162話目 聖地デート
桜&小町回。舞台はアキバ。
リアルで、次はいつ行けるようになるのだろう?
「桜姉さん。ちょっと……いい?」
「ちょっとと言わず、永遠でも!」
愛する妹からの、久方ぶりの相談に桜のテンションは嬉しさから一瞬で限界突破。
「うわ……正直引くんですけど。どうしてそこまで昂ってるのかマジイミフ。ま、駄目元だし……いっか」
「はて?いきなり蔑まれている気が致しますが?」
「いつもの事でしょ?取り敢えず、お昼でも食べながら相談したいんだけど」
本日は桜と小町を残し、全員が既に出掛けていた。
「ふむ……それではボク達も出掛けるとしましょうか?ふふ……小町たまと二人でお出掛け……実に久し振りであります!」
「……先行きに不安しかない」
「まぁ、桜姉さんが出掛けるって言ったら、高確率でこの街になるわよね」
「帰って来たのであります……地球の……聖地に!」
そこは、日本の……否!世界のヲタが、一度は巡礼したいと願う聖地にして、数多の財宝が集い埋もれる夢の市場。
「リサイクルショップだらけだもんね」
冒険者達は己が欲する宝を求め、数多の塔を駆け巡り――
「ダンジョンじゃなくてビルね」
世界の垣根を越え、神話や英雄譚を記した書物・絵物語。幾万幾億を越える偉大な聖典の写本が、万人の手に取られるのを今かと待ち――
「ラノベと漫画でしょ」
破壊の機神・雄々しき戦神・麗しき女神・可憐なる歌姫……匠の手により再現された至高の芸術たる写し身の数々
「えっちぃフィギュアは目のやり場に困るよね」
神秘の力宿せし絵札を操る魔術師達が、決闘を繰り広げ互いの力を高めあう
「TCGの対戦会でしょ」
雷の魔力にて起動せし人類の叡智の結晶。際限なく創造される仮想世界に繋がる秘宝。心せよ。それは両刃の剣。魔性に囚われ、現し世を捨てることなかれ――
「パソコンかな?ネトゲに嵌まるとヤバイよね」
「尽くの冷めた突っ込み、ありがとうございます!」
聖地・アキバを散策しながらの姉妹漫才。理解はあっても興味なし。小町は心拍数を一切上昇させることなく、会話を断ち切るような返しで応えていた。
だがしかし、ボケの心を粉砕するような突っ込みであっても、今の桜には通用しない!どれだけ冷徹で冷淡で冷酷であろうとも、妹様からコミュを図ってくれたとゆう事実。それに勝る悦び……喜びは無いのである!
「さ~て、小町たまは何を食べたいのでありますか?お姉ちゃんが、何でも奢ってあげるでありますよ~♪」
配信で稼いじゃってる桜は、そこらのJCよりも財布ポイントに余裕がある。ぶっちゃけ、日常的なバイトをしていない剣よりも自由に使えるお金を持っている。
だが、小町は桜が具体的にどの程度の収入があるのかを知らない。そんな会話をしてこなかったから。
「……じゃ、肉。牛肉。お店は姉さんに任せるよ」
小町の気分的には、「ハンバーガーとか、アキバだしケバブ。たまには吉○家の牛丼でもいいや~」なんて、軽く考えていたのだが。
「え!?こ……ここ入るの?」
「はい!何か問題でも?」
「いや……私達、JCとJSなんですけど……これは、高級店とは違った意味で敷居が……」
桜が案内したのは、電気街大通りに面した雑居ビルの二階。ハンバーグやステーキを鉄皿で提供するお店であった。
「まぁまぁ、手頃な値段のメニューもあって、味も悪くはありませぬから!それに、スープとライスがおかわり自由なのがポイント高しなのです!」
「店選びのポイントが、完全にガッツリ系だよ!」
私、そんなに沢山食べないよ……近くにサ○ゼとかコ○スとか、敷居の低いファミレスあったよね?みたいに目で訴える小町であったが、桜はお構い無しに腕を引っ張り、躊躇いなく店のドアを開いたのであった。
お昼時の店内は、店外に行列こそ出来てはいなかったものの、全客席の八割程度は客で埋まっていた。そして、カウンター席には……お一人様の男性オンリーである。
そして、男性達は一瞬目を見張る。まるで、生命体として別種の存在が現れたかのような驚きで……
因みに、姉妹の今日のファッションであるが、桜は瓶底レンズ眼鏡に、チェック柄シャツの裾をジーパンに押し込んだベーシックヲタスタイル。しかしピッチリキツキツにしているので、見事なまでに女性的なボディラインが際立っていた。
