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タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する  作者: 雨香
第2章

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誕生パーティー4


そばに立つテオ君はもう既に集中モードに入っていて、クマを抱きしめたままじっと盤上を見ている。小さな体をそっと膝に乗せて抱きしめる。年齢より小さな体はいつも体温が高く、あたたかい。


集中モードの時は割と何をしてもされるがままなのが素晴らしく可愛い。ふわふわの栗毛も可愛い。可愛いの大渋滞。


五人揃わなくても良いようで、オオカミさんとのゲームが始まる。途中から私に挨拶をしていろんな方が参戦してくるけれど、瞬時にオオカミさんが倒して「詰みです」と言って悔しそうに席を立っていった。


気づけばオオカミさんと同じぐらいの駒数になっていたのでテオ君はしぶといみたいだ。


「なんだこの子……強いな……リリ様、もし俺が勝ったら、仕事をくれませんか?」


「仕事?」


「ええ、俺は代々文官の家柄の伯爵家の嫡男だったんです。文官になる事を切望されて育ちました。聖都の文官試験ではトップの成績だったにもかかわらず、魔力量が多いという理由だけで騎士団への入団が決められました。それならと地方の文官になろうとしたのですが、どこへ行っても魔力量が邪魔をして騎士に推薦されてしまうのです。絶望して家督を弟に譲り家を出ました。フリーの騎士になり捨て身の戦いを繰り返していた所、魔血を大量に浴びて貴方に助けられました。俺は……グラセンで……いや、あなたのおそばで働きたいのです」


話をしながらもオオカミさんは駒を動かしていく。目線は常に私を向いていてちょっと怖い。


「私にそんな権限は……」

無言で盤を見つめるテオ君を抱きしめながら、なんて返せばいいのか考えていると、頭上から低い声が掛かった。


「テオおまえ、最後総取りで勝とうとしてるだろ。時間の経過は実際にはマイナスしかない。士気は弱まるし相手は血迷って籠城(ろうじょう)する。崩せるところは崩して戦略を練り直せ。盤上じゃなく、実際には人心がどう動くのかを考えろ」


シェイド様はそう言って、ひょいひょいと三駒程動かした。シェイド様の後ろにはクリストフさんとアレックスさん、アラン君もいて、みんな盤上を見つめてる。


「チッ、邪魔しやがって………………詰みです。負けました。いい所までいってたのに。リリ様、もう一度俺に時間をいただけませんか?」


「テオ、今から全部のテーブル回って勝ってこい。さっき俺が言ったこと忘れるなよ?それができたら会場の菓子を好きなだけ部屋に持って行っていいぞ」


テオ君の目がひかる。

既に別のテーブルに行きたそうにソワソワし始めている。


「よくわからないけど、テオ君がやりたいなら一緒にいこうか!」


テオ君集中モードでふわふわしてるから連れていってあげなきゃ。



◇◆◇



テオの残した盤を見やりながらため息をつく。


「は~テオはリリ付きの文官にしようと思ったのに、アレックスにとられそうだな」


「ああ。ルトガー兄弟は俺の下にくれ」


「アランは私と同じく団長付きですので私の部下です」


リリの連れてきたアラン達兄弟は、今やグラセン幹部からの勝手な取り合いに巻き込まれている。

ずっとリリに付けてやりたいが、リリを守るためにもそうはいかないだろう。


「アランおまえ、男にモテるな」


「いえ、その……恐縮です!」


「邪魔すんなよ!もう少しで!!」


ヘスタの隊服を着た若い小僧は、見た所かなりの魔力量のようで、なるほどこれは文官にはなれなかったわけだなと内心で苦笑する。リリのいる今ならともかく、魔力が突出した者は騎士にならないと国が守れない。


「仕事の話か?アラン喜べ、部下ができたぞ。コイツはクリフに付ける」


「はぁ?何で俺がこんな奴の下に!!」


「グラセンで働きたいんだろ?それにアランの魔力量はもうお前を超えてるぞ」


「は?魔力量なんて変わる訳……拡張型か!?そんな奴、ほんとにいるのかよ!?」


「既に散々俺の魔力で扱いてあるぞ」


「はぁ!?あんたの魔力で拡張なんてすんなよ!!バケモンもう一匹作る気か!!」


「そろそろ限界値きてるけどおまえよりは上だな。まぁ強さは魔力量が全てじゃ無いから気にすんな。それに文官志望なんだろ?」


「は!どうせ俺の戦力目当てだろ!」


「あいにくうちの幹部は皆お前より強いんでな。別に期待してない。クリフの下で慣れたら俺付きの文官にしてやるよ。グラセンは万年文官不足だ歓迎してやる。はぁ、リリが釣ってくるのは変わった奴ばっかだな。今度は戦う文官かよ」


「…………………………」


「団長付きの文官になれたらリリ嬢の近くに(はべ)れると思ったら甘いですよ新人君。地獄を見ることになりますので、早々に恋心は消した方がよろしいかと」


「どーゆう意味だ。コイツなら俺の方がマシだ!あの子は俺の運命の天使だ!」



——「シェイド様!!私にもかまってください!あれ?お仕事のお話でしたか?」


過集中のテオを送り、リリが俺の元に戻って抱きついてくる。

鈴の鳴る様な声——俺を呼ぶ時だけの。


「もうおわったよ」


「あとで一緒にプレゼント、開けてくれますか?」


「ああ」

片手で抱き上げると嬉しそうにクツクツ笑って首に手を回してくる。


「今日は沢山一緒にいれて、嬉しいです」


「ん」


「ダンス、いっぱい踊って下さい。シェイド様と踊るの、好き。独り占め、できるから」


「いいよ」


「ふふふ、シェイド様、大好き!」


「はぁ~~~~~~~っあ?!?!?!?」


「だから言ったじゃないですか。これを永遠と聞くことになりますよ」


「うそだろ……何でコイツ片言しか喋ってねぇんだよ!普通逆だろ!!もっと必死で口説けよ!!おれの必死さを見習えよ!!!」


「必死だったのか」 (アレックス)

「必死だったんですね」 (クリストフ)

「同期が恋愛に必死なとこ、見たくなかったです……」 (アラン)


「私の下に付くなら、慣れが必要ですよ。リリ嬢は始終こうですから」


「どうかしたんですか?」

不安気に俺を見てくるリリの頭を撫でてやると、一瞬でまた上機嫌な顔に戻る。

リリの言葉や態度の全てに俺への愛情が溢れていて、飢え乾いていたのが普通だった頃の自分にはもう戻れそうもない。あの頃の俺がどうやって息をしていたのかすら分からなくなる。


「ちょっと思春期のガラスのハートが砕けただけだ、そのうち治る。お前が気にすると傷に響く」


「そうなの?お大事にね?」


「ブッッッッハッ!!妖精ちゃんとどめ刺したね~!ナイス!!テオの盤見に来たら面白いモン見れた~!」


「ワハハハハハ!どーせこの後クリフが上官になるんじゃバキバキに心は折れる!涼しい顔して鬼だからな!!こいつ」


「ヴァルド殿、人聞きの悪い。私ほど優しい上司はいませんよ。怒鳴ったりしませんから。アラン、当分はあなたが面倒見て下さい」


「ハッ!がんばろうな!!!」


「うるせぇ!!!!」


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