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第9話 ゾンビ狂想曲

 ――赤い光が輝いた!


「朝ご飯?」


 手をひさしにしてシルキーが遠くを眺める。……夜なんだからひさしいらなくない?


「獣じゃない! 数が多すぎる!」


「アンデットよ、数は……いっぱい、とにかくいっぱいよ」


 ――アンデット!?


「でも、なんでこんなところにアンデットが……お墓もないのに」


「ぼく、アンデットと戦うの初めてだよ」


「ぼっーっとしてないで! 松明を構えて!」


「なんで松明?」


 ショートソードもあるし、なんならパメラガジェットを使えばいいのに。


「来るわよ!」


 風が吹き、枝葉がざわめく。

 その瞬間、枝葉の隙間から月明かりが零れ、気まぐれに暗闇を払う。


「――っ!」


 思わず悲鳴を上げそうになって慌てて呑み込んだ。

 見た。見てしまった!

 森の闇に目を赤く光らせる、何十、何百と群れをなす人に似た、人にあらざる何かを。

 何十、何百もの人影が、押し合い、へし合い、駆け足で近づいてくるのを。


「ひ、ひぇ~!」


 松明を構えろ、と言われたけど、ぼくは愛用のショートソードを手に取った。

 阿吽の呼吸で、シルキーがぼくの背中に負ぶさる。


「ば、馬鹿――」


 リリンカが何かを言おうとしたけど、耳に入ってこない。

 すでに彼我の距離は20メートルを割っている。

 こんな大群に押し切られたら……ああああっ! 考えただけでもうダメだ!


「こっち来んな!!」


 赤い閃光が横一文字に駆け抜け、人にあらざるもの……ゾンビを数十匹単位で薙ぎ払う。

 一瞬、気が遠のき、――はっ! 目を覚ますと……うわわわわっ! 目の前にゾンビ!

 数十体は倒したはずなのに、その勢いは一向に衰えることがない!


「ざおー!」


 うほっ! とざおーがぼくに向けてガンバルムンクを放り投げる。

 空中で、ガンバルムンクを掴み取り、斬って、斬って、また斬る!


 ゾンビは防御もなしに突っ込んでくるだけなので、草刈りと同じくらい簡単に切り倒せる。

 ……の、だ、け、どぉぉぉぉっ! ――斬っても斬っても斬っても襲ってくる!


 首ちょんしても、胴体を一刀両断しても、上半身と下半身を離ればなれになっても!

 首をなくした体が、袈裟懸けに切られた胴体が、上半身だけが!


「どうすれば倒せるの~!」


「だ・か・ら! 燃やすのよ!」


 リリンカの声。同時に、炎を纏った大蛇のようなものがゾンビの群を薙ぎ払う。

 一瞬にして数十体のゾンビが火だるまとなって地面を転がり……。

 火だるまになったまま襲ってきたら嫌だなぁ、なんて考えているけど、


「お? おおおっ?!」


 驚くべき事に火だるまとなったゾンビたちはそのまま動かなくなったのだ。

 あとにはゾンビだった焼死体を残して。


「死んだっ!」


「松明を拾いなさい」


 顔を上げると、木の上で器用に炎を纏った鎖をぐるぐると振り回し、二度三度とゾンビの群を打ち据えるリリンカの勇姿が目に入った。

 どうやらあの炎を纏った鎖を大蛇と見間違えたらしい。けど、


「何それ? すごい!? 格好いい!」


「《炎鎖鎌》よ」


「ニンジャのスキル?」


「そう。……余裕ね、大丈夫?」


 何が? と問う間でもない。

 後ろからも、左からも、右からも、ゾンビが襲いかかってくる。


「わわわわわわっ、――た、松明! どこ?!」


 幸いにしてすぐに見つかった。ゾンビの群の中心あたりで、まだ煌々と燃えている。

 松明というよりは焚き火が踏み消されもせずにそのまま残っているようだ。


 距離にして5メートルくらい。

 さっきまであそこにいたのに……いつの間にこんなところまで下がってしまったのやら。

 ゾンビ、恐るべし! ……って感心している場合じゃない。


 ゾンビゾンビ、またゾンビ!

