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13話目 動物園にやって来た

作中で明言していませんが、聖家の所在地は都内に設定しています。モヤッと都内です。実の住所は埼玉……かもしれません。

動物園までの道中、久しぶりに電車に乗った燕は、とてもはしゃいで、窓からの景色を楽しんでいた。


「でんしゃ、たのしー!ひこーきは、そらとくもだけ、つまんない」


燕のこの台詞に、剣達は父親である敏郎に、軽く殺意を覚えた。


「飛行機より、電車に乗った回数の方が少ないとか、どうかしてるよな?」


「パパりん庶民感覚無くなってない?このままじゃ、ばめたんがセレブな価値観になっちゃうよ……」


「来年からの幼稚園、まさか、お受験?」


「家族会議すべき案件」


光から小町まで、聖家の子供はみんな、ごく普通の、同じ幼稚園に通っていた。なので、今まで漠然と燕もそうなるだろうと、みんな思っていたのだが……


「ったく、間の悪いタイミングで海外だもんな」


明後日には、両親と燕はしばらく仕事で家にいなくなる。わざわざ、娘達の入学式を終えてからの日程にする辺りは、良き父親であるのだが。


「パパりんは可愛がるだけだもんね。教育方針とか無い人だもんね」


実態は単なる親バカ。しかも、娘に嫌われたくなくて、まともに躾も出来ないバカ親でもある。


「いい人だけど」


「とても残念」


決して嫌われてはいないが、父として尊敬されてはいない。敏郎お父さんの、明日は、どっちだ……?




ともあれ、無事に上野駅に到着。そして早速、駅構内のパンダグッズのショップで足を止める少女達。


これから実物観に行くのに……剣はそう思うのだが、少女達にとっては、ソレはソレ、コレはコレで、実物とグッズの可愛さは別物なのである。こんなとき、男は黙って待つばかりである。


しばらくして、ようやくショップを後にした一行。世間的に、春休みが終わるかどうかの日であるが、やはりそこそこ人は多い。剣は燕がはぐれないよう、肩車をしている。


「……やたらと見られている気がする」


当然ながら、目立っている。幼女を肩車して、女の子が三人も侍っているのだから。その内二人は双子で、損徐其処らにいないレベルの美少女である。


「場所が場所だけに、家族連れが多くて良かったよ。渋谷や原宿だったら、つばたんとぞみたん目当てにナンパやスカウトがひっきりなしかも」


「梓ちゃん、それ冗談になってないから」


「私達的に、渋谷と原宿はNGだから」


「お前ら、渋谷と原宿でなんかやったな?」


「渋谷でナンパ野郎の股間を蹴飛ばした。十回くらい」


「原宿でしつこいスカウトを路地裏で絞め落とした、七人ほど」


お巡りさんに見つかってたら、現行犯である。


「お兄ちゃん、心配はいらない」


「全部の件で録音済み。訴えられても絶対無罪」


「……ホント、世の中馬鹿ばっかだな。逆恨みにだけは気を付けてくれ」


トラブルの無い静かな生活。剣は、それを願ってやまなかった。




動物園のゲートを抜けると、右手側に凄い人だかりが出来ていた。動物園の看板たるスーパースター、ジャイアントパンダが一番最初に配置されているのである。


パンダ舎の入り口は二つに分けられ、ガラス越しに立ち止まって観ることの出来る前列側と、前列側と柵で分けられ、素通りするだけの後列側になっている。


前列は一時間待ちの行列となっていたので、剣達は後列に並ぶ事にした。こちらの待ち時間は無いに等しい。


「パンダさん、つまんない」


燕がムスッと膨らませたほっぺを、双子がプニプニ突っついている。パンダは展示スペースの奥の方で、尻を向けてごろ寝していた。笹でも食べててくれれば、画力もあったのだが……


