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第5話 フラン その後

最終話になります

ダリル様と婚約した私。

未来の侯爵夫人になる自分を想像したら、わくわくする!

 

早く結婚したいなあ……。

 

なんて考えていたら、ローザの兄が留学先から戻ってくるなり、私に暴言を吐いた。

 

人の婚約者を奪うのは泥棒だとか、さっさと出ていけとか、本当にひどい!

ダリル様を簡単に奪われるローザに魅力がないだけで、私のせいじゃないのに。


まあでも、ダリル様のお屋敷に移り住めたから良かった。

だって、伯爵家よりずっと立派なお屋敷で、お部屋も豪華だし。

まるでお姫様になったみたい!


これから、遊んで暮らせると思ったら、すぐに家庭教師がつけられた。


まずは、試験をされた。

質問の意味もわからなかったけれど、男の子の声のとおりに答えていたら、家庭教師が褒めてくれた。


ただ、礼儀作法やダンスは実際の動きがあるので、うまくいかない。


でも、「フラン様は申し分ない知識をお持ちですから」という家庭教師の言葉で、ダリル様の母の侯爵夫人は何も言わなかった。


が、ここで面倒なことがおこった。


ダリル様の弟のカイリだ。

ダリル様以上の美しい容姿で、見た目はまるで天使。

なのに、性格が悪い。


だって、私に、こう言ったんだから。


「悪いけど、君が家庭教師のいうような知識のある人間には思えないんだよね。ほんと、兄上ってバカだな。まあ、兄上に、ローザさんはもったいなかったんだけど。あーあ、僕が嫡男だったら、ローザさんと婚約できてたのに……。君って何か隠してそうだけど、せいぜい、本性がばれないようにね?」


ぎくっとした。あなどれない。

私はあれから、カイリを避けるようにした。


最初はうまくいっていた。


それなのに、時間がたつにつれて、男の子の声に教えてもらう「答え」しかわからない私を、侯爵夫人まで不審そうに見るようになった。


「あなた、いつ、勉強しているの? 本を読んでいる様子もないのに」

と、侯爵夫人に言われた。


だから、しょうがなく、全く興味のない本を読むふりをする。

本当は買い物をしたり、遊びたいのに! つまらない!


でも、ダリル様が侯爵を継いだら、私は侯爵夫人になる。

そうなったら、贅沢し放題だから、今だけ我慢……。 


だって、田舎に帰ったら、ロバートと結婚して、つまらない一生を送ることになるもん。

そんなの絶対に嫌!


そんな日々が続き、1年がたったころ、予定を早めて私たちは結婚をした。


が、それを機に、私たちは侯爵家の別邸に移された。

侯爵家を継ぐのは、優秀なカイリに変わったそう。


「どういうこと!? 話が違うじゃない!」


叫ぶ私に、ダリル様がうっとうしそうに言った。


「話が違う? おまえを選んだせいで俺は侯爵になれないんだ! 俺は、おまえの嘘くさい泣き顔に騙された。あー、やっぱり、ローザが良かった……」


「はあ? ローザ? なに言ってんのよ!」


ローザへの未練を語りだしたダリル様と私は喧嘩ばかりするようになった。


ダリル様は遊び歩くようになり、あまり帰ってこない。

別邸は閑散として、最小限のメイドたちに会うだけ。


私、捨て置かれているみたいじゃない!?


こんなことなら、ダリル様を見限って、まだ婚約者のいないカイリに取り入るしかない。

あなどれないけれど、男の子の声に聞けば、なんとかなるだろう。


そう思って、はっとした。

最近、あの男の子の声を聞いていない。


誰もいない宙にむかって、話しかけてみる。

が、声は聞こえない。


さあーっと血の気が引いた。

あの男の子の声が聞こえないのに、私はどうやって、この状況をのりきればいいんだろう……。


そう思った瞬間、気持ちが悪くなって意識が遠のいた。



気が付くと、ベッドに寝かされていた。

目覚めた私に、侯爵家のお抱え医師が妊娠を告げた。


私は、思わず声をだして笑いだした。

だって、挽回のチャンスがきたんだから!


カイリには婚約者すらいない。

たとえ、ダリル様が跡取りではなくなったとしても、私が子どもを産んだなら、侯爵夫妻も喜んで私を認めてくれるはず。

つまり、この子を使って、私はこの侯爵家で力を得られる!


その時、ふと思った。


男の子の声が聞こえなくなったのは、妊娠したためなのかもって。

つまり、この先、私は安泰ということ。

もう、神様の声が聞こえなくても大丈夫なんだ!



そして、子どもが無事に生まれた。男の子だった。

ダリル様が顔を見たら名前が浮かんだと言って、アルスと名付けた。


予想通り、侯爵夫妻は大喜びし、意外なことに、ダリル様も喜んだ。

そして、ダリル様は遊び歩かなくなった。

子どもはかわいいみたい。


しかも、あのカイリまで、子どもに沢山の贈り物をくれ、祝ってくれた。

これで、すべて上手くいく。


今日は、アルスのおひろめのパーティーが開かれる。

なんと、カイリと仲の良い王太子様まで来られるそう。


私は豪華なドレスを着て、天使のようなアルスを抱き、女王様のように、ふかふかの椅子に座った。

夢見ていた以上の自分になれたことに、気持ちが舞い上がる。


私はアルスを抱いたまま、王太子様のお祝いの言葉を聞く。


その時だった。

眠っていたアルスの目がぱっちりと開いた。


「ねえねえ、いいことをいっぱいおこしてあげたら、あそんでくれるんだったよね? だから、今度はぼくの番。フフ……。なにしてもらおうかなあ?」

と、あの男の子の声でしゃべったアルス。


私は悲鳴を上げて、手のなかのものを放り投げた。



アルスは王太子様に受け止められて無事だった、と私を診察する医師に聞いた。

 

あの時から、この医師と、私の世話をするメイド以外には会っていない。

心を病んでいると診断されて、ひとりで部屋に閉じ込められているからだ。


私は、あの男の子の声が聞こえないように耳をふさいで、過ごしている。

何を頼まれるかと思うと、怖くてしょうがない。


私は後悔している。

 

ダリル様をローザから奪わなければ良かった。

そもそも、王都へでてこなければ良かった。

いや、男の子の声を頼りにしなければ良かったと……。


 

   (了)




読んでくださった方、本当にありがとうございました!

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