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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
2章
58/142

50 ごめん

更新またまた遅れてしまいました。ごめんなさい!

「こちらがクリュー様のお部屋になります。何かご用でしたら、なんなりとお申し付けください」



 そう言うと、クリューを客室まで案内してくれたメイドは一礼して音もなく扉を閉めた。フィデルたち以上に幼い子供の見た目のクリューにも礼を欠かなかったメイドに、クリューはなぜか懐かしさを覚える。数年前、フィデルに正体を隠して魔法を教えていたときとは違う人間なのにそう思うのは、この屋敷の雰囲気のせいだろうか。そんなことをぼんやり思いながら、クリューは扉の鍵を閉めた。



「転生者、かぁ。久しぶりに見たな」



 ぽつりと呟いた自分の声が思っていたよりも間抜けに聞こえて、クリューは苦笑した。本当は荷ほどきなんて後でも良かった。ただ少し、考えたかったのだ。

 シェリアが転生なんて関係ない、ただの人間なら。いや、別に普通の人である必要はない。転生者でも記憶なんて持っていなかったら、ただ弟子の婚約を祝福して、彼女に魔法を教えて、それだけで終われたのに。

 そんなことを思って、クリューは再び笑う。苦笑というには苦すぎる、子供のこの姿には似合わないそんな笑みで。

 もしもを想像して祝福なんて言いながら、実際にはその幸せを壊すことしかできないのに。



「ごめんね、フィデル」



 クリューは少し窮屈な人の子の姿のままベッドに横たわり、この部屋にはいない弟子に届くはずもないと知りながら、小さくこぼした。








「じゃあ今から、シェリアの特訓を始めます!」



 魔法を使えない者の特訓とは思えないほど明るい宣言にシェリアはぱちぱちと拍手した。隣ではフィデルが呆れたような顔で見守っている。



「シェリア、ノリいいね!」


「リア、こいつの茶番に付き合わなくてもいいんだぞ」



 その場の流れで拍手をしただけだったのだが、フィデルはなぜか頭が痛いという風に額を押さえた。



「もうクリューに毒され始めてるのか......」


「どういうこと?」



 フィデルの言葉の意味がわからず、シェリアは首を傾げる。そんなシェリアに何事か説明しかけたフィデルを、クリューが遮った。



「まあまあ、とにかく、シェリアは魔法を使ってみてくれる?」



 魔法。その言葉を合図にシェリアに緊張が走る。杖を掴む手が震える。その特訓の為にクリューは来てくれたのだから、当たり前なのに。どうしても、怖いと思う気持ちが消せない。目を閉じると、思い出してしまう。自分に襲いかかってきた光を。



「リア、リア!」



 肩を掴んだフィデルに揺さぶられて、はっとシェリアは我に返った。気がつくと、杖は的に向いていることはおろか、掴むことすらできていなくて地面に落ちてしまっている。



「これは......大分ひどいね」



 わかってはいたが、クリューにもそう言われてしまうと落ち込む。シェリアはうつむきながらも、無意識に震えてしまう体を落ち着けようと深呼吸を繰り返した。



「クリュー、なんとかできそうか?」


「うーん、たぶんなにかがトラウマになってるんだと思うんだけど。そのなにかがわからないと、どうしようもないなぁ」



 深呼吸しても、体の震えは収まらない。そんなシェリアにクリューはとことこと寄ってきて、震える手を掴んだ。そこからクリューの体温とも違う熱が、じんわりとシェリアを癒していく。



「シェリア、もう大丈夫?」


「はい、今のは......?」



 気がつくと震えは収まっていて、よく眠ったあとのような穏やかな気持ちが、恐怖を打ち消していた。



「うーん、僕の必殺技?」


「ただの治癒魔法だろ」



 なぜか疑問形で言ったクリューにフィデルが突っ込む。ちゆまほう、と口の中で呟きながら、シェリアはクリューに握られていた方の手を閉じたり開いたりしてみた。



「あれ?でもそういえばクリューさん杖を持ってなかったような」


「ちょっと特別な事情があってね。それよりも、シェリア」



 ふざけていた空気が消えて真剣になったクリューに思わずシェリアは背筋を伸ばす。



「なにか魔法で怖かったことはない?例えば、魔力が暴走したことがあるとか」


「特には......」


「そっか。じゃあ、魔法で攻撃されたりとかは?」



 攻撃、という言葉に思わずびくりと震えた。なぜそんな反応をしたのか、自分でもわからないのに、体が訴えかけるような。怖かったのだと、心が怯えているような。



「あたり、かな。でも普通に魔法を打ち合ってた程度だったら、こんなことにはならないよね。命を狙われた、とか」


「まさかあのときの」



 クリューの言葉にはっとしたようなフィデルが顔を覗き込んで来たときには、シェリアはもう限界だった。正しくいうと、シェリアの体のような、心のような、自分でもわからない部分が限界だった。ぽろぽろと大粒のしずくが頬を流れていく。



「リア、なんで泣いて」


「わかんない、わかんないけど、なんだかすごく怖いの。フィーが守ってくれたはずなのに、すごく」


「フィデル、あとで事情は聞くからね」



 クリューは困ったようにそう言い残すと、練習場を出ていった。シェリアは子供のような拙い言葉を紡いで泣くことしかできない自分をみっともないな、と思うのに、やめることはできなかった。フィデルは幼い頃から何度もそうしてくれたように、シェリアを抱き締める。好きなだけ泣いていいというように。



「気づいてやれなくてごめん。クリューなんか呼ばなくても、俺が一番に気づけたはずなのに」



 シェリアはゆるゆると首を横に振るが、涙は止まってくれない。言葉にはならないのに、怖いと叫ぶ代わりのように泣いてしまう。



「ごめんな、リア」



 困ったような、気づかなかった自分に苛立っているようなフィデルの声だけが、耳に響いていた。

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