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Ep.4 気付けない油断

「どこか出かけるの、リーシェ?」

 次の日の朝、寺院の外へと出かけようとするリーシェを呼び止めたのはサン・クール寺院の守門ポーターであるフェッロだった。

 白く、目にかかるほど長い前髪の下から、彼は紫がかった灰色の瞳を覗かせる。その目は、どこかぼんやりとしていた。

「はい。今日もお祓いの依頼を受けまして」

「リーシェさん、顔色が良くないですよ?」

 心配そうな顔をするのは、孤児院の管理者でもある、寺院の修道女のビアンカ。

 緩くウェーブの掛かった金髪に、白を基調とした修道服に身を包んだ、緑の穏やかな目をした女性だ。

 心優しい彼女は、どこまでも他人を気遣う性分だった。

「そうですか? きっと、気のせいですよ」

 体は丈夫だと思っていた。滅多に体調を崩した事はない。

 大丈夫だと言うように、リーシェは微笑んだ。

「くれぐれも、体調には気をつけてくださいね」

「あまり無理はしないほうがいいよ」

 そう、ビアンカとフェッロに気遣われたはいいものの。

「では、行ってきます」

 リーシェは二人に背を向けて、寺院の門を出た。このとき、彼女は頭にどこか違和感を感じていたものの、気のせいだと思っていた。

 外の景色は、今日も変わらない。だが、風が強く吹いているらしい。

 真っ直ぐと前を見据えて、リーシェは今日も依頼へと向かう——。


 ◇◆◇


 それから、リーシェは歩き続けた。ただ、依頼先の幽霊屋敷に向かうために。

 地図を見て、行くべきルートは把握してある。あまり遠くはない筈だ。

 だが、どうしてか道のりが果てしなく長いような気がしていた。

 リーシェはただ、早く屋敷に到着しなければとしか考えられなかった。

 何故だろう、なんとなく、頭がぼうっとする。嫌な予感が止まらない。

 それでも、依頼を破棄するなんてことは出来ない。依頼人を裏切りたくはないから。

 そんなことを考えながらリーシェがひたすら前へと足を進めていた、そんなある時。

 もう、駄目かもしれない。

 そんな諦めの言葉が脳裏によぎる。目の前が真っ白だ。

 ここで足を止める訳にはいかないと、脳裏の言葉に対抗しようとした。

 だが、その努力も虚しく。知らないうちに、リーシェの膝の力は抜けていた。

「リーシェ、大丈夫?」

 誰かが自分を呼ぶ声を聞いた。少女の声だ。

 同じような声を持つ少女を二人知っているが、彼女は——。

「アイリスちゃん?」

 うすぼんやりと目を開けて、リーシェは目の前の人物を確かめた。

 彼女はティル・ナ・ノーグ公お抱えの天馬騎士団に所属するアイリス。リーシェと二つ下の17歳であったが、凛とした印象の、しっかり者の少女だ。声の正体は彼女の双子の妹・クラリスであるかもしれないと思ったが、どうやら違ったらしい。

 アイリスは街の巡回の最中、といった所だった。

「すごい熱だよ。早く施療院に行かなくちゃ」

 熱——ああ、道理で気分が優れなかったのね。

 リーシェは、アイリスの指摘ではじめて自身が熱を出している事に気がついた。

 クレンとの契約に課された条件で、温度を感じる事が出来ないからだ。この代償が裏目に出たと感じたのは久々のことであった。

 完全に油断していた。無理をしていることに気がつかないなんて、本当に考え無しだ。

 そんな自分を嘲笑したい訳ではない。ただ、悔しかった。

「リーシェ、立てる!?」

 アイリスの言葉を受けて、リーシェは立ち上がろうとした。せめて施療院までは自分の足で歩こうと。けれども、足は言うことを聞いてくれなかった。

 そのまま、彼女の意識は闇に溶けてゆく——。

今回の更新分で、以下のキャラクターをお借りしました。

フェッロ(考案、デザイン・伊那さん)

ビアンカ(考案・伊那さん、原案・タチバナナツメさん、デザイン・緋花李さん)

アイリス(考案、デザイン・緋花李さん)

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