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191年②少女、旅人と出会う

 昼前。

 【微】は馬をゆっくり歩かせていた。


 風が少し暖かくなってきた。

 微は手綱を引き、前方を眺めた。


 草原の向こうに、人影が見える。

 見慣れない騎馬の一団だった。


 賊かもしれない。

 そう思って警戒したが、一団は中央を向き合っていて、どうにも様子が変だった。


「……あれ?」


 目を細めた。かなりの人数がいる。

 【微】の姿を確認したのか、その中から一人だけ、その輪から離れてこちらへ向かってくる男がいた。


 そして、男は少し離れたところで馬を止めた。


「すまない」


 男が先に口を開いた。


「道を尋ねたいのだが」


 【微】は男の後ろを見た。


「あの人たちも一緒?」

「そうだ」


 【微】は心の中で数えていく。

 五、十、十五……。

 ざっと二十騎ほどだろうか。


 男は【微】の視線を追い、後ろを振り返った。


「……二十騎くらい?」


 【微】が何気なく言うと、男は苦笑した。


「そのくらいだ」

「ずいぶん大勢ね」

「少しばかり事情があってな」


 男は後ろの一団を振り返った。


「今日はこの先の集落で休むつもりなのだが、道を知っているか?」

「知ってるわ」


 偶然にも、そこは微が「行けば誰かに会えるだろう」と考えていた集落と同じだった。

 【微】は馬首を少し横へ向けた。


「そこならば、昼過ぎには着くと思うわ」

「それは助かる」

「でも、そっちの道は遠回りよ」


 別の方向を指差した。


「こっちから行った方が早いわ」


 男は指先の先を見た。


「詳しいんだな」

「この辺りならね」


 【微】は少し得意そうに笑った。


「案内してあげる」

「いいのか?」

「私も目的地は同じだから」

「では、お言葉に甘えてお願いしよう」


 男は頷いた。

 【微】は馬を歩かせた。


 男も【微】の後を追うように馬を進めた。

 その後ろから、騎馬の一団が続いていった。



 それからしばらく、二人はほとんど言葉を交わさなかった。

 【微】は何度か後ろを振り返った。

 騎馬の一団は、一定の距離を保ちながらついてきている。

 統制が取れているなと感心しながらその様子を眺めていた。


 こんな人数を雇えるなんて、どこかの金持ちだろうか。

 そう思ったが、それならこんな草原ではなく、中原や関中にいるだろう。

 微はそれ以上考えるのをやめた。


 やがて、草原の向こうに集落が見えてきた。

「ほら、あそこ」


 【微】が指差す。

 男は小さく頷いた。


「助かった」

「どういたしまして」


 【微】は男に手を振ってそのまま集落の中へ入っていった。


 ここからが本来の目的だった。


 荷を下ろし、いくつかの家を訪ねる。

 持ってきた品を見せ、話をする。


「これはいくらになる?」

「それじゃあ、少し高いね」

「そう? このくらいなら悪くないと思うけど」


 何軒か回った。

 だが、どこへ行っても話はうまくまとまらなかった。

 値段が合わない。

 欲しいと言われた品と、こちらが欲しい物も噛み合わない。

 【微】は何度も条件を変えてみた。

 それでも最後には首を横に振られる。


「……そう」


 【微】は小さく息を吐いた。


「じゃあ、また今度ね」


 笑って別れた。

 最後の家を出る。


「……失敗かあ」


 【微】は荷物を見下ろした。

 朝、父に言った。

 今日は何かを持って帰るつもりだった。

 けれど、荷はほとんど減っていない。


「無駄足だったなあ」


 馬の首を撫でる。

 馬は何も答えず、鼻を鳴らした。


「……帰ろう」


 【微】は馬の背に手をかけ、跨ろうとした。

 そのとき、ふと空を見上げる。

 橙色の空。

 もう日はかなり傾いていた。

 この時間から戻れば、途中で暗くなる。


 父の言葉が頭に浮かんだ。

 ――帰りが遅くなったら、無理に戻るな。


「……そうだった」


 【微】は小さく呟いた。

 しばらく空を眺め、それから馬の首をもう一度撫でる。


「仕方ないわね」


 少しだけ残念そうに笑った。


「今日は、ここで泊まろう」


 そう決めると、微は馬を引いて集落の中へ戻っていった。

【微】主人公。191年で齢18。


好奇心が強く、行動力のある女性。少し楽天的なところがあり、危なっかしく見えることもあるが、人と接することを恐れない。


【男】次回、名前を明かします。

物腰は穏やかだが、後ろの者たちをまとめる姿には不思議な統率力があった。

微にとっては、道を尋ねてきた少し変わった旅人に過ぎなかったはずだった。

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