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Epilogue もう一つの道

 その後結局、リーシェが霊を祓った幽霊屋敷は取り壊されることになったそうだ。

 どこか名残惜しいような気もしたが、元々取り壊される予定だったのだ。曰くの元凶となる霊は去ったのだから、きっと後に、この場所にはまた人々がやってくることだろう。

 今日も、ティル・ナ・ノーグは平和だ。

 ——リーシェは上空から、住んでいる街の様子を見つめていた。


 ◇◆◇


 事の発端は、リーシェに会いにきたキジャの姿を見かけたことだった。

「リーシェ、好きだ」

 聖職者見習いの少女に会うなり、アーラエの青年はそう言って彼女を抱きしめる。

「あのですね……その、ひとつ、お願いしてもいいですか?」

 顔を真っ赤にしたまま、リーシェは勇気を持って、ぽそりとつぶやいた。昔は男の人に抱きしめられたことなんてなかったから、心臓の音が聞こえるくらいにはどきどきして、頭が真っ白になっていた。けれども、そんな中でも言葉がしどろもどろになっていないことが不思議だった。

「何だ?」

「……少し、空を見に行きませんか?」

 リーシェが、キジャの目を見て言ったこと。それは、背に翼を持つ、アーラエである彼にだからこそ頼めることだった。

「じゃあ、行こう」

 一瞬驚いたような顔をしたキジャであったが、彼はすぐにリーシェを抱えて、空まで飛んで行ってしまった。

「ちょっと待ってよ、二人とも!」

 二人の様子を様子をこっそり見守っていたホープ司祭が、そんな言葉を漏らしていたとかいなかったとか。最も、彼らには聞こえていないようではあったが。


 ◇◆◇


 雲一つない空は、濁りの無い、きれいな青。

 この空のどこかに、霊は旅立って行くのだろうか? この世界でないどこかに、旅立って行くのだろうか?

 どこまでも果ての見えない空に、リーシェは思いを馳せていた。

「きっとあなたとわたしでは、生きている時間が違うことですよね」

 ぽつりとそんな言葉を漏らすリーシェ。それは、彼女がずっと心に抱いていたもう一つの悩み。

 アーラエは、人間の四、五倍の寿命を持つと言われている。自分よりもずっと長い時を生きており、死して尚、彼は長い時を生き続けることだろう。キジャは気にしていないようであっても、リーシェにとってそれは懸念の種だった。

「それがどうしたって言うんだ。人間だろうとなんだろうと、リーシェはリーシェじゃないか」

「そうですよね。だからこそ精一杯、今を生きていきたい。あなたに見守っていてもらいたいんです——キジャ」

 はじめて、呼び捨てで彼の名を呼ぶ。

 リーシェは人を呼び捨てにするのが苦手だ。今まで呼び捨てにしていたのは、クレンぐらいのことだった。だからこそそれは、心を許した証でもあった。

「……それでも、リーシェを危険な目には遭わせたくない」

「その時は、ちゃんと助けてくださいね?」

 リーシェは目を細め、満面の笑顔で言った。それを見るなり、キジャも微笑みを浮かべる。

「あの子は自分の幸せを犠牲にしすぎる所があるからね。ちゃんと幸せってものを思い知らせてあげてよ」

 突然クレンが現れて、そっとキジャに耳打ちした。子供の姿をした精霊の口ぶりは、びっくりするほど大人びていた。

「クレン、どうしたの?」

「なんでもないよ」

 それを見るなり、リーシェは何があったのだろうかと首をかしげた。けれども、彼は教えてくれずに消えてしまった。人差し指に口を当てていたあたり、聞いても絶対に答えてくれないに違いない。

 これから歩む道には、きっと苦難もあることだろう。けれども、それは乗り越えるべき壁だからこそ、幸せの意味を心から感じられるに違いない。

 誰もが笑顔でいられる世界を夢見て、リーシェは果てしない空を見つめ続けていた——。



——fin.

これにて「天に架ける道」は完結となります。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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