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タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する  作者: 雨香
第1章

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舞踏会3


暫くして戻ってきたカイウス殿下にエスコートされて階下に降りると、すぐに私の前に挨拶の列ができた。

カイウス殿下が上手く貴族達との会話を誘導してくれて、(たい)私との会話ではなくご自分との会話に持っていってくれるので私は笑顔で頷いているだけでいい。


お茶会のお誘い、各地の産物の自慢、ご息女やご子息の紹介、その合間合間に値踏みするような視線で私の事を見る貴族達。

そうやって、私という異物が自分達にとって使える存在かそうでないかを判断していくのだろう。

十人を超える頃にはもう顔の区別もつかなくなってきていた。笑顔が引き攣る。


公爵家の後は、侯爵家、伯爵家と挨拶は続くらしい。それ以下の人は省略してくれたみたい。うん、時間的にも体力的にも無理だね。


シェイド様は公爵位だけれど、今日の警備責任者らしく、手が空いた時に来るんだって。すぐに会えると思っていたのに、近くにいないかと目がキョロキョロとしてしまう。


「侯爵家までの挨拶が終わったよ。少し休憩にしようか、慣れないと疲れるよね。何か飲み物を取ってくるね」


階下にも王族専用スペースがあるようで、薄い天幕で区切られた場所にエスコートされた。ここは公爵家以上の地位の人しか近付けないからゆっくりできるそうだ。


「ありがとうございます。緊張してしまって……殿下がたくさん助けて下さったのが分かりました、ありがとうございました」


「僕はこのような事に慣れているだけだよ、お役に立てたのなら良かった」


殿下の去った後、薄い天幕の隙間から会場を見やると黒い髪のスラリと背の高い人が目に入る。


シェイド様!!一人だけ輝いて見える!!

あ、お隣にクリストフさんもいる!


かけていきそうになってなんとか天幕の入り口で止まる。

お仕事中だもの、邪魔しちゃいけないよね。


は~今日もめっちゃかっこいい!!

天幕をにぎりしめて見つめていると、琥珀色の目と視線がぶつかった。


途端、クリストフさんに何か話したかと思ったらお二人でこっちに歩いてきた!


二人ともコンパスが長いから、めっちゃ早い。心の準備が!!!!


「リリ様」


低音の柔らかい声にぼんやりしてしまう。



「お披露目が無事に済みましたこと、公爵家を代表し、お喜び申し上げます」


片手を胸にあて、騎士の礼をとりながらシェイド様が言う。

 

「シェイド様…………」


畏まった物言いが、彼との距離を感じて心が痛い。


「あ、あの、隊服を……私がお借りしてしまったせいでしょうか、その、今…………」


着替えの隊服いっぱいあると思い込んでいたけれど、もしかして無かった!?

シェイド様の腕まくりしたシャツ姿もとっっっても眼福なんだけれども、私めっちゃ迷惑かけてた!?


「あぁ、ご心配にはおよびません。ボタンが一つ取れていまして。目立つ位置だったため、急遽脱いで頂いたのです。今変えの隊服を部下に持って来させている所でして」


ご挨拶に間に合わず、申し訳ありません、私の失態です。とクリストフさんが頭を下げる。


「い、いえ、それなら……良かったです」


「してリリ様、これがその取れたボタンなのですがね。因みに胸元のボタンです」


クリストフさんはそういって握っていた手を開く。


「は?おま、何を……?」


「!!!」


素が出てしまってるシェイド様素敵!!の気持ちとシェイド様の隊服のボタン!!の気持ちで脳がパンクしそう!

推しの!隊服の!!ボタン!!!!


「隊服の方はすでに修理にだしておりますので、このボタンはもう用無しなのですが」


「下さいっっっ!!!!!!」


「はぁっ!?」


「はいどうぞ。そう言って頂けると思っておりました。これでゴミが一つ減りましたね。エコですねぇ。団長」


「なっ——は!?」


「行きますよ。仕事がつかえておりますので。それではリリ様、本日の警備担当は私ども第二が承っておりますので、何かございましたら何なりとお申し付けください」


「あ、はい!あの、クリストフさん、ありがとうございます!!」


「いえいえ、我が国の落ち人様に喜んで頂けて光栄でございます。それでは、御前失礼致します」


そう言ってズルズルとシェイド様を引きずって連れて行くクリストフさん。

線が細いのに、めっちゃ力持ちだな。


「ようございましたね」


ケイトさんがニコニコうしろで笑いかけてくれた。


「はい、……嬉しい」


この世界にも好きな人のボタンをもらう文化があるのかな?クリストフさんグッジョブだな!!

やっぱりあの人もぜったいシェイド様推し仲間な気がする!!!

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