第13話 蛮勇王の破城槌
「どうした冒険者殿? ここはまもなく死地となる。安全な後方に下がられよ」
馬に跨がり悲壮な覚悟を決めたように硬い表情の騎士のお姉さんお兄さんをかき分け、最前線まで進むと、団長さんを探すまでもなくそう声をかけられた。
「あっ、団長さん」
「謝礼が足りなかったか? なら、我が輩の武具もやろう。今すぐには入り用のため渡すことはできないが、我が輩が死した後に、我が輩の屍から剥ぎ取っていくが良い」
「いえ、馬車の女の子にあなた方を死なせないように依頼されましたので」
「テュッテイ様が?」
……テュッテイと言う名前なのか。
やっぱり貴族だな。言いづらいし書きづらい名前だ。
「ええ、そうです。テュ、テュッテイ様にです」
「それはすまないことをした。テュッテイ様はまだ世間をよく知らぬ故、夢見がちなところがあってな。どうやらまだ現状を受け入れていないようなのだ。困ったお方だ」
団長さんはそう言って寂しそうに笑うけど……。
彼女は、テュッテイ様は現状を誰よりも受け入れていると思う。誰よりも受け入れて、全滅覚悟の突撃なんて思考停止に陥らずに、生き残る方法を模索しているんだと思う。
だから、ぼくだ。
諦めずに考え抜いた末、ちょっとのヒントからぼくという手段を導き出したのだ。
「とりあえず依頼を受けたので、ちょっと失礼しますよ」
団長さんを置き去りにして最前線に進み出る。
松明の灯りさえ届かない真っ暗闇に幾百、幾千と輝くゾンビの赤い眼。
ゆら~り、ゆら~りと近づいてきているのがわかる。
「ざおー」
寡黙な従者となってぼくの脇に控えていたざおーからガンバルムンクを受け取り、天突くように上段に構える。
「何をするつもりかは知らぬが、無闇なことはしてくれるなよ!」
無闇なこと? ああ、無茶な騎馬突撃を邪魔するなってことかな?
……まあどうでもいいや。
息を吸い、――《スキル》発動!
バチッ、バチバチッ、とガンバルムンクに赤い稲妻が巻き付く。
膨大なエネルギーの奔流にじりじりと肌が焼ける。
前段階の《鉄槌》とは比べものにならない圧倒的なエネルギー。
ただこれだけでぼくという存在がかき消えてしまいそうだ。
息を吐き、また吸い、息を止める。
ふっ、と息を吐く。と、同時に、
「――やってみる!」
ガンバルムンクを振り下ろす。
直後。
放たれた赤い閃光が夜を昼に変えた。
圧倒的な破壊の坩堝が大波のようにゾンビを、ただそこにあった木々を飲み込む。
そして、昼となった夜が、また暗闇を取り返したとき、ぼくの前にはぽっかりと空があった。ゾンビも、ただそこにあった木も、何もかもを消し飛ばして。
「ふぅ~……っと、一息ついている場合じゃなかった! 団長さん!」
「……」
団長さん? 何を……他の騎士のお兄さんお姉さんと同じに目をまん丸と見開いて、ぽっかりと空いた夜空を眺めてるんだけど。……大丈夫かな?
「団長さん? 団長さん、ってば!!」
「――はっ! わ、我が輩は何を? 夢でも見ているのか?」
「今のうちに撤退してください。またゾンビが集まってくる前に」
「ゾンビ?」
団長は、はっとした。
「ゾンビが……いない!」
「今のうちに撤退を」
「そ、そうだ! 何が起こったのかいまいち理解できぬが――今が好機!」
団長さんの号令が飛び、呆けていた騎士団の皆さんははっと我を取り戻した。
馬の手綱を握り直し、乱れた隊列を見る間に整える。流石、騎士様。凄い練度だ。
「勇者様!」
ぼくの後ろから馬車がやってきて中からテュッテイ様が手を振っているのが見えた。
「ジルタスの教会にお越しください。是非、お礼を」
馬車の速度に合わせて騎士団がゆっくりと動き出し、だんだんと速度を上げていく。
「勇者様だって」
ぷぷぷっ、と笑いがこみ上げてくる。
ただの村人なのに「勇者様」って……嬉しいけど、ちょっと恐れ多いね。
「何笑ってるのよ?」
「うぎゃ!」
後ろから蹴られた。誰に? ってひとりしかいないじゃん。リリンカだ。
「蹴った!」
「気を引き締めなさい……まだ終わってないのよ?」
「終わって――」
ああ、耳を澄ませばゾンビのうめき声が。
ざっ、ざっ、ざっ、とゆっくりとだけど、近づいてくる足音も聞こえる。
脅威の破壊力を誇る《破城槌》だけど……、
森の隅々まで届くような破壊音で残りのゾンビを呼び寄せてしまったんだ。
「失敗したね……乗せていって貰えばよかった」
「格好つけて見送ってるからよ」
「うぐっ!!」
……的確に、痛いところを!
可愛い子の前で格好つけたいのは男のサガなんだからしょうがないじゃん!
「長い夜になりそうね」
ふんっ、と熱い鼻息を鳴らすリリンカ。
「パンパカパ~ン、フィルは《蛮勇王の真髄》を獲得しました~、おめでと~」
と、そのとき。
すっかりお眠のシルキーが寝言のように何かを言った。
「《蛮勇王の真髄》?」
ギガマラテス様系の新スキルっぽいけど……。
「英雄辞典を確認している暇はなさそうだ!」
ガンバルムンクを構える。
暗闇にいくつものゾンビの眼が輝き、ゆらゆらと揺れながら近づいてくるのが見えた。
『やれやれ、役目も果たさずに眠りこけおって……しょうのないやつだ』
「あっ、ギガマラテス様!」
碧い炎が渦巻き、ギガマラテス様を形作る。
『我が輩が直に教授してやろう! 実験台には事欠かぬからな!』




