聖教会1
窓の外からのガヤガヤとした音が部屋の中まで聞こえてくる。
聖教会御一行が公爵家に到着したんだって。
ちなみに聖都から私がいるグラセン公爵家の領地まで馬車で一週間くらいらしい。
シェイド様がポンポン移転魔法を使うから(毎日聖都でお仕事して、移転魔法でこっちに帰ってるらしい)、それが普通なんだと思っていたら、シェイド様の魔力量だからできる事だったみたいで普通は馬車移動なんだそう。
私がここにきて一週間だから、シェイド様が連絡を入れた日にはもう聖都をたっていた事になる。私の体調が良くなるまで待つって話だったけど、全然待ってくれてないよなと思う。
聖教会が私の認定をするんだって。
落ちビト様じゃなかったらどうするの?ってじいやに聞いたら、
「そうしたらじいやとばあやはラッキーでございますね。ずっとお嬢様と一緒にいられますので」
って言ってくれて涙が出た。
ここの人たちは優しい。
落ちビトと認定されたら、聖教会の人達と一緒に王城のある聖都へ行くと聞かされた。
私はここにいたいのに、私の行き先は誰か別の人がいつも決めるのだ。
「さぁさお嬢様、ドレスに着替えましょうねぇ。シェイド様が張りきってドレスばかりお買いになるから選ぶのに時間がかかりますねぇ」
シェイド様からと、クローゼットにはたくさんのドレスがかかっている。プレゼントとして贈られるというよりは、クローゼットの中が勝手に増えて行く感じ。
本人は会ってくれないけれど。
だから実はじいやが手配してるだけなんじゃないかな、と思っている。
お礼をじいやに伝言しても、簡単なお礼の手紙を書いても、シェイドさまから返事が来た事はないしね。
「神官さん達はもう屋敷に着いてるのに、今から支度をするの?私だけ遅刻しちゃわない?」
「いいんですよぉ。待てができない男たちには、少しぐらい焦らしてやらなけりゃいけませんもの。それに、先にシェイド様とのお話もありますしね。ゆっくり支度してヤキモキさせてやればいいのです!」
ふんぞり返ってばあやが言うのでつい笑ってしまう。
「そのまま聖都に連れて行かれるんでしょう?動きやすい服でいいよ。ドレスを貰っていっちゃうのも気が引けるし」
「何いってるんです!!ここにあるのは全てお嬢様のものですよ!!!それに奴らふっかふかの高級馬車で来ましたからね、しっかりおめかししましょうね!」
「あはは……」
ドレッサーの前に座らされ、入念に髪にオイルを溶かし込んでくれる。
こちらに来た時に変わってしまった私のシルバーの髪と桃色の瞳はこちらの世界の人にいたく評判がいい。
色素薄いだけなのに。
眉もまつ毛も、毛という毛がすべてシルバーだったり、シルバーブロンドだったりする。
顔つきも少し変わったと思う。
こんな美少女だったかな?
あまり鏡をみてなかったし、髪や毛のせいで印象が大きく違うだけかもしれないけど。
「まぁまぁ、今日も輝く様な天使っぷりですねぇ。まるで本当の妖精のようですわ」
天使とか、妖精とか言う言葉がよく飛び交う。褒め言葉ではあるようなので、嫌な気持ちはしないけど。
「シェイド様が好きなドレスはどれかな?久々にお会いできるのでしょう?」
「もちろんですよ。今も下でお嬢様を待っていらっしゃいますよ。男ばかりを相手に辟易している頃ですわ」
「ふふふ、だといいのだけれど。少しでも可愛いと思っていただけるドレスがいいけれど、シェイド様の好みを知らないのよね。
そういえば、いろんな色のドレスを送って頂いたけれど、黒はないね。私の世界では黒は定番だったのだけれど」
「黒……は……不吉な色と言われているのですわ。魔獣の色ですから」
「そうなの?そういえばシェイド様に助けてもらった時に出会った魔獣も黒かったな」
「魔獣は濃淡の差こそあれ、ほとんどが黒ですわ、お嬢様は黒に忌避感がないのですねぇ」
「黒はすきだよ。かっこいいもの」
「まあまあまあ、シェイド様にお聞かせしたいですわね。さぁ、今日はこちらにしましょうか」
ばあやが選んだドレスは紺色のAラインのドレスだった。
紺色は、シェイド様の隊服の色で嬉しい。
スカートにふわふわと花が沢山あしらってあって可愛いけれど、肩がガッツリ出ている。
「舞踏会でもないのに、こんなの着るの?」
「貴族令嬢はこれが普通でございます。お嬢様は元々が細いですし、移動でつらくなると困りますので今日はコルセットはなしにしましょうね」
確かに初ドレスで初コルセットはキツそうだ。
ばあやがてきぱきと着せつけてくれた。
これ、自分で脱ぐ時どうするんだろ。
「宝石は……んまぁ~~、坊ちゃまったらヘタレのくせにこんなもの送って!!他の宝石にしれっと混ぜ込んで!!全く!!」
琥珀を加工した花のピアスとネックレスの箱を持ってばあやが憤慨している。
「それにするわ。とても綺麗」
「お嬢様がよろしいのでしたら……」
琥珀をこんなふうに繊細に加工したアクセサリーは初めて見た。耳元でシャラシャラ揺れて心地いい。
お化粧もしてもらって仕上げてもらう。
「これは……思ったより破壊力がすごいですわね……」
??こんな格好で暴れたりしないのに。
ばあやがうんうんと唸っているのを横目に小さなバックに紅とハンカチ、お気に入りの真鍮のコンパクト鏡を入れた。 ばあやがお化粧品と一緒に揃えてくれたものだ。
パーティーに行くみたいだけれど実際は一階に行くだけだ。
あ、このまま聖都に行く事になるのかもしれないけれど。
その時トントンと、控えめなノックの音が聞こえた。