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めでたしめでたしですか、ですよね、そうだと言って~っ!

「ねえねえ、イラジャール様?」


 私は、隣にいたイラジャール様のマントを掴むと、彼は、何だ?と言うように顔を向けた。


「これ、見て下さいよ!これっ!」


 私は口を尖らせながら、目の前の銅像を指さしてみる。男女の立ち姿を模した銅像の足元に、プレートが収められている。曰く、


『創造神 イラジャール、そして、その伴侶である女神 ルーファリス』


 私たちは『ちょっと前』に様々な事情が重なって世界の管理者から神様になった。だからプレートは良いんだけれど、銅像がアメコミチックなのが、ものすご~く気になる。


「イラジャール様、逆三角形ボディで筋肉ムキムキになってますよ~」

「そういうお前は、ありえないほど腰が細いな」


 きっとこの銅像を作ったのは男性だろう。断言しても良い。重力に逆らうミサイルおっぱいに、内臓の存在を無視したウエスト、どんな骨盤だよと突っ込みたくなるむっちりヒップ。うん、どこをとっても男の理想が詰め込まれているが、女の理想ではない。こんな超絶!砂時計体型で着られる服など前開きドレスくらいだっつーのっ!!


 どうしてくれよう?と考えあぐねていると、背後から、男性の泣き叫ぶ声が響く。


「ジッ、ジジ様ああああっ!ババ様ああああっ!」


 声の主を振り返ると、つるつるの頭をした老人が高速で杖を繰り出しながら走ってくるところだった。その後ろから大勢の神官たちもラクシュを心配して着いてきている。


「ラクシュの奴、あんなに走ったら転ぶぞ」


 苦笑しながらもイラジャール様が玄孫やしゃごのラクシュに駆け寄っている。私は、どうしても気になる銅像をちょちょっと『修正』してからラクシュの元へと向かった。


 後日、いつの間にか銅像が変わっていて、創造神の奇跡!と評判になったとかならないとか。




 ラクシュは、シルファード王国にある神殿本部の大神官様だ。一番偉いらしい。尤も、ラクシュ曰く、ただの年寄りだからとか。イラジャール様と私が不老不死の世界の管理者だからか、時折、血縁者の中で飛びぬけて長寿の子が生まれる。


 目の前にいるラクシュは、258歳。長寿の子供たちの平均寿命は300歳だからあと50年ぐらいは生きられるだろう。こうした長寿の子供たちは、100歳を過ぎると自動的に大神官の地位が用意される。神官というと幼い頃から勉強というか修行をしなくて良いのかと首を捻りたくなるが、そもそもの成り立ちが既存の宗教とは異なるから構わないらしい。


 この神殿、先ほどの銅像からも分かるように、そもそもは世界の管理者たるイラジャール様の記録を管理していたところから始まっている。王国が落ち着いた頃、イラジャール様と私は宣言通り、冒険者となり、世界中を巡り歩いた。


 その序に世直しというか、正義の味方をやったりしたら、いつの間にか偽物が現れるようになった。曰く、イラジャール様というかハクの格好をして、助けてやるから金を出せ的な感じ。それがイラジャール様の耳に入り、勿論、悪い奴らはこっぴどい目に合わせたけれど、そこからイラジャール様が助けたんだよ~という証明を残すようになり、その印というか記録が徐々に王国の中枢へと集まり、人々が自分の願いもかなえて欲しいと王宮へ押しかけた。


 辟易した時の陛下は、世界の管理者の奇跡を管理し、かつ願いを申請する場所として神聖な神殿を作ったのである。あ、別に駄洒落じゃないよ、うん。全然。ぶふっ。そんなこんなで、神殿なら神様がいないと!という展開になり、結果、イラジャール様は創造神と呼ばれるようになり、序に私も、おまけ的な感じで女神となってしまったのである。とほほ。




 あれから、というと、どれからだ?!と突っ込みが入りそうだけれど、前ページから何と1千年の時が経った。その間、文字通り色々なことがあった。イラジャール様と結婚し、子供たちが生まれ、その子供たちも見送った。勿論、シャヒール様やカマリ様、タラ、クシュナ、ウパニ……みんなみんな見送った。でも、寂しくはなかった。


