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スーパー帰りにデスゲームに巻き込まれた

「君たちにはゲームを楽しんでもらおう」

画面の向こうで仮面の男はそう言った。


まさか、俺がデスゲームに巻き込まれるなんて。

いや、巻き込まれるのはいい。

いやよくないけど。

全然良くないけど。


でも、今はダメだ。

タイミングが悪すぎる。

今日は何の日だと思ってる?

ボーナス支給日だぞ?

ん? 関係ないって?

関係あるんだよ。

めちゃくちゃある。


半年間だ、半年間。

胃がキリキリするくらい働いたんだぞ。

上司のどうでもいい武勇伝に笑い

後輩のミスをフォローして

気付けば自分の仕事は後回し

当然のようにサビ残だ。

「お前頼りになるな」じゃねえ。

そう思うんなら給料を上げろ。

仕事押し付けてネットサーフィン(笑)してるの知ってんだぞ。

ログは取ってあるからな。

いつかここぞというときに……んん、いや話が逸れた。

まぁそんな期間の苦労の結果が

今日のボーナスに反映されているのだ。


だから買った。

買ってしまった。

衝動に任せて、帰りのスーパーで。

いつもは素通りするコーナーで。

一度手に取って

値札を見て戻して

少し歩いてまた戻って――

そして買った。


牛肉を。


薄切りかって?

それとも牛モモかだって?

違う違う。

そんな日常の延長じゃない。


ステーキだ。

サーロインステーキ。

しかも国産、黒毛和牛。


もちろんのようにランクは付いているぞ。

わかるか?

あのサシが入っててピンク色したやつ。

焼くだけで旨いって顔してるA5ランク。


それが今、俺の手にあるビニール袋に入っている。

雑に入っているが、俺にとっては宝にも等しいものなんだ。


ただ問題はそこじゃない。

冷蔵品なんだよ。

冷・蔵・品。

冷たい、蔵に、入れる、品。

つまり何かって?

常温放置はアウトってことだ。


細かいことは省くが牛肉、いや牛肉に限らずだが

生肉を常温放置すると味が悪くなり、風味も落ちる。

見た目も劣化し旨味も少なくなるんだ。


つまり何が言いたいかというと

このままの状態でいるとA5ランクの肉を

充分に堪能できないということだ。

わかるだろ?

それがどれだけ重要なことなのか。


なのに。

それなのに。


俺は見知らぬ部屋に閉じ込められて

怪しげな仮面の男から

「これからゲームを開始する」

とか言われてる。


それどころじゃない。

こっちはそれどころじゃないんだ。

今、この瞬間にも袋の中では

ゆっくりと確実に劣化が進んでいるんだ。


「ルールは簡単――」

画面の向こうでは仮面の男が

ボイスチェンジャーの声を響かせている。

「制限時間は三時間。

 時間内で攻略できたものだけが外に出られる」


三時間。


三時間……?


――終わった。

完全に終わった。


気温にもよるが、三時間以上の常温放置は確実にアウトだ。

脂は酸化臭が強くなり

旨味は減少、食感も落ちる。

俺は膝をつき崩れ落ちた。


「兄ちゃん、大丈夫か?」

打ちひしがれている俺の頭上から声が落ちてきた。

「しんどそうやなぁ

 まぁ急にこんなことになったらしゃあないわ」

顔を上げると妙に距離の近い大柄なおっさんがそこにいた。

「ほれ、立てるか。弱み見せたらアイツが喜ぶだけやで」

腕を取られ、半ば強引に引き起こされる。

「そんな状態じゃキツイやろ」

おっさんはぐっと顔を寄せてきて声を潜める。

「せやから兄ちゃん、わしと協力せえへんか?」


その一言に背筋が冷える。

おっさんは更に距離を詰めてくる。

「わしと組めばな、二人だけでも

 生き残ることできるかもしれへんで」


協力。

協力だと……?


視線が無意識に手元に落ちる。

二人でなら生き残ることができるかも――

ゆっくりと顔を上げると、おっさんは笑っていた。


それって――俺の肉を二人で食うってことか……?

このおっさん……俺の肉を狙って……?


「なんやその目、疑い過ぎやで?」

おっさんは少しだけ嫌そうな顔をした。

袋を持つ手に力が入る。

「……悪い、が、これは譲れない」


その時だった。

ガチャっと音を立てて

カーテンの向こうに灯りが付いた。

皆がカーテンの奥を恐る恐る除く。

そこには五つの扉があった。

横一列に並んだ、全く同じ扉。


「なんや……今度は」

おっさんが低く呟く。


壁に掛かっていたモニターから

仮面の男の声が響く。

「さてゲームを開始しよう

 扉は五つ、正解は一つ」

空気が張り詰める。

「二つは骨まで溶かす炎の部屋

 もう二つは血液まで凍りつく氷の部屋」

「そして一つだけが次の部屋に続く扉だ」

ざわりと空気が揺れる。

「一人ずつ順番に選ぶといい。

 正解の扉を開いた時点で、残りは全員生存とする」

仮面の男は、幸運を祈っていると笑い

プツリとモニターは切れた。


改めて周囲を見ると、俺とおっさん。

それから一組の若い男女とおばさんの五人。

「なるほど扉も五つか」


「順番……どうするんや」

おっさんの声がやけに小さい。

さっきまでの明るさも無くなっていた。

「一番手は……ほぼ死ぬだろ……」

若い男が力なく呟く。

女性二人も不安そうに押し黙っている。

誰も動かない。

視線だけがゆっくりと巡る。

待っているのだ。

誰かが動くのを。


その時、手元のビニール袋に違和感を覚える

冷たさが消えている。

先ほどまで。

つい先ほどまで感じていたはずの冷気が消えていた。


心臓が跳ねる。

時間かけてる場合じゃねえ。

俺はゆっくりと、一歩踏み出した。

「待てや!正気かいな!」

「間違ったら死ぬんですよ!?」

「もっとちゃんと話し合ってから……!」


分かってる。

でも。

「立ち止まってる時間、ないんだ」


扉の前に立つ。

違いなんてない。

どれも同じに見える。

背中に視線が刺さる。

おれは順に扉を巡り

「これだ……」と一つの扉を開けた。


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