デスゲームから学んだこと
俺はゆっくりとミルを挽いた。
ガリ、ガリと乾いた音が鳴る。
削り出された塩の粒が
焼きあがった肉の上に落ちる。
熱でわずかに溶け
表面になじんでいく。
――もう待てない。
一口大に切り分けた肉を口に運ぶ。
噛んだ瞬間、脂がほどけ
舌の上で甘みが一気に広がる。
塩のおかげで味に輪郭が立つ。
肉の甘さと塩の鋭さ。
その対比がさらに旨味を引き上げる。
「う”ま”ずぎる”……」
気付けば頬を伝うものが流れていた。
その様子を見届けると
仮面の男はゆっくりと仮面を外した。
「な……」
一瞬、言葉が出る。
現れた顔、それは見覚えがあった。
「精肉コーナーのおっちゃん……」
「そうだ。俺がこのデスゲームの主催者だ
このデスゲームを始めた理由はな――」
精肉コーナーのおっちゃんは静かに語り始める。
だが俺の意識はすぐに肉に戻った。
もう一口。
口に運び咀嚼する。
「うんめえ……口の中で溶けてなくなる……」
精肉コーナーのおっちゃんは続ける。
「みんな、肉の価値をわかってない。
安い肉、値引きの肉……売れるのはそんな肉ばっかりだ」
「だからな、思ったんだ。
自分の肉だったら、どんな代償を払うんだろうってな」
肉の価値。
命の価値。
もう一口。
「うわぁ……焼き目の付いたカリカリ部分の食感最高…!」
脂がさらに甘く感じる。
さっきとは違う。
繊細な食材だからこそ
少しの調理の違いをダイレクトに感じるのだ。
「つまりだな」
精肉コーナーのおっちゃんの話はまだ続いていた。
だが、それはもう――どうでもよかった。
――数か月後。
俺はまた、あのスーパーの精肉コーナーに立っていた。
あのおっちゃんの姿はない。
あの後、おっちゃんは全員を解放した。
理由はなんだったか。
肉の価値を知ったから満足したとか何とか。
……正直、よく聞いてなかった。
あの時のことを思い出すと
涎しか出てこない。
で、その後どうなったかと言えば
まぁ普通に通報されて捕まったらしい。
そりゃそうだ。
デスゲームなんてやってたんだ。
現代日本においては極刑だろう。
まぁ、俺には関係無いことだ。
そんな事をぼんやりと考えながら
売り場の肉を見る。
ドリップ。
脂。
色。
自然と状態を見てしまう自分がいる。
手に取ったのは、国産和牛。
……と言いたいところだが
現実は安い豚肉だ。
あんな贅沢、そう何度もできるものじゃない。
俺にはまだ、その勇気はない。
特価のパックをカゴに入れ、レジへ。
「袋、いりますか?」
店員からの問いに
「あ、袋は結構です」
俺はそう答えて、カバンを開く。
中から取り出したのは保冷バッグ。
さらに、その中には保冷剤。
あのデスゲームで何を得たのかはわからない。
命の価値か。
人とのつながりか。
だが一つだけ、はっきりしていることがある。
俺は保冷バッグに肉をそっと入れ
ゆっくりとチャックを閉じた。
気付けば自然と口の端は上がっていた。




