第三の御子2
「もう一度?」
臣君の作った人型魔獣が生きている人を使って作った事が分かった時から、領地に出た人型魔獣の全てを生け取りにして眠らせていたらしく、再度の慰霊を頼まれた。
「リリは魔力を使い慣れてないから、体調が回復するまで待ってた」
公爵邸のお庭のガゼボでケイトさんが入れてくれたお茶を優雅な仕草で飲みながらシェイド様が私に言う。
普段の言動は乱暴なのに、貴族としての所作は王族みたいに綺麗だ。
「体調って…………疲れさせたの、シェイド様じゃないですか」
「ブッフォッッッッッ!」
あ、準王族の筆頭貴族の仮面、すぐ剥がれるけどね!多分、私にだけ。
ケイトさん、すぐお茶入れ直してる。シゴデキ。
「~~~~~」
「グラセン騎士団の詰所に私が行けばいいんですか?」
「グラセンの主教会だ。橘邸ほどの人数じゃないし、そこまで魔力枯渇を起こさないと思う。起こしても、俺の魔力を流すから大丈夫だ」
「シェイド様の魔力?魔力って譲渡ができたんですか?」
「相性が良ければな。あとは魔力のない奴の起爆剤として流したりもするな」
「相性……」
「リリと俺の魔力の相性は良かったから大丈夫だよ」
ん?そんな場面は無かったよね?
「臣のところから帰る時に流した」
「えぇ?」
そう言えば、慰霊の祈りを捧げた後、目眩を起こして立ち上がれないくらい疲労感があったのに、シェイド様に抱き上げられてからはわりとすぐ元気になってたな?
「特に何も感じなかったですけど……シェイド様、あったかいな~ぐらいで」
「そんだけ相性がいいんだろ。合わないやつから貰うと痛みを感じたりもする」
「じゃあ、シェイド様も一緒にいてくださるんですか?」
臣君の事件が解決して、もうニ週間になる。
一緒にいられる喜びを噛み締められたのは三日間だけで、その後すぐに後始末の対応に出てしまい、シェイド様とはあんまりお会いできていなかった。
「いるよ。護衛もかねて」
「じゃあいっぱいおめかしします!」
ケイトさんの目が光る。
今日だって、久しぶりに会えるのが嬉しくて、舞踏会にいくんですか?ってぐらい盛ってもらった。
「ッッッッッ~~~~~、必要ない」
「そんなぁ」
最近オシャレが楽しいと思えるようになってきて、女として大きな進歩を遂げたと思う。
妖精風にこだわらなくなって、ケイトさんとばあやの三人であーでもないこーでもないって試すのが凄く楽しい。因みに一番褒めてくれるのは、テオ君だ。
聖典の妖精の髪型の真似ばかりしていたけれど、今はもうそんな事考えなくなった。
今日は長い髪をゆったり片側で編んでおろしてもらって、銀の小さな花飾りを所々に留めてもらっている。
「ゔぅ…………俺の天使」と第一声をもらえたので大満足だ。
セフィロス様やカイウス殿下のように、息を吐くように口説き文句が出てくるわけではないけれど、これはこれでギャップが楽しいので気に入っている。
「聖教会の聖衣とローブを着てもらう事になる」
「えぇ……なんで………………」
「ぷはっ!おまえ、聖女だろ」
「違うもん!シェイド様の婚約者だもん!」
「リリは拗ねると敬語が外れるな?」
「えぇ?そんなこと……」
「あるぞ」
そうかな?しっかりしなくては。
「俺はどっちでもいいけどな。因みに聖主の野郎も来るぞ」
「セフィロス、様……?」
「リリはいつからあいつを名前で呼ぶ様になったのか、詳しく聞かせてもらおうか」
さっきまでタジタジだったお顔が魔王のごときスマイルに変わっている。
「えっと…………示しがつかないからって……」
「へぇ、それで?」
「な、なんで怒って……?あれ?じいや、ナイスタイミング!……じゃなくて、どうしたの?」
小道からじいやがトレーを持って歩いて来たので声をかける。
「ご歓談中申し訳ございません、坊ちゃま、ヘスタ領の領主殿からお手紙でございます。使者を待たせてございます故」
シェイド様がペーパーナイフで手紙を開ける綺麗な所作に見惚れていると、一読した後、めんどくさそうに手紙をトレーに投げた。
「断りの返事をしておけ」
「よろしいのでございますか?」
じいやは使者さんに聞いて内容を知っているようで、珍しく聞き返して来た。
「構わない。その日は俺の婚約者の誕生パーティーだろ、その旨伝えておけ」
「畏まりました」
じいやがトレーを持って帰っていく背中をぼんやり見ながら聞いてみる。
「どうかしたんですか?お隣の領と喧嘩でも……」
「ヘスタか?同盟領だぞ。領主のおっさんも話のわかる奴だしな。夜会に呼ばれただけだ、ついでに娘に魔力を流して欲しいんだと」
「魔力を……娘さんに、魔力が無いって事ですか?」
「まぁそうだろ、何で俺を指名したかは知らんが」
かっこいいからじゃないですか?と言おうとして、信じてもらえなそうだなと思って飲み込んだ。
精悍なお顔のシェイド様はこの世界では人気がないし、何より黒髪が恐れられているから。
「おおかた、俺より低い魔力の奴は全部試したとかじゃねぇ?魔力拡張なんか、何万人に一人の割合で成功するかどうかだ。元々の本人の素質の問題なのに、夢見るやつが多すぎる」
心底どうでも良さそうに言うので笑ってしまう。
「何でそんなに魔力の有無にこだわるんですか?女騎士様ですか?」
「んーとな……庶民なら特に魔力は必要ない。でも貴族は力こそ全てだからな。文官だろうが武官だろうが魔力の高い子供を欲しがる。だから貴族の女は戦いはしないが魔力が高いものからいい縁談相手に選ばれていく」
「魔力が無いと、選ばれない?」
「まぁ、貴族の嫡男は無理だな、二男三男あたりからは縁談もあるはずだ。全く無いってわけじゃ無い。けどヘスタの娘は一人娘だから、婿取りに、より高い魔力の貴族を選びたいんだろ」
「恋愛結婚はあんまり、ないんですか?」
「多くはないな。幼い頃から婚約者が決められている者が大半だしな」
「シェイドさまも……過去にいたんですか?」
「いない。グラセン家は代々戦闘職だからな。いつ命を落とすか分からないから幼い頃からの婚約者は付けない。興味もなかったから、アレックスが結婚したら領主の座を渡そうと思っていた」
あからさまにホッとした顔をしたら、ニヤッと意地悪な顔で笑って、急に抱き上げられた。
「下がっていい」
「畏まりました。行ってらっしゃいませ」
はっ!お庭のお散歩!嬉しい!




