第六話 英雄とサムライ
意識を取り戻した時、私は冒険者ギルドの英雄になっていた。
魔力を回復するのに数日休養して、冒険者ギルドを訪れる。
扉から入った瞬間、大歓声が上がった。
「ギネス! あんたのおかげで命が助かったよ!!」
「お前は俺たちの英雄だ!!」
「すげぇよ!! よくもあの化け物から生きて帰って来た!!」
クエストで一緒だった冒険者たちが私を取り囲み、手放しで褒め称えた。
他の冒険者たちはそれぞれが酒を飲んだり、食事を楽しんでいた。
中には大声で歌を歌っているものもいる。
緊急クエストは通常のクエストよりも多くの賞金が払われる。
だからクエストが終わった後には、こういったギルド全体での大宴会になりやすい。
宴会の輪の中心に座らされ、グラスに酒を注がれる。
そして私にクエスト中の出来事を話すように要求される。
しかし私はそれらを素直に喜べなかった。
神龍の攻撃を防いだのは、他の選択肢がなかったからである。冒険者たちを助けようと思ったのも事実ではあるが、半分はあの場所での死を願ったのだ。
そもそも私は神龍を倒したわけではない。ただ攻撃を防壁スキルで止めただけだ。生き残ったのは神龍の気紛れにすぎない。
何かを成し遂げた実感は……なかった。
それでも今は無理にでも喜ぶべきなのだろう。
クエストの前には、誰からも無視されていたのだ。それに比べれば今は天国。冒険者を続けられる道が開けるかもしれないのだ。
どんなに頑張っても、私は一人だけでは戦えないのだ。
「皆さま、ありがとうございます。これほどの賞賛は身に余る光栄です。死ぬ気で頑張ったかいがありました」
ギルド中から拍手が巻き起こる。
クエストにおいて隣で戦った中年の男が進み出てきて言った。
「いやぁ。クエストが終わったら、あんたをパーティーに誘おうと思っていたんだ。戦闘スキルを持ってなくても、十分に戦力になると思ってさ」
「ぜひ、お願いしたい!」
私は即座に頭を下げる。そうだこれだ。これをずっと待っていたのだ。
これで冒険者を続けることができる。
しかし中年の男は照れたように頭をなでた。
「でも、もう無理だな。あんたはうちのパーティーに収まる器じゃないよ。なんたってうちはBクラスだからなぁ。最低でもA、Sクラスのパーティーじゃないと釣り合わないよ」
気が抜けた。
そうなってしまうのか。
何もしなければ無視され、活躍すれば逆に遠ざけられてしまうのか。
私はギルドの冒険者たちの顔をみる。
笑顔ではあるが、誰も私をパーティーに誘おうとはしなかった。
これで駄目なら、どうすればいいんだ?
ギルドの職員が私に声をかけた。
「ギネス様。先ほどからギルド長がお待ちです」
そうだった。今日はクエストの報告に呼ばれていたのだった。
宴会に気を取られて、すっかり忘れていた。
「すまない。すぐに向かおう」
私は席を立ち、ギルドの奥へと歩き始める。
その時、きしんだ音と共にギルドの扉が開いた。
背の高い女がギルドに入ってくる。美人ではあるが、それ以上に黒い目と髪がとても珍しく、人目を引く。
腰に少しだけ曲がった剣を差している。いや、あれはたしかカタナといわれる武器ではなかったか。一度だけ武器屋で並んでいるのをみたことがある。
その女はわき目もふらず、私のほうへ歩いてくる。
この女と会ったことがあるのだろうか? いや、まったく記憶が存在しない。
あの黒い髪ならば一度見たら、忘れるはずがないのだが。
ついに女は私の目の前に立ちいった。
「あなたが冒険者のギネスか?」
「そうだが。あなたは?」
突然、女はその場で土下座した。
「あるじ様、死ぬまでお仕えいたします」
私だけでなく、ギルド中の冒険者がぼうぜんとその土下座を見つめていた。
この女はいきなり何を言ってるのだ?
いや、そもそも誰なのだ?
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