一方小町は夏らしくショルダーオープンのトップスにミニスカート。若さ溢れる白い肌を、大胆に健康的に晒していた。以前遥のストーカーを尾行した時ほど派手ではないが、フェイスメイクもちゃんとしている。聖地で見かけるような、歴戦の腐なお嬢さんがするようなコーディネイトではなかった。
あれ?ここにゴスロリと冴えない兄ちゃんがいたら……みたいな動揺が男性客に伝播してたりしなかったり。
「お二人様です!テーブル席空いてるでありましょうか?」
同士からの視線をガン無視。桜は慣れた感じで店員のお姉さんに声を掛ける。
「はい!あちらの席へどうぞ~」
店員さんも慣れた様子で、桜に速やかに応対した。……馴染みになる程度には、桜はこの店を行き着けにしているみたいだ。
店内に入った途端、漂う肉と脂の香ばしい匂い。鉄板で爆ぜ弾ける肉汁の音。
小町は自分がこの店に場違いな存在であると感じつつも、食欲を過剰に刺激する香気と音に充てられ、急いで店員に案内された席へと座ったのであった。
「な……なんか見られてるし……アウェイだよ」
一方、ガチでホームな桜さん。
「く……ふふふふふ!美少女同伴に対する嫉妬と羨望の眼差し!見るがいい。羨むがいい!なんと……素晴らしい居心地か!」
※心の声です。マナーを守って楽しくイーティング!
「さあ小町たま!何でも好きに注文して下さいませ!リブロースでもサーロインでもシャトーブリアンでも!」
小町はメニューにゆったり目を通すと、
「おろしバーグ。通常サイズで醤油ソース」
淡々とシンプルなメニューを選びました。
「あ……あの~、遠慮なさらなくても……お姉ちゃん、お金は持っていましてよ?」
「遠慮なんてしてないよ。これが一番今の気分ってだけ。さっぱりしてるのを食べたいのよ。ここ……空気を吸うだけで太りそうだし」
キッチンから、店中の客の鉄皿から、脂肪が空気中に霧散さているように小町には感じられたのである。太りたくないお年頃だから仕方ない!
「そうでありますか……店員さ~ん。オーダー宜しくであります。おろしバーグと、いつもの」
「はい!かしこまりました~」
店員の曇りなきスマイルに、小町は不穏な空気を感じた……
「……いつもの?」
「はい。最低月一は来ておりますので。他にも食べたいとは思うのですが、病みつきになってしまいまして……すっかり覚えられてしまいましたなぁ~あ、スープを持って参ります。セルフサービスであるからして」
「中学生なのに、常連……」
小町はメニューを再度見直した。一番安いメニューである普通のハンバーグだって千円近くはする。小町が現在貰っている月々のお小遣い(三千円)では、とても気軽に食べにはこれない。二歳違うだけの、社会人でもない姉に、とんでもない経済格差を感じた小町であった。
「はい。スープでありますぞ~」
「あ、ありがと……美味し」
桜から受け取ったカップには、乾燥パセリが浮かんだ黄金色の液体。ありきたりなコンソメ風味のスープであったが、店内の冷房で少し冷えた体には丁度よく、汗で失った塩分を補給するにも都合がよかった。
「それでは……料理が来るまで間がありますし……悩みがあるなら聞きますぞ」
「……ここで?」
「ここで!」
「……注目集めてるんだけど……」
「まぁ、ネフェたんのことでありましょうな」
「いや、そうだけども……聞こうね人の話」
「世間……と言うか常識知らずと言うべきか、教えなければならないことは多いでありますが、学習能力も意欲も高いでありめすし、なにより素直でいい子ではありませぬか?」
「うん。それは私も否定しないけどね。それでも危なっかしいよ……姉さんだって焦ったでしょ?こだちやおもちを見て「これ、食べていい?」って聞かれたのには……」
「……愛玩動物とゆう概念を説明し、納得させるには骨が折れましたな……まあ、食べたり殺したりしないとは約束してくれましたし」
「それと……兄さんの……その……」
「ああ、ボクが詳しく聞いたところ、それは先送りできる問題でありました。ネフェたんが発情期を迎えるのは、まだ数年は先なようで……」
「声のトーン落として!ぎょっとしてる!周りのおにーさん達がぎょっとしてるから!」
「これは失敬」
「……誤魔化せてないし……完全に聞き耳立てられてるし……」
他に誰もいなかったとはいえ、完全に人選間違えた~!小町はとっても落胆した!
