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Ep.3 クレンの警告

 部屋に戻ってからというものの、リーシェはただ、無心で手紙の返信を書いていた。

 ーー文章なら、思ったことを素直に伝えられますか?

 そう、自問自答しながら。

 だが、手紙を書くのはそこまで得意ではないと自覚している。

 ーーまとまった文章で書くのと、気持ちを込めるのではどちらが大事ですか?

 こんなこともまた、考えていた。

 少しばかり悩んでから、とりあえず用件は簡単に書くことにした。それからは、思いのほか、あまり時間をかけずに書き上げることができた。

 リーシェは最後に、便箋の下部に自身の名前を綴る。これでやっと完成したと、一息をつくことができた。彼女は知らない間に、安堵の表情を浮かべていた。

「リーシェ」

 ふと、子供の声がする。リーシェを呼んでいるようだ。

「……クレン。起きていたの?」

 リーシェは見えない子供に向かって、声をかける。すると、子供の精霊は何もない所から姿を現した。

「うん、そうだよ。リーシェ、何か悩んでいるの?」

 クレンは、リーシェの問いかけにこくりと頷く。いつも見せるような、穏やかで優しい表情。こんな時間に彼が目を覚ますのは、珍しいことだ。

「ううん。ちょっと、手紙の返信をどう書こうかなって思ってただけ」

「それは嘘。リーシェは自分に向き合えないから、手紙を書くことに集中して、ごまかそうとしているように見えた」

 クレンの発言に、一瞬時が止まったように思えた。

「そんなことないわ。どこが向き合えないって言うの、クレン?」

 強がって、リーシェはそう言い切る。あくまで、穏やかな口調は崩さずに。たとえ契約精霊が言ったことであっても、にわかには信じきることができなかった。

「リーシェってさ、何もかも、一人で抱え込んでしまうでしょう? もっとボクたちを頼ってくれてもいいのに。きっと、みんなもそう思ってるはずだよ」

 図星だった。誰かに頼りたいという気持ちがないわけではないが、頼って誰かの迷惑になるのが怖かった。

「リーシェは頑張ってるよ。頑張ってるからこそ、立ち止まるんだよね」

 頑張ってると、そう言われるのも何故かつらかった。

 ……それ故に、立ち止まっているの? 頑張っていることが、わたしにとっての当たり前なの?

 頭の中へと、勝手に思考が流れていくようだった。

「昔のわたしは、何もできないでいたでしょう? そう思うと、頑張らずにはいられないの。ーーだからあなたとも契約したのよ、クレン」

「契約してから、ずっと見てきたからわかる。リーシェは昔のリーシェじゃないよ」

「けれど、わたしは……」

 また、言葉に詰まる。リーシェは、そんな自分がもどかしくて仕方がなかった。

「ちょっと、考えてみたらどうかな。ボクでよければまたいつでも話は聞くよ」

 クレンは瞳を閉じて、また眠りにつこうとしている。

 待って、と言わんばかりにとっさに手を伸ばしたが、クレンを呼び止める理由が見つからなかった。

 リーシェはただ、立ち尽くすことしかできなかった。


 誰かのために生きようと、そう心に決めてからどれだけの時が経ったことでしょう。

 救われない霊たちを見てきました。けれども、わたしだけはこの世に留まり、救われている。

 どうしようもないことだと、それは分かっています。それは生者と死者の違いだから。

 けれども、それが何故かもどかしくて。後ろめたくて仕方がないのです。

 この街で生きてきた間、わたしを信じようとしてくれる人たちがいて、とても嬉しかった。

 でも、彼らとは違う所で生きているような気がして、素直に向き合うことが難しくて。

 そんなわたしは勝手ですか、ニーヴ様ーー?


 心の声が届いているかはわからない。ただ、リーシェは空の精霊に願いを請いたかっただけだった。

 彼女が抱える疑問の答えを見つけるのは、まだ先の話。

 そんな一人の少女の悩みも知らないと言ったかのように、ただ雲は気まぐれに流れていた。

 少女はただ、契約精霊との出会いを思い出しながら、ぼんやりと空を眺め続ける——。

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