プロローグ
「メイドは、まだ募集しているだろうか?」
そう言って玄関先に立っていたのは、かつて旅を共にした勇者様であった。
――それもなぜか、メイド服姿の勇者様である。
イザベラは先月買ったばかりの新居の入り口で立ち尽くし、何者かに幻影魔法をかけられた可能性を考えた。
(いや、さすがにないか)
もし幻影魔法だとしたら、さすがにかけられた瞬間に気づくはずだ。
ならばこれはどういう状況かと思っていると、勇者様ことクリード=グレイシアが紙を差し出してくる。
とんでもない状況だが、それでも彼は凜々しく悠然としていた。
整った顔立ちも、長い銀色の髪も、引き締まった体躯も、すべてが魅力的な男である。ただ、メイド服がそれを台無しにはしていたが。
「張り紙を見てきたのだが、もう決まってしまっただろうか?」
持ち前の凜々しい顔立ちに、クリードは切ない表情をのせる。
彼のファンが見たらよだれが出そうな表情だが、いかんせんメイド服なので違和感が半端ない。
「きまってはいない……けど」
「ならば、面接をお願いしたい」
かつて共に冒険し、世界に仇なす魔王を倒したときと同じくらい真剣な表情で、クリードは詰め寄ってくる。
近くに寄られると、クリードがいつも纏っている香水が鼻をくすぐる。
その香りからして本人のようだと思ってから、イザベラはハッと気づく。
「クリード、あなた何か呪いにかかっていない?」
「そうらしいが、害はないからと放置している」
絶対害がある。
何せ世界を救った勇者が、メイド服姿である。
「とりあえず、呪いを解くから中に入って」
「それは、採用ということか」
「今はそれどころじゃないと思う」
「採用してくれないと、入らない」
なぜだか逆に、雇用側が脅されていた。
「そんな格好を誰かに見られたら、あなた社会的に死ぬわよ」
「イザベラに雇用してもらえるのなら、それでも構わない」
どうやら彼にかかった呪いは、常識的判断を曇らせる物らしい。
(これは、一刻も早く解呪しないと)
そして目の前の英雄が社会的に死なないように救わねばと思い、新居に招き入れる。
「雇用か?」
「そうよ、だからすぐ入って」
「ありがとう、精一杯働く」
そして彼は、イザベラがかつて恋した笑顔を浮かべる。
(くっ、メイド服姿なのにやっぱり格好いい)
いっそ百年の恋も冷めてほしいのに、無理そうだとわかってイザベラは落ち込む。
そもそもパーティを抜けたのだって、この面倒な思いを捨てるためだったのに、どうしてこうなったのか。
「それで、最初の仕事は? 掃除か? 洗濯か?」
「まず、着替えね」
ため息と共にそう言うと、クリードはきょとんと首をかしげた。