「お待たせしました~。こちら、おろしバーグになります」
「あ、私です」
空気を読むより配膳優先!真っ当に職務をこなす店員さんによって、小町の気は見事に逸らされた。グッジョブ!
熱々の鉄皿の上でジュワジュワ焼けるハンバーグ。その上には大葉と大根おろし。ガロニにはコーンとインゲン、マッシュポテト。ハンバーグが焦げ付かないように、薄切りオニオンが鉄皿との間に敷かれている。そして鉄皿を囲うようにペーパーフェンス。醤油ソースを鉄皿に垂らすと……
「熱っ!跳ねる跳ねる!ペーパーナプキンとエプロン使お……」
油と混ざり、ソースが激しく細かく飛び散って蒸発する。
「この音……鉄皿の醍醐味だよね」
この瞬間、小町は自分が店にとって場違いな存在であることも忘れる。ただの、ハンバーグが大好きな少女になる!と……
「お待たせしました~。タワーバーグ、四段になりま~す」
「待ち焦がれておりました!」
それは、圧倒的な存在感。軽く、小町のおろしバーグの四倍は存在感がある。だって……ハンバーグが四枚重なっているんだもの!
「……うぇ?それ……食べるの?」
「食べない物を注文する?そんな無礼をボクがするとでも?」
「で、でも……」
普通の四倍だし!チーズも乗ってるし!しかも重なってるハンバーグの間全部に挟まってるし!目玉焼きも乗ってるよ!?
「ライスのおかわりは店員にお申し付け下さい。それではごゆっくり~」
「店員さんが、全然動じていない?いつものだから?これがいつものだから~!?」
「それでは、いただきましょうか小町たま」
「いただきます?いただきますけどぉ……」
「?早く食べねば冷めますぞ」
「姉さん……そんなに大食いだったっけ?」
「外食で、自腹だとリミッターが外れるみたいでありましてなぁ。自分の稼ぎで食べる食事は、味云々よりも気持ちの良いものでありまして」
「そうゆうもの……なのかなぁ?……そんなに、配信って儲かってるの?」
「まあ、ネタが受ければ大きいですな。ボクはコスプレして歌ったり踊ったりが需要ありますし、イベントでファンと直接会ったりと、営業努力はしておりますよ?」
「そうなんだ……それじゃ、爆食動画やってみれば?コスプレして」
「え……?」
桜はナイフとフォークを不意に手放した。そして、次の瞬間、その瞳はSAKUTANとなっていた!
「ま……正に目から鱗。盲点だったのであります!爆食キャラでのリアル爆食!ボクだからこそ可能な演出!小町たま!いいネタいただきました!」
「そ、そう?適当に言ってみただけなんだけど……」
「面白い!何よりボクが見たいのです!そうなると料理も作中再現を目指さなくては……忙しくなりますぞぉー!」
そして、力を溜め込むようにハンバーグを頬張る桜。四枚のハンバーグは瞬く間に一口サイズにカットされ。ライスと共に吸い込まれるように消えてゆき。そのペースは最後の一口まで鈍ることなく続いたのであった……
「ごちそうさまでした!相も変わらず、ゴハンが進む味わいでありました!」
あまりにも鮮やかな食べっぷりに、店員と客から拍手が巻き起こった。因みに、ハンバーグ一枚につきライスは大盛り二皿……計八皿である。スープも四杯飲んでいる。
「うん……美味しかった……よ?よく、覚えてないけど……」
小町、一皿目のライスを半分残してハンバーグ完食。
パンドラの箱を開けてしまった気分であった。
「それでは、食休みとカロリー消費も兼ねましてカラオケに行くのであります!動画の計画も練りたいでありますし、パ○ラでハニトー食べながら!」
「ちょ!?どんだけ食べるのよ~?それ、カロリー消費じゃなくて補給だよ~!」
小町との姉妹デートで、桜の幸福メーターはアンリミッテッド。小町一人で到底止められるものではなかった……
〝私の姉には、超人しかいない〟小町が本日得た教訓であった。
毎度ながら、解決しない(増える)小町の悩み。
桜がスキル《爆食》覚醒。神様から貰ったスキルじゃありません。
前回記入忘れましたが、回転寿司屋のモデルはかっ○寿司です。そして今回のお店は鉄板○国。鉄○王国はライスとスープがおかわり自由なので、東京に行くとついつい利用しちゃいます。
そして、ぽそっと明かしたネフェちゃんの問題発言。動物を飼うって概念がないと……こわっ!
手遅れにならず、よかったなあ。
次回は長女様と次女様の人妻姉妹でのんびりおでかけ……して、くれるだろうか?それでは、また明日も更新!更新!




