誕生パーティー2
商団ブースで一番幅をとっている見るからに高級店舗にズンズンと手を引いて連れていかれてしまい、脳の処理がおいついていかない。
宝石店なのに、メイドがたくさんいて、執事風の店員と左右に分かれて礼の姿勢で迎えられる。何これ。
「何か形は決まってるのか?」
「…………ダイヤモンドで、シンプルな……」
(給料三ヶ月分って事は言わない方がいいよね?国が買えちゃいそう……)
「……まだ何か隠してる顔だな?そんなにキスしたかったか?全力の魔力流してヘロヘロにしてほしいか?」
「えぇ……?それは、あとで、欲しいかも」
「~~~~~~攻撃を跳ね返されるとは思わなかった……威力増して返してんじゃねぇよ……」
「?」
「何を隠してる?」
「……………………ちょっとだけ、高価なやつを、贈るの。ほんのちょっと」
「ふーん、リリあれ見てみろ」
シェイド様が顎で示した先にはエルがいて、籠を持ってお買い物をしている。
宝石店で、籠。
籠の中はいろんなアクセサリーが詰め込まれていて、何だか子供のおもちゃみたいになっている。全部本物の宝石なのに。
「あれがまぁ、高位令嬢の普通だぞ」
「えぇ……」
「数年分の国家予算ぐらいは出せるから心配すんな」
「でしたらこちらはいかがでございましょう。落ち人様のお誕生日に相応しいと思いお持ち致しました。今年発見された希少ダイヤモンドなんですよ」
黒いスーツの執事風の店員がベルベット敷きのトレイに出して見せてくれたのは、赤、青、黄、紫のダイヤモンドの原石だった。
「色が、付いてる……」
日本で見たことのあるピンクダイヤモンドの様に一律に色が入っているのではなく、中の方が濃く、外に行くほど薄くなり、色の濃淡が美しい。カットしたらもっと綺麗になりそう。
「ええ、ダイヤと他の鉱石が溶け合って出来た物なのですよ。活動が終わった火山の地下から見つかったのです。未だ詳しい原理はわかっておりませんが、どうも魔力を微量に含んだマグマが関連しているようです。カットを施すと周りに光の輪が出来るのですよ」
「凄く、綺麗……」
「何色がいい?全部にするか?」
濃い琥珀色が、シェイド様の瞳の色と同じでそればかり見てしまう。
「これか?」
「でも……」
「リリ?公爵夫人になるんだろ?母上はエルよりもっと凄かったぞ?」
「えと、ちょっと頭がぼんやりしちゃって……」
「パーティーが終わるまでに何種類かデザインを頼めるか?」
「イエローオレンジのダイヤモンドでございますね?畏まりました。お嬢様の指のサイズを先に。奥ゆかしいご様子、公爵様、スピード勝負で押しましょう」
シェイドさまと店員さんがなにやらアイコンタクトをしているのをぼんやり眺める。
「リリ、他には何が欲しい?」
「もう、十分です……」
「この店全部か?そうかわかった」
「だ、だめ!」
「お嬢様、こちら公爵様の瞳の色を集めてみました。いかがでしょうか」
「!?」
ガーネット、琥珀、オレンジ真珠、私の知らない宝石もあって、どのアクセサリーもシェイド様の瞳の色で目が吸い寄せられる。
「これは……?」
トレイの中に琥珀色にキラキラ光る薄手の布の切れ端が入っている。布なのに、カットされたダイヤの様な輝きがある。
「新しい魔法技術でしてね、カット済みの宝石を薄く加工して布の様な肌触りにするのですよ。それはイエローオレンジのサファイアですね。ドレス用に開発したのですがドレスにするには量が必要なので高価になりすぎまして。まだ製品化はしてないのですが公爵様なら大丈夫でございますよ」
「お嬢様、何か思い浮かんだのでございましょう?」
「あ、ケイトさん。うん、これで髪に結ぶリボンが出来たら良いなって」
「公爵様、細幅から太幅まで三種程、巻で購入致しましょう。全て琥珀色でお願いいたしますわ」
また何やらシェイドさまと店員さんのアイコンタクトがあって、もうここから出たい。
視線をさまよわせた先にラッピング用のリボンが沢山置いてあるのが見え、その中に珍しい色が混ざっていた。
「シェイド様、私、あれが欲しい」
「何だ?やっぱり全部買うか?」
「違くて、あの黒いリボン……あれが欲しいの」
「こちらですね?聖都ではイレイの花がなかなか入手出来ず代わりに黒の小物が人気になって来ておりましてね。ラッピング用に急いで作らせたのです。公爵様の髪のお色でしたね。こちらも三種お入れいたしましょうね」
「あ、はい……」
「公爵様、これ以上は知恵熱が出てしまいますわ。少し、休ませて差し上げて下さい。後のことは、私が」
「ああ」
「公爵様、愛されておいでなのですね。聖都をお守りしてくださっている騎士団団長様のご婚約を私共聖都の民からも祝福を。必ずや素晴らしい物を仕上げてご覧にいれましょう」
「頼む」
ふわふわして、足元がおぼつかないのを見てシェイド様が抱き上げてくれる。
「指輪、嬉しいです。リボンも。宝物にします」
「また手鏡に入れるのか?」
「何で、知って……?」
悪い顔でニヤッと笑ったシェイド様は開け放たれたお庭に私を連れてくると、休憩スペースのソファーにふんわり座らせてくれた。
「俺もリリの 移糸画持ってるからな」
「!?私の!?どんなですか!?」
「可愛いやつ」
「!!!???」
「ほら、始まるぞ」
盛大な音と共に、お庭の空に水のアートが打ち上げられて、キラキラと空中に散っていく。
パーティーの始まりの合図だったようで、楽団の音楽が始まり、シェイド様が私の前に跪く。
「ファーストダンスの栄光を頂けますか?姫」
「~~~~っっっっ!!!」
「ほら行くぞ」
「わぁ!もう元にもどっちゃった!」
ニヤリと笑ってエスコートしてくれるシェイド様がかっこよくてヤバい。私顔が溶けてる気がする。