 だって、みんな、幾度もこの世界で転生を繰り返しているから。昔みたいに言葉を交わすことはないけれど、それでもみんなが、いつの世でも元気で幸せに暮らしていると分かっているから、寂しくはない。それに、イラジャ―ル様だけは変わらず傍にいてくれるから、ね。


 長い時の流れを歴史的な観点からみると、ルファード王国の要だった陛下が御年57歳で崩御された。前世を通じて偉大な方だった。あまりに偉大過ぎるために、後を継いだ王太子は陛下の跡を踏襲するだけで精いっぱいだった。


 そして、王太子の次の代が、さらにボンクラだった為に民衆の憤懣が爆発し、王族と貴族制度が廃止された。ナトゥラン家も家名は残っているが、もう公爵家ではない。家制度から解放された子孫たちは、冒険者になったり、商人になったり、アーティストになったり、思い思いの人生を送っている。


 彼らは、平均的な寿命の持ち主だから、既に10数代の時が経ち、私たちとは殆ど交流がない。それでも、血族のことだから誰がどこにいるかは把握しているけれど、親しい身内となるとラクシュくらいなものだった。


 神殿の外まで迎えに来たラクシュは、いつも通り、祭壇の奥、神殿の最奥にある執務室へと私たちを連れてきて、自らお茶を入れてくれた。うう~ん、流石に神殿だからか最高級のお茶だったりする。苦味は控えめで甘みが強く、ほんのり海の味がする。


 久々に最高級茶を堪能していると、ラクシュがにこにこしながら隣に座った。この子は、子供の頃から変わらない。いつでも微笑んでいて怒ったことなど一度もない。長寿だから穏やかなのか、それとも穏やかだから長寿なのか。それでも、笑顔の裏には、親しい身内を亡くした悲しさはあるのだけれど。


「ジジ様ッ、ババ様ッ、今回は暫く逗留されるのでしょう?!」

「そうだな。調印式があるからゆっくりするつもりだ」

「良かった~っ!チェックしてもらいたい書類が山積みなんですっ!」


 書類というのは、イラジャール様が行った奇跡かどうかのチェックですね、ええ。毎度のことで、ラクシュには迷惑かけます、ほんとに。奇跡っていっても、私たちが行うのはそれほど多くない。大抵は、仮の姿に変身して、相手に気付かれないようやってるから。


 けれど、どうしても今後の為にも正体を明かさなくちゃダメな時ってあるのよね。故に、類似品というか偽物もなくならない。結果、ラクシュが書類仕事に悩まされるという訳だ。


「失礼します」


 ラクシュが許可した後、執務室のドアが開き、30代半ばと思しき男性がワゴンにプティフールやサンドイッチなどの軽食を乗せて入ってきた。


「ジジ様、ババ様、紹介します。この子は、アーナンド。先月、大神官となりました」

「アーナンド……ああ、ヴィマルとルクマの子だね」


 アーナンドは、驚きで大きな瞳を見開いた。そりゃあね、血族は全てそらんじているし、中でも100歳になりそうな子は大神官になるのだから特に印象深く、忘れるはずもない子供だった。大神官になる長寿の子は、ゆっくりと歳をとっていく。


 アーナンドも見かけは30代だが、実年齢は100歳だ。否が応でも自分が長寿であることを痛感して、時に苦しみながら生きてきたはずだ。長い過去の中では、己の長寿を苦に軍隊へ入り、最前線で若くして命を散らした子もいた。


 幸い、ここ数百年は戦争もなく、穏やかな暮らしが続いているからアーナンドにも悲壮感は感じられないけれど、それでも身内を見送ったのだから辛い思いをしたはずだ。しかも、これから先、ラクシュを見送る立場でもある。


「辛いことがあれば、いつでも呼んで。心の中で名前を呼んでくれれば、世界中、どこにいてもかけつけるからね」


 私の言葉に、アーナンドは、もう一度目を見開いた後、うるんだ瞳でにこっと微笑んだ。




 それから2日後、神殿の大広間で調印式が大々的に執り行われた。何の調印式かって?決まってる!あれから1千年の時が経過したのだ。かつて、私とイラジャール様が宣言した歳月が流れ、調印式をもって晴れて魔獣族と人族との邂逅が再開する。