 斬って斬って、また斬って! 斬って斬って、――斬りがない!

 お? ちょっと上手いこと言った! ……ってそれどころじゃない!


 かくなる上は《真価を示せ》だ!

 サビ丸の剣戟、ざおーの剛腕、どっちか一つでもあればこの状況を、……あ、あれ?


「サビ丸は?」


「あっち」


 シルキーが教えてくれた。

 ゾンビの足下を、逃げ回るサビ丸。

 ――なにを?

 あ、なるほど……足下を逃げ回ることでゾンビの注意を引いているわけだ。

 何匹かのゾンビがサビ丸を追って右往左往している。

 小型犬ならではの戦い方だな。流石サビ丸。さすさび。


「なら、ざおー……は?」


「あっち」


 今度は樹上を指差した。


 燃え盛る松明を何本か小脇に抱えたざおーが樹上からそれをほいほいとゾンビの群に投げ込んでいる。1本、ぼくにもくれないかな~、と思ったけど、……なるほど! 


 ぼくの周りに火のついた松明をばらまくことでゾンビの勢いを殺し、ぼくがゾンビを斬りやすくしていてくれたのだ。地味だけど良い仕事をしてくれる! 賢いお猿さんだ!


 でも……困ったな。《真価を示せ》を使うには、二匹とも遠すぎる。

 ぼくが近づくか? ああ、無理だ! 

 ゾンビは全方位から襲ってくるのに前進に注力できない。背中が疎かになる。


「メッキが剥がれたわね!」


 リリンカの声。


「な、何の話?」


「やっぱり冒険者カードの功績はズルだった!」


「ち、違う……」


 必死に言い訳しようとするけど……ゾンビっ! 邪魔っ!


「この程度のゾンビに苦戦しているのが何よりの証拠よ!」


「だから――」


「これにて査定は終了する。マスターには武運拙く野垂れ死んだ、って報告しておくわ」


「ま、待って!」


 ぼくの制止を振り切り、リリンカは木から木へと飛び去っていく。

 ……ま、また置いてけぼり?! でも、そっちは……不味い! 

 先の《音当て》で知り得たことだけれど、あっちはゾンビの密度が一番濃い方向だ。


「馬鹿リリンカ!」


 なんとかゾンビ共を振り切って連れ戻さないと!


「ざおー、サビ丸……戻ってこい!」


 ばぁう! うほっ! と自分たちの仕事を即座にやめて駆け寄ってくる。


「よし!」


 指をぱちぃん! とひとつ鳴らす。

 直後、

 ごごごごっ、とぼくを乗せた地面が隆起し、仮初めの高所が出来た。

 アイギス様の《瞬間建築》だ。

 これで全方位から襲われることはなくなった。

 次は――ああ、ダメだ!


「シルキー、ごめん。MPちょうだい!」


「持ってけ~」


 シルキーからのMP譲渡に体がかっかと熱くなる。

 これ絶対、ぼくの【さいだいMP】の上限ぶっ飛ばしてるよね、きっと。

 とととっ、感心している場合じゃなかった。

 ぱちぃん! と指を鳴らす。

 ごごごごごっ、と今度はぼくらの周りの地面が隆起する。

 ぼくらを囲う壁みたいに隆起した地面にゾンビの流動が限定的なものになる。

 これでちょっとは時間が作れた……はず!

 今度こそ《真価を示せ》で、……なんとかなるか、これ?

 見渡す限りのゾンビゾンビゾンビゾンビ……。

 効果時間は、たった3分しかないのに……途中で効果が切れて、ゾンビの群のただ中で八つ裂きにされる未来しか見えないんだけどぉぉ?!


「とるるるるる~!」


 ――え?


「ちゅるる?」


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