こればっかりは、動物なので仕方ない。


「まあ、動かない動物見ても、子供は退屈だよな。一時間並んで、後ろ姿しか見れないとか、動物園を嫌いになる子供けっこういそうだよな」


「にーたん、ぺんぺんさんみたいです!」


「マップだと、奥の方だよね。取り敢えず、出来るだけ短い移動で、見栄えする動物見ていこうか?」


「そうだな。ま、目立つ奴から見に行くか」




「おぉ~!でっけえ!ぞうさんでっけえ!」


「うん、見ると満足感あるよね」


「あの鼻はインパクト絶大だね」


地上最大の草食さんは、安定した人気者である。ゆったりとだが、ちゃんと動いてくれるし、その動きが初見の子供には面白くて仕方ない。


「ぞうさん、おはなでくさつかんだ!たべてる!すっご!」


はしゃぐ末っ子に、剣さんは和みモードである。


「にーたん、まんもすさんはいる?」


「いや?マンモスはずっと昔にいなくなった生き物なんだが、よくしってたな燕」


「えっとね、パパがね、おふろでおしえてくれた!」


この時、剣達四人の脳裏に、春日部の名誉市民な園児と、その父親が悪ふざけをしている姿がはっきり浮かんだ。


「そっか~、父さんが……よし、帰ったら殺ろう」


「駄目だよね。羞恥心の無い子供に、教えちゃ駄目なネタだよね」


「燕より前に、お父さんを教育するべきだった」


「お兄ちゃんの爪の垢を、喉に詰まらせるまで詰め込みたい」


※全国の保護者の方々へ。

幼児にクレ○ンしん○ゃんを見せる際には、録画して、内容を確認する事をオススメします。特に、初期の作品をレンタルした場合は要注意です。ゆるいキャラデザですが、原作は青年コミック誌の掲載作品である事をご承知下さい。


敏郎への殺意を心の奥に静かに溜めつつ、一行はにこやかに、ゆっくりとペンギンを目指して歩みを進める。


「クマさん!おっきい!つよそう!」


「おさるさん!いっぱい!あかちゃんちっさい!かわいい!」


「シロクマさん!およいだ?すごいっ!」


燕の食い付き方が、どれもパンダの比ではない。剣に肩車をされて尚、前のめりになり、足を激しく動かすものだから、剣は胸周りをゲシゲシされてしまうので、既に靴を脱がせていた。


「なんかさー、燕が楽しんでくれてるから、俺も楽しくなってきたよ。小学生の頃とは、楽しいの質が違うっつーか」


「私も同じかな。動物を見る以上に、動物見てるばめたんの反応を見てるのが面白いんだよねー!」


「……希さんや、お兄ちゃんと梓ちゃんが、完全にパパママ目線になっとりますよ」


「夫婦だね!子連れの熱愛夫婦だね!」


やいのやいのと、兄と義姉を冷やかす双子。こんな場合、梓は怒ったりせず、むしろ喜んで、恥ずかしそうに顔を火照らせて乗っかる。そして剣が涼やかに受け流す。それが普段のパターンなのであるが……


「翼、希」


「「なに?お兄ちゃん?」」


「覚悟していろ。来年には、〝おばちゃん〟にしてやる」


翼と希、梓からではなく、まさかのお兄ちゃんからの強烈宣言に、抱き締めあってヘタリ込んだ。


「きょ、驚愕。まさかの位置からカウンター」


「お、お兄ちゃんが子作り宣言……」


一方、梓は真っ赤な顔色で、ぼへ~っとした表情で棒立ちしていた。そんな梓に、燕がきょとんと首を傾げた。


「ずさねぇ、おさるさんみたい!」


「はにゃ?おさる?……おさるさん見に行くの?」


「もう、みたよ?」


「あ、そうだよね……ペンギンだったよね……」


「そっち、はんたいだよ?」


「梓ちゃんが故障した…」


「ATK高いのにDEFが低すぎるよ……」


それも無理からぬ事、二人きりの時を除いて、剣からアプローチされる事は、ほぼ無いのであった。梓は、奇襲に対して全く耐性が無かったのである。


「嬉しくさせ過ぎたか?あ~ずさ、正気に戻れ~。……仕方ないな。少し早いけど、その辺のベンチで昼飯にするか?」


「おべんと、たべるっ!」


「うん。梓ちゃんを直さないとね」


「私達にも、けっこうダメージあったしね」




「お姉ちゃんの主婦力は五十三万」


「料理の出来は、十傑クラス」


「おいしー!」


光が持たせてくれたサンドイッチは、短時間で片手間に作られたとは思えない出来栄えであった。


玉子、ハムチーズ、ツナマヨ、BLT、照り焼きチキン、ジャムバターと種類豊富で、燕にも食べ易いように、小さく切り分けられている。……三十分足らずでよくもまあ。


「梓、落ち着いたか?」


「……けんちゃんが悪いんだからね!普段は教育上とかなんとか言ってるのに……幸せで死んじゃうよ!」


怒りながらも惚気てしまう、本当に幸せ者な梓さんである。


「ずさねぇ、おしっこ」


「あ、うん。トイレ行ってくるから、ここで待っててね」


燕と手を繋いで歩く梓の背を見て、翼と希がしんみり呟いた。


「母子みたいでいいねえ」


「梓ちゃんは、好きな人の子供が産めて、いいよね」


翼と希は、双子で相思相愛な近親百合カップルである。どうあっても二人の間に子供は出来ない。自然には。


「方法なら有るんじゃないか?クローンとか。前世の科学知識は役に立たないのか?」


「お兄ちゃん、私の前世は戦闘兵器だからね?不必要な知識はインプットされなかったからね」


「私達の前世の体は遺伝子操作に身体強化ナノマシンに投薬にサイボーグ手術とか、てんこ盛りだったけど、自分の体を制御出来るだけだったから。ま、そんな体作れるんだから、クローン程度は作れたんだろうなあ」