 今やこの世界が別の世界で開発されたゲームに端を発していたことなど、都市伝説の一部として残っているだけだ。仮に、確証を得ている者でも、歴史的な事実の認識があるだけで実生活に変化を及ぼすことはない。


「これを以って、人族と魔獣族の蟠りを取り除くとする!」


 現在の人族の長と竜王がサインした協定書を掲げ、イラジャール様が宣言をする。同時に人族と魔獣族の頂点に立つ2人が固い握手を交わした。竜王の後ろでは竜王の番である人型をとったブラックドラゴンが控えている。だが、彼女はもうマハシュではない。マハシュは、800年ほど前にドラゴン同士の諍いに巻き込まれて命を落とし、つい300年ほど前に復活したばかりだ。


 勿論、昔の記憶はカケラもなく、私のことも覚えていない。少し寂しい気もするが、人族の魂に歪められることなく、純粋にドラゴンの本能に従い、竜王に愛されたブラックドラゴンは生き生きとして、可愛らしかった。


 さて。懐かしい思い出は、この辺にして新しく始まった協定が守られるかどうか暫くは監視が必要だろう。今回の約定には、いくつか重要な規定が盛り込まれている。


 1つ。かつて制定した時と同様、魔獣の核を利用しない、利用できないというもの。ギルドでの売買は勿論、持ち歩くのも許されない。売買できるのは、その個体が持つ肉体だけとなる。


 2つ。各自の国へ殺害目的で入国しないこと。1千年の間、竜王は北の方に広大な魔獣国を作った。その成り立ちも、様々な紆余曲折があり、当然のことながら魔獣に扮したイラジャール様と私も介入している。その魔獣の王国と人族が住む国では狩りは言う間でもなく、乱闘もご法度となる。それぞれの国に住む弱い個体を守るための措置だ。


 3つ。戦いの場は、人族の暮らす大陸の南側と魔獣族の暮らす北側の中央に位置する広大な砂漠地帯をバトルフィールドとすること。その砂漠と隣接する地域に休戦地区を設け、戦闘で負傷した場合に手当を受けられるように手配した。


 過不足はないか、1年ほど前からマナーの良い冒険者たちと魔獣族にバトルフィールドと休戦地区を使わせているが、なかなかに評判は良い。特に休戦地区では治療のみならず、レストランやバーなどの飲食を楽しむ店や衣類や日用品などを購入する店も増え、ちょっとした繁華街になっている。


 さらには、意気投合した人族と魔獣族が番うこともあり、意図したわけではなかったが、かつてのゲームと同じような展開になっていた。とはいえ、今はまだ実験段階。今後はならず者たちにも開放されるわけで、遠からず厄介ごとが頻発すると踏んでいた。


 そうなればイラジャール様と私の出番だ。適当な冒険者や魔獣に扮して騒動を収める。それが世界の管理者の役割だからだが、それでも昔取った杵柄ではないが、わくわくする気持ちを抑えることは出来なかった。ちらりと隣を見れば、今やすっかり聖騎士ハクの姿になっているイラジャール様と目が合って、にんまりと笑われた。


「ルーは、アニラ?」

「うん。一番楽だから~」


 流石に、イラジャールとルーファリスのままだと神様だと一発でバレる。故に、諸国漫遊する際は基本、ハクとアニラ、もしくは、トバリで行くことが多い。まあ、トバリで行っても良いんだけど、今回は休戦地区の調査もある。魔獣族と人族の間で、どれくらいのカップルが成立しているのか、子供が生まれたケースもあるのか、など。


 そういうデリケートな調査には、ぶっちゃけトバリは不向きだからアニラの扮装をしている。決して、新しくできたスイーツが目当てなわけじゃないからね。うん。


「それじゃあ、新しい冒険に出発するか?!」

「うんっ!!れっつらごーっ!!」


 2mほどの長身を屈めたハクは、小柄なアニラをひょいっと片腕に抱えて歩き出した。永遠に続く新しい冒険へと向かうために。


ルーファリスとイラジャールのお話は、ここでおしまいとなります。いつか、イラジャ―ルとルーファリスの番外編を書きたいですね。ほのぼのした日常のお話とか。最後までお付き合いくださいました皆様に、心からお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。

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