妖精
「三日は部屋に近づくな。食事はドアの前に」
「「「畏まりました」」」
「へ?」
無事に公爵邸に帰ったのはもう真夜中だった。
シェイド様、お、怒ってる!?目が座ってる!?何故!?
シェイド様のお部屋のベットに下ろされて、私の顔を覗きこむ様にベット脇に跪く。
「リリ、おまえは俺の婚約者だ」
「?そうですけど……シェイドさま?」
「俺にとっては高嶺の花すぎて、手を出しちゃいけない相手だ」
「どう、したんですか?」
「おまえ、俺のタイプは妖精だと思ってるだろ」
「?話が見えないですけど、もしかして婚約破棄するとかそういう話ですか!?い、嫌です!嫌です!!シェイド様!!」
話が見えず不安で、シェイド様の真剣なお顔が怖くて胸を抉る。
「っは!そうじゃねぇよ。俺はお前のそういう所に惚れたんだよ。妖精に似てるからじゃない」
シェイド様の袖を掴んだ手に力が入ってしまう。
「だって、俺の妖精って」
「リリが妙に妖精を意識してたのは知ってたけどな。まさかそれが俺のせいとはな。天使は綺麗って意味で妖精は可愛いって意味で使う。容姿に対してだけじゃない」
「で、でも、好きでしょう?妖精風」
「男はみんな好きだけどな。けど、俺がお前に惹かれたのは血まみれで容姿なんて分からない時からだったし、妖精に似てるから好きになったってわけじゃねぇな」
「そんな前!!??」
「惹かれたのはな。特大の愛情ひっさげてガンガンくるリリにどんどん惚れていったんだよ」
「お、押しに弱い!心配!!!!」
「ぷはっ!お前はそのままいてくれればいいよ」
「そ、そのままって……」
「リリはリリの好きなものを探せばいい。誰かの好みになろうとしなくていい。俺はリリが笑ってるのが好きだし、そのままのお前が好きだよ」
「~~~~っ!!!」
「手触りのいい髪も、綺麗な色の目も」
シェイド様はそう言って髪と瞼にキスを落とす。そのまま私の手を取って指先にキスをする。
「俺の目に弱い所も」
「ヒッ!バレてる!!」
「俺の声に反応してる事も」
(耳元で喋らないで!!!)
「臣が出てきた時は内心焦った。俺と同じ顔だしな」
「臣くんが?シェイド様と?全然違います!!」
シェイド様は私を抱きしめたままで何も言わない
「何でみんな臣君がシェイド様と似てるって言うのか全然わかりません!臣君は怖くて、シェイド様はちょっと意地悪だけど……優しいです!!お顔だって、シェイド様は最高にかっこよくて唯一神です!!」
「お、おう?」
「無理やり似てる所を探すなら……髪の色?だけですね!!!要するに全然違います!!」
「プハッ!お前はそーゆー奴だったよ」
「?何がですか、とにかくシェイド様ほどカッコいい人はいないってことです!」
「………………………………誕生日をやり直そうな。成人の祝いは何がいい?何でも買ってやる。国が欲しけりゃ取ってやる」
「………………いつもなんでそういう規模のプレゼントをしようとするんですか!いりません!」
「ドレスなら店ごと買えばいい。何着オーダーしても構わない。だからこれは脱げ」
そう言って、帯に人差し指をそわせてスッと縦に動かすと分厚い帯が切れて、間に挟んでいたコンパクトがベットに転がり落ちた。
「……き、着物はお嫌いでしたか?」
落ちたコンパクトを見たシェイド様は何故か嬉しそうに目を細めた様な気がしたけれど圧がすごすぎてそれどころじゃない。
何だかジリジリベットの奥に追いやられている気がする。
「いや?今のリリは綺麗で天使だけどな。あいつの贈った服なのが気に食わない。とりあえず脱ごうな?」
「えっと…………今です?」
「言ったろ、こっちも我慢の限界だって。散々見せつけやがって」
「三日って、そういう……?」
私の質問にニヤリと意地悪な笑顔で答えると、ぐいっと隊服のシャツの襟元を緩めて髪をかきあげて私を見下ろした。
「もう我慢してやらねぇ」
「ヒィッ!」
ぐずぐずに愛されて、足腰立たなくなって、つやっつやの元気いっぱいシェイド様とゾンビの様な私が爆誕したとだけ伝えておこう。
◇◆◇
「姫様!お熱はもう大丈夫ですか!?」
帰ってきた日は真夜中すぎて会えなかったテオ君が、ベットの住人になっている私の膝に飛び込んで来て心配そうな目で覗き込んでくる。可愛い。
ん?お熱?私熱が出た事にされてるのね?
周りを見るとケイトさんの目が泳いでいたので一瞬で納得する。
「あ、えと、うん!もう大丈夫だよ。テオ君こそ、もう動いても平気なの?」
「はい!痛みももうありませんし、元気です!姫様、お帰りなさい!!」
「悪りぃな、おれがまた夜のデートに連れ出したから熱が出たんだよ」
「今度は姫様のコートを沢山ご用意しておきます!!!」
「あーー、そうしてくれ」
何?何の話?
「リリあのな、お前のくれた手紙を解読したのはテオだ」
「手紙?解読!?え??どうやって!!??そういえば、情熱的って……いわれたよう……な……??え……?私、誰にもわからないと思って……」
シェイドさまは悪い顔でニヤッと笑うとテオ君の頭をグリグリと撫でた。
「お前が臣を天才だって言ってたアレな、テオも出来るぞ」
「因みに団長も出来ますね」
クリストフさんがサラッと言う。
「俺は覚えようと思わないと無理だけどな。テオは見た物全部覚えてるぞ」
「え??一度見たら、覚える……の……?」
「はい!僕、忘れるの、苦手なんです!」
忘れるのが苦手とは。
「え、でも私、テオ君に教えてはないです、けど……?」
「姫様のメモをいつも見てます!インクの試し書きで書かれるヒャクニンイッシュが特に好きです!」
「だから、いつも読んでってせがまれて?あれ?夜のデート……?」
テオ君の認識間違いにきづいて、
ギギギと音がしそうな動きでシェイド様を見ると、イケメンが魔王様みたいな悪い顔で笑ってて……
「夜のデート、また行くか」
「姫様!いっぱい着込みましょう!お帽子と手袋と、沢山ご用意いたします!」
「おいクソガキ、俺が大変「わーー!テオ君お願いね!ありがとう!」
「はいっ!ご用意しておきます!」
テオ君がパタパタと部屋を出たのを見送って、クリストフさんが呟く。
「女性をからかって遊べるのはこの世界では団長ぐらいですね」
「俺の妖精は可愛いからな」
クリストフさんは業務連絡をして退出して、ケイトさんもあったかいココアをおいて出て行った。
部屋には三日間ずっと甘々なシェイド様と私だけ。公爵家でのこの時間が今は一番幸せだと思う。
リリ「シェイド様のドSッ!!!」
シェイド「意味わかんねぇけど、なんか褒められてる気がすんな?」




