魔力
公爵邸の広いお庭を歩いていく。
「シェイドさま、手、つないで歩きたいです」
「ん」
ふんわり下ろされて、手を繋ぐ。
ちょっと照れてるのか空いた方の手で口元を押さえてるのが可愛い。かっこいいのにたまにすごく可愛い。
「私は、魔力、少ないですか?」
歩きながら聞くと、心底ビックリした顔で見返されたので戸惑う。
「リリの魔力は、貴族の全令嬢の魔力を合わせても及ばないぐらいだぞ?」
「え?でも、この前は魔力枯渇をおこしたんですよね?」
「枯渇というと語弊があるな。大人は枯渇でしかああはならない。子供の頃から魔法を使うし慣れるからな。魔力を初めて使う様な子どもは魔力を使う事そのものに体力をつかうんだよ。リリの魔力の量は何万人レベルで聖魔法をかけられる。けど今はまだ魔力を使う事自体に体がびっくりするんだよ。魔力が減るという事に、体が慣れてないんだろうな」
「じゃあわたし、公爵家のお嫁さんになれますか?」
「~~~~っ、当たり前だろ。言ったろ、高嶺の花だって。そもそも聖魔法だって、リリしか使えないぞ」
「シェイド様は何でも出来るけど、私はなんにも出来ないって思っていたの」
「何の話だ」
「だって、シェイド様はかっこよくて、すごく強くて、公爵様で、騎士様で、頭も良くて……でも私は平凡な女の子だから」
「はっ、平凡の定義がおかしいだろ。それに俺にも苦手なことはあるぞ」
「無いですよ。シェイド様はかっこいいもの」
「リリだけだろ、そう思うのは」
「少しでも、私に出来ることがあって嬉しい」
「…………」
臣くんの作った人型魔獣がいなくなれば、この力ももう使うことはないのだろうけれど。
◇◆◇
公爵邸から馬車で三十分かけて来たグラセンの主教会は、ガラスのお城みたいに綺麗で、至る所にクリスタルでできた女神の像が配置されている。
どういう仕組みになっているのか、教会の壁から水が流れ、美しい模様を形作る水のアート魔法がかけられていて、どの領でみた教会よりも幻想的だった。
移転でとばないんですか?とシェイド様に聞いたら、教会は治外法権で、領主といえども勝手には入れないらしい。そもそも移転で勝手に室内に入るのは酷いマナー違反に当たるそうだ。
「シェイド~、詰所に拘束してた魔獣全部運ばせるなんて、おじさん腰痛いぞ!」
「!?はっ!イケオジ…………!!」
教会の正門をくぐると、シェイド様と似たお顔が唐突に現れて驚く。焦茶色の髪を後ろに流し、シェイド様ほど切長な目じゃないけれど、少し優しさを足したような……どことなく似ていてかっこいい。二十年後のシェイド様を見ている様で推せる!
「おいリリ。意味はわかんねぇけど何となくムカつくな?」
「おっ!姫ちゃん、初めましてだね~!おじさんに惚れちゃった?シェイドの叔父上だよ!おじさん領地無しの伯爵位だけどシェイドより絶対大切にするから安心して嫁いでおいで!!!デロデロに甘やかして、おじさんいないとダメにしてあげる!」
「おっさん、殺すぞ」
「むっつりな息子もいるよ??義娘になるってのもいいよね!むっつりだけど真面目だよ!」
「父上、黙れ」
アレックスさんが超絶冷めた声で答えてる。
この人たち親子なのか。焦茶色の髪はイケオジと同じだけれど、アレックスさんは日本男児って感じの精悍さがある。濃い焦茶色の髪に真っ直ぐな藍色の瞳。この人もタイプは違うけど、すごくイケメンだと思う。
「僕の方がいいんじゃない?ほら僕可愛いし、そこそこ強いよ?団長より絶対マメだよ!誕生日聞き忘れたりしないし!!!」
「おまえら、人の婚約者を堂々と口説いてんじゃねぇよ。死にてぇのか」
「ふふふ、シェイド様、大好き!」
「む~!妖精ちゃんはさ~、女の子なのに珍しいねぇ、好意を表にだすの」
「こっちの女の子は出さないの?はしたなかった?」
「おまえはこのままでいい。余計な事いうなクレッグ」
「副長レベルになると違うんだろうけどさ~、男神が女神を口説きまくって結婚したってゆー逸話があって、女性はそれに憧れるから基本は自分からは何も言ってくれないよ~、だから男は必死で口説くわけ」
ふーん、だからシェイドさま、よく固まるのか。
「団長はいい思いしすぎだよ!誕生日聞き忘れるわ、花は贈らないわ、好きな色も知らないんじゃないの!?何で何にもしてないのに特大の愛情が来るの!?」
「好きな色?好きな色は黒と琥珀色……あ、あと紺色もすきだよ?隊服、カッコいい!!」
「グッ……………………」
「そーゆーとこだよ!!!!うらやましい!!!!!もげろ!!!!」
「クレッグ、今に慣れます。リリ嬢は毎日こうですので」
クリストフさんが冷静に答える。
「ソウデスカ!!」
「あれ?今日はアラン君はいないの?」
「アランは中におります。今日は父上の副官としてつけておりますので」
「アレックスぅ~!もう少し女の子にはガンガン行かないと!パパ心配!」
「クソ親父、黙れ」
この親子、コントかな?
「アラン君はグラセン騎士団に移動になったの?」
シェイドさまが優しく笑う。
「いや?アランは厳密に言えば俺付きにしてある。クリフとアレックスが取り合ってるだけだ」
「アラン君、人気者!」
「連れてきたのはお前だよ」
「私?テオ君がいたから優しくしてもらえたのが始まりなだけで、何もしてないよ?」
シェイド様はそれには答えずただ優しく髪をすいてくれた。




