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