「……だよな。俺なんて剣だったし。何百年生きても、今の十八年より知ってる世界は狭かったもんな。あっちの世界の歴史とか、全然興味なくて知ろうともしなかったし」


「うん、解る。私はマインドコントロールされてたから、自主的に何かする自体不可能だったけどね。……あっちの〝ヒト〟以外の動物、見たことないし」


「お兄ちゃんの世界の動物は?」


「そうだなぁ……姿形は地球のと似ているな。毛が青くて二足歩行する十メートルはある熊っぽいのとか。人を丸のみしちまう大きさの蛙とか。世紀末覇王の真っ黒な馬みたいのとか。逆に小魚サイズの鯨とか」


「その鯨、想像だけで可愛い」


「きゅいきゅい鳴きそう。萌え」


「あっちじゃ一般的に食用だな。新鮮だと柔らかい肉質で臭みも無いらしい。ヴェルティエが俺を使って一日で百匹捌いた事もあったな。干し肉にすると日持ちするし、栄養価も高くて味もいいからよく売れてな」


「乱獲!異世界鯨が乱獲されてる!」


「神様!シー・シェ○ードを異世界召喚してぇ!」


「雑食の百メートル級イルカもいるけどな。船ごと海賊を全滅させたり」


「「グラ○ドラインかっ!」」


梓達が戻るまで、異世界に普通に生息している動物達への、双子の息の合った突っ込みが冴え渡ったのでありました。




恐るべし幼児の集中力。かれこれ二時間、燕はペンギンの展示エリアに張り付いていた。


「燕、そろそろ他に行かないか?あっちの建物に、ワニさんや亀さんがいるんだけど」


「やっ!まだみる!」


「キリンさんいるよ。首長いよー」


「あとで!」


「あっちでうさちゃん撫でれるって!」


「ぺんぺんさんをなでたいです!」


テコでも動かない。いや、力ずくでなら簡単に動かせるのだが……絶対泣き叫ぶだろう。


「どうするよ?ペンギンへの執着心が半端じゃねえぞ」


「これを駄々と捉えるか、私達が他の動物を見たいのを大人の勝手とするか……難しいね」


「四月とはいえ、日差しが強い」


「ちょこちょこ水分は摂らせてるけど……」


トイレを我慢出来なくなるまで待つか……そんな空気が漂い始めた頃のこと。剣のスマホに桜からの着信が来た。


「兄様!ボク抜きで動物園に行くなんて酷いのであります!みんなと一緒に、すごーい!たのしーい!を叫びたいのであります!どったんばったんしたいのでありますぅ!」


「いや、コラボしたのここじゃないだろ?それより……」


「なんでありますか!?兄様は妹をないがしろにするのが得意なフレンズでありますか!?」


「意味わかんねぇよ。聞きたい事があるんだけどさ、燕がもう二時間もペンギンに張り付いてんだよ。こんなに執着してる理由を知らないか?」


「はて?単に好きなだけではありませぬか?確かに一緒にアニメを見ていて、ペンギンの出るシーンで明らかにテンションが高くなることはありましたが……生のペンギンを初めて見て、興奮が冷めやらぬのではないでしょうか?兄様は経験が無いかもしれませぬが、子供は楽しい事をしてると時間を忘れる……いえ、燕たまぐらいだと、時間の概念が無いのかもですな」


「つまり、自発的に離れるまで、待つべきだと?」


「もしくは、理路整然と、離れなければならない理由を説明して納得させるか、より美味しい条件を提示するかですな。例えば、もっと沢山ペンギンのいる所へ連れて行くとか。まあ、良い機会ですし、じっくり待つのも良いのでは?」


「……そうするか。閉園時間になったら、無理にでも連れて帰らなきゃならないんだけどな」


「では、ボクも今から合流しますので上野に着いたら、また連絡します。それでは失礼であります!」


プツン、ツーーーー


「……桜、今から来るって」


「忙しい子ね。まあ、燕が喜ぶだろうしいいんじゃない?でも、今からだと……着くのは閉園一時間前切ってない?」


「更に、ここまで何分歩く?」


「私達、ゆっくりだけど一時間かけた」


しかも、最短距離を、食事時間を除いてである。


「桜が着くか、燕が動くのが先か……」


「まあ、今日はばめたんの為に使うって決めたんだし……ね」


「そうだな。……誰にも強制されず夢中になれるものがあるのは、イイコトだしな。……燕を眺めてのんびりする。それでいいや、もう……」


「じゃあ、燕はお兄ちゃん達に一旦任せていい?」


「私達、動物の撮影してくる」


かくして、剣・梓組と翼・希組とで交替して園内見学と燕のお世話をすることとなったのであった。




次回、動物園後編!桜は間に合う?

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