揺らぎと自覚 シェイドside
「無理だろ…………これ」
飢えた獣に全力でぶつかってくるウサギに全身の血が沸騰する。
傷つけたくなくて、大切にしたくて、自ら檻に入った飢えた獣の懐に、嬉しそうに飛び込んでくる。
慣れない愛情を、特大の愛情を、受け取らない選択は取れないくせに、受け取った物の大きさに戸惑う。
俺の隊服を羽織った彼女の姿が脳裏にチラついて離れない。
隊服のボタンを両手で包んで頬を染める妖精を思わず抱きしめなかった俺を誰か褒めて欲しい。
飢えすぎて、乾きも痛みも感じなくなっていたはずだった。なのに。
「クソが————もう無理だろ、これは」
「やっと自覚なさったんですか……とっくに、最初から、ずっと、骨抜きだったじゃないですか」
「あぁ、そうだな」
「おや、いつもの舌打ちが返ってくるかと思いましたが」
「うるせぇな。むしゃくしゃするから第二王子殴っていいか?」
「だめですよ。リリ様のためのパーティーを殺人現場にするおつもりですか。掃除をする部下達が可哀想です」
「殺した方が早いだろ、俺のだ」
「団長、ステイです」
「チッ…………」
「今日ほど嬉しい舌打ちは初めてですが、可愛い部下達が縮み上がるので今後は控えてもらうようリリ様にお願いしてもらいますか。
————あぁ、成る程。団長に何かお願いしたいときは、リリ様におねだりしてもらうのも手ですね」
「後半、声が漏れてるぞ」
「リリ嬢の、おねだり」
「ぐっっ…………!」
「やはり我ながら良策を思い付いてしまった様です」
「飛び込んでくる妖精を拒否できる方法があったら教えてくれ」
「全男が無理です」
「奇遇だな、同感だ」
「団長、カイウス殿下に殺気を送るのやめてもらっていいですか」
「チッ…………あいつに護衛なんて務まんのか。俺の殺気にも気付いてねぇじゃねぇか。頭湧いてんのか」
「ちゃんと気づかれない程度の殺気にコントロールなさってるじゃないですか。団長の本気の殺気をぶつけられたらこの会場が地獄絵図ですよ。絶対にやめて下さい。それに誰が護衛しても団長よりは弱いです。ご自分でするしかないかと」
「第一の護衛の奴等全員俺がしごくか」
「死人が出るのでやめて下さい。第一の人数が減るとこちらの仕事が増えますので。
おや、第一の若いのが一人気づいた様ですね、びっくりして団長を凝視してますよ」
「へぇ、引き抜いとけ」
「リリ様の周りに感のいい奴を置くのも愛情ですよ」
「……………………」
「団長が桁違いなだけで、カイウス殿下もそれなりにお強いですよ」
「デレデレしすぎだろ。護衛じゃねぇのか」
「王家もリリ様を取り込むのに必死ですからね。カイウス殿下は頑張って口説いておられるようですが……安定のリリ嬢ですね、団長しか見えてないあの感じ」
「……………………」
「羨ましい限りです」
「やらねぇぞ」
「私に頂いても、エンドレスで団長の話をせがまれそうですねぇ」
「………………………………そうだな」
「おやおや、今日は槍が降るかもしれません。警備計画に記載しませんと」
「…………チッ」




