51 事情と代償
「さあフィデル、ちゃんと全部事情を説明してもらうよ。心当たりはあるんでしょ?」
幼い少年の姿なのになぜか迫力のある声で、クリューはフィデルに問いかけた。部屋にはしっかりと結界を張ったので、クリュー以上の魔力を持つ者が結界を破らない限りは、二人の会話が誰かに聞かれることはない。そしてクリュー以上の魔力を持つ者、なんてこの世界に数人しか存在しない。
「心あたりというか、なんというか」
よほど言いずらいことなのか珍しくフィデルが口ごもる。煮え切らないその態度に、クリューは頬を膨らませた。
「全く、フィデルはシェリアを助けたくないの?」
「そんなわけ!」
「なら、僕に話すのが一番だってわかってるでしょ?」
少し高飛車にも聞こえるこの言葉だが、紛れもない事実である。シェリアは普通じゃない。魔力量などの意味でも、それ以外でも。それにこのフィデルの反応を見る限りでは、シェリアに起こったことも普通ではないのだ、たぶん。となれば、もう普通の『人間』に対処できることではない。
「フィデルが話さないなら、少し酷だろうけどシェリアに聞くよ」
「わかった、話す、話すから」
勘弁してくれといった風に額を押さえて片手をあげたフィデルにクリューは内心ほっと息をついた。正直あれほど怯えているシェリアに直接聞くのは、やはり心が痛むので避けたい。
「どこから説明したらいいのか......」
そう言いつつも、他言無用だと前置きした上でフィデルが語ったのは、クリューの想像を遥かに越えた出来事だった。
「じゃあ、こういうこと?シェリアは誰かに唆されたメルディアとかいうのに唆されたバカに禁術をかけられて、その人たちは捕まったけど、禁術のことを知ってる誰かに誘拐された。そのときにフィデルが無理矢理解呪したけど、メルディアがまたシェリアを狙った。それも直接的に」
身も蓋もない言い方かもしれないが、ややこしい話をまとめるとこうなる。まあここまで状況が複雑だと、シェリアがトラウマになるのもわかるし、フィデルが話すのをためらうのもわかる。けれどひとつ言いたい。
「それだけのことがあって、よく生きてるね?シェリア」
「俺もそれは不思議だ」
いや不思議なんてものじゃないだろう、とクリューは思うがそれは口に出さない。それよりも気になることがあった。
「シェリアはほとんど消えかけてたんでしょ?それを完全に解呪したんだったら、代償も大きいんじゃない?」
大きな呪いは、かけるのにも解くのにも代償が必要になる。それも完成しかけていたものを強制的に解いたとなればなおさらだ。強い呪いがなんの代償もなしに解けるほど、世の中甘くない。
「まあ、魔力は大量に喰われるな」
「今残ってるのはどれくらい?」
「リアくらいか、それより少ないかもしれない」
苦笑しながら言うフィデルにクリューは呆れてため息をついた。フィデルの魔力は、さすがに人でないクリューには及ばないとしても、それに迫るくらい多い。それに比べて、シェリアはかなり少ない方である。ということは、フィデルの魔力は恐らく彼でなければ命に関わるほど喰われているはずだ。それも毎日。
「リアには言うなよ、まだばれてないんだから」
「フィデルは本当にシェリアが好きだね、昔から」
クリューにはなぜ他人のためにそこまでしようと思うのか、正直理解できない。が、別に人の価値観を否定しようとも思わないので、苦笑するだけにとどめた。
「でもシェリアはなんとか誤魔化せても、さすがに他のやつらは困るんじゃない?上級魔法を使えって言われたらすぐばれちゃうよ?」
「まだ誰にもばれてない」
まだ、ということはそのうちばれる可能性があることにフィデルも気づいているのだろう。けれど、これといった対策もできないことを苦い表情が示している。
「僕が消してあげようか、代償」
「お前はお前で貢ぎ物がないと、そんな大規模な魔法は使えないだろ。四大聖獣さま」
「貢ぎ物はシェリアでどう?」
「ふざけるな」
クリューはけっこう本気でそれもいいかな、と思っていたのだが、尋常じゃない殺気を放つフィデルに断られた。
「とにかく、リアの魔法が使えない原因がわかったなら、なんとかなりそうか?」
「うん、たぶん大丈夫」
そう告げるとクリューは結界を解除して席を立った。
「じゃあ、またね」
軽く手をあげて部屋を出る。フィデルには断られてしまったが、彼女なら恐らく。クリューはそう思って少し胸が痛むのを感じたが、気づかなかったふりをした。




