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第九話 アーヴィン戦②


 「防壁作成スキル発動!!」


 反射的に目の前に防壁をはる。神龍の純白の炎をも防ぐことができた防壁。

 アーヴィンの攻撃を防げないはずがない。これで私自身と周りにいる人間は守れる。


 

 だが、私にできたのはそこまでだった。


 

 アーヴィンが光り輝く剣を天にかかげる。

 その光が不意に消える。

 消えた瞬間、透明な斬撃が周囲にばら撒かれた。


 斬撃の一つ一つの威力は大したことはない。しかしばら撒かれる斬撃の数は数万から数十万。それが無差別に周囲の生物を襲う。

 

 防御スキルを持たない人間はひとたまりもない。

 そしてここにいる冒険者はCクラスのものが大多数であった。



 一瞬にして、冒険者ギルドは地獄と化した。



 血の匂いが立ち込め、重傷を負った人間があちこちで悲鳴をあげている。


 テーブルやカウンターなど、部屋にあった全てのものが粉々に切り裂かれている。それどころか冒険者ギルドの建物自体が傾くほどに破壊されていた。


 

 私は奥歯を噛みしめる。

 

 アーヴィンがそのスキルを持っていることは知っていた。

 そのスキルは本来なら多数のモンスターに囲まれた時に使うものだ。


 だがまさか大勢の人間相手に使うとは思いもしなかった。

 

 私を殺そうとするだけならば、まだ理解できる。だが無関係の人間を巻き込むとは。

 今の攻撃で何人の人間が死んだのか。

 

 私は悟らざるを得なかった。


 アーヴィンは狂っている。

 その心はもはや人間のものではない。



 すでに話し合ってどうにかなる段階ではない。私とアーヴィンは殺し合うしか道がない。



 「アーヴィン。ようやくわかった。私はお前を止めなければならない。それが一度はパーティーを組んだものとしての責任だ」


 アーヴィンは笑う。


 「クククッ。戦えないお前にそれができるのかよ。できないだろうが。お前にできることはその壁の後ろでこそこそ隠れていることだけ」


 ゆっくりと私に近づいてくる。


 「最近な、拷問スキルを新しくおぼえた。なかなかのもんだぜ。試した人間は全員おもしろいように俺の言うことを聞くようになる」


 私が作れるのは、あくまで壁である。その面でしか防御することはできない。

 遠距離の攻撃はほぼ防げるが、近距離で高速で動かれると対処しきれない。

 

 私はアーヴィンの弱点をよく知っている。それと同時にアーヴィンもまた、私の弱点をよく知っているのだ。


 「Sランク冒険者は神ではない。理由なく人を殺す権利などありはしない!」


 「あるさ。いや現にある。他のSランク冒険者が何をしているのか知っているか? 俺以上のことをしている奴らがゴロゴロいる。それでも誰もそれに口出しできねぇんだ」


 噂だけは聞いたことがある。だがあくまで噂にすぎないと思っていた。

 それはただ単に、私が現実に目を背けていただけだったのだろうか。


 「強い人間は、弱い人間を踏みつける権利がある。それだけのことだ。お前も何かの間違いでSランクになればこの感覚がわかるだろうさ」


 「冒険者ギルドが黙ってはいないぞ」


 「ハハッ。その脅し文句が効くのは、お前のような低ランクの冒険者だけだ。そりゃ、昔は力があって全ての冒険者は従っていたさ。だが今となっては何の力もありゃしない。」


 また一歩、アーヴィンが私に近づく。




 冒険者ギルドの中には私とアーヴィンたち、それにムラサキしかいなくなった。


 アーヴィンが周囲を見渡す。

 

 「ああ、なるほど。まだ生きている雑魚を逃がすために無駄な話をしたってわけか。あいかわらず小賢しい奴だなぁ。で? それでどうやって俺を殺すんだ?」


 血にまみれた剣を私に突きつける。

 その歪んだ笑みは、モンスターと変わりはしない。


 それでもアーヴィンの言っていることは正しい。

 私は防壁作成スキルしか使えない。防御しか選択肢がなく、勝つには一人では絶対に不可能。

 だからこそ私はパーティーを組むことを願い続けてきたのだ。

 

 私は横にいるムラサキに声をかける。


 「ムラサキさん。会ったばかりだが、一生のお願いがある。あるじ様でも、仲間でも、奴隷にでもなる。だから…」


 ムラサキがアーヴィンから私の方に目線を向けた。


 「共に戦ってはくれないか?」


 「わたしはすでにあるじ様に仕えました。どんな命令でもお聞きいたします。ただ、そうですね。それでも一つだけ条件を付けるなら」


 ムラサキは小さく笑う。

 それはとても美しい顔であった。


 「ムラサキさんではなく、ムラサキとお呼びください」


 「わかった、ムラサキ。頼む。アーヴィンにこれ以上人を殺させるわけにはいかない」


 「当たり前です」


 ムラサキは深く腰を落とし、足を広げる。そしてカタナに手をかける。

 その姿は大型の肉食動物が獲物に飛びかかる様子を思わせる。


 「あのような外道、あるじ様の命令がなくとも生かしてはおけません」


 そこでムラサキは一呼吸置く、そして。



 「加速スキル発動」



 ムラサキの第一歩目が床を踏み割る。そして第二歩目も。

 二歩目で、スキルなしの人間が出せる最高の速度に到達していた。


 さらにムラサキは加速していく。

 そして一直線にアーヴィンへ突撃していく。

 


 これが近接職のスキル。

 私には死ぬまで到達することができない領域。


 

 ムラサキはアーヴィンの手前まで到達すると、即座にカタナを抜き放つ。

 

 一瞬、見惚れてしまう。

 なんというなめらかな動き。まるでカタナが体の一部のような。

 どれだけの訓練を積んだらこの動きができるのか。




 これがサムライか。




 ガギィィンンと金属同士が衝突する音がギルド内に響き渡る。



 アーヴィンはそのカタナの斬撃を間一髪受け止めていた。

 カタナと剣の衝突で火花が舞い散る。



 「…やるじゃ……ねぇか…」



 その声には今までのような余裕はもう存在しない。

 


 カタナと剣にお互いの全力が込められ、わずかに震えている。



 「外道は死ね」



 そのムラサキの声には純粋な殺意が込められていた。

 


 アーヴィンの方へカタナが押し込められていく。

 もう少しでカタナがアーヴィンの体にとどく。


 

 それでも。

 


 アーヴィンの歪んだ笑みはまだ消えない。

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どうかよろしくお願いします。

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