14話目 燕の人鳥補完計画
今回、サブタイトルの内容は半分程度です。
半分はリア充爆発しろ回です。
サブタイトル変更しました。ネタ元へのリスペクト的に。
二時間を経過しても、燕のペンギンへの興味は一向に衰えない。時に抱っこしてもらい上から眺めたり、追いかけるようにプールの外周を走ったり、飼育員から魚を貰うペンギンを、ペンギンと同じように口をあんぐり開いて見上げてみたり。
「いや、可愛いんだけどさぁ……」
折角、久し振りに来た動物園。燕の為に来たとはいえ、いろんな動物を見たかったのも事実。そう、燕に見たことのない動物を沢山見せたかったのが最大の理由だった筈。なのに……
「大別すると、象と熊と猿と鳥しか見てねえ……」
まだ、トラやライオン、ゴリラ、カバなど、メジャーなアニマル達さえ見ていないのである。他人からすれば「何しに動物園行ったん?」と言われるレベルだ。
まだ、ポケ○ンGOをながらスマホしているほうが、有意義に動物を見て回れることであろう。余談であるが、動物園に隣接する不忍池はかつてレアポ○モンの巣であったが、トレーナーによる乱獲が原因でコ○キングすら生息しない死の池となってしまったのだった。
※ポケ○ン以外の生物は普通に生息してます。
「そういや、燕にペンギンのぬいぐるみをねだられた事はあったのか?」
「ううん。だから私もびっくりなんだよね。今まで、特にこれといって……好みが具体的になったばかりなのかな?」
梓は燕を抱き上げると、直接疑問をぶつけてみた。
「ばめたんは、ペンギンさんがどうしてそんなに好きなの?」
燕は、不思議そうに、目をパチクリさせている。質問の意味が解らないのではなく、質問に意味がないからだ。
「すきだからすきなの」
「だからね?好きな理由を教えてほしいなー、と」
「りゆう?なにそれ?ずさねぇがにーたんすきなのも、りゆう?いるの?」
梓は、幼い妹の言葉に、全身が震える程の衝撃を受けた。
「そ、そうじゃん。〝好き〟に、理由なんて必要ないこと、私は誰より知ってた筈なのに!強いて理由を挙げれば〝出会った〟から!他の理由なんて、全部後付けなのよ!」
あ、ヤバい。これ、暴走の兆候だ。剣はそう直感した。
「ありがとう、ばめたん!ずさねぇは初心を取り戻しました!私も〝好き〟から始まったのよ!けんちゃんを一目見たその瞬間から堕ちちゃってたんだもの!そこには本当に理由なんて無かった!本能と運命と神様の親切で導かれた愛なんだよ!」
燕を抱き締めたまま、クルクルまわる梓。ここは動物園なので当然他のお客も来ている。ぶつかったら危険だし、明白に迷惑。トランス状態だから説得は効果的ではない。物理で止めるのは簡単だが、暴力は周囲のお子さまを怖がらせるかもしれないし、大人にはDVを撮影されたり最悪通報されかねない。よって、剣が選んだ行動は……
梓を正面から、燕を挟んで、ガッチリと抱き締めた。対象に痛みを感じさせず、しかし振り解かれもしない絶妙な力加減。肉体的に無傷無痛で相手を制圧する為の技。博愛固めである。声の大きな、アザラシを抱えた少年の必殺技だ。
「け、けんちゃんらめぇ~!ひゃうぅっ!?」
剣はそれに加えて、背中へ微妙な加減で指圧をプラス。幸福に包まれ、快感を刺激され、梓の顔は、女の子が人前で晒してはならないほど蕩けて恍惚としているものとなった。完全に脱力して、抵抗力ゼロとなった。
梓から力が抜けたのを確認すると、剣はそのままお姫様抱っこの体勢にシフトした。燕を梓にしがみつかせたままで軽々と。
剣が周りを見回すと、子供に〝見ちゃ行けません!〟しながらガン見しているママさんや。困ったように顔を背けながらも、視線だけは剣達をチラチラ見ているパパさん。お互い目を合わせられなくなった中学生ぐらいの初々しいカップル。リア充死ね!な女子グループなんかがいた。
それらに対し、剣は「なにか問題でも?」とでも言いたげな無言の微笑を返すと、素知らぬ態度で近くのベンチに移動した。
剣は梓をベンチに座らせようとしたが、梓は全身が弛緩してしまい、座ることもままならなくなっていた。仕方無いので、ベンチに寝かされる事となった。剣の右足を膝枕に。
燕は剣の左足に座らされ、抱き抱えられている。こうしてると一見、具合の悪くなった奥さんを介抱している旦那さんである。あながち間違ってはいないシチュエーションだろう……梓が血色の良い表情で、口からヨダレを垂らしていなければ……
「……幸せ過ぎて、天罰下されそう……今日のけんちゃん、なんだか大胆❤」
「たまには、な。……ま、あのままにしてたら面倒臭くなりそうだったし、それなら好奇の目で視られる方がマシって話だ。別にこうしているのも嫌いじゃないしな」
二人の間に、穏やかで心地良いムードが漂う。のだが……
空気を読む能力が未発達の幼児には、それが解らない。剣の膝の上で、我慢出来なくモゾモゾ動き始めた。剣に座らせられながらも、視線はずっと、ペンギンプールをロックオンしていたのである!
「燕、まだペンギン見たいのか?」
「みたい!だいすき!」
「……言っとくけど、家に連れて帰れないからな?」
燕の表情に陰が射した。
「……どうして?」
「そりゃ、ここがペンギンさんの家だからな。勝手に連れてったら誘拐だろ?燕にそんな悪いことさせたくないし、兄ちゃんもやりたくないなあ」
(まさかと思ったが、お持ち帰り希望だったとはな……)
「燕、ペンギンさんに限らず、動物園の動物達は売り物でも頼んで譲って貰える物でもないんだ。それでもペンギンさんに家に来てもらいたいなら、余所で捜してこないと駄目なんだよ」
「そうなの?……どこのぺんぺんさんならいいの?」
「それは……だな、その前に家にはプールがないからな。大きいプールで泳げないとペンギンさんは生きていけない。父さんに頼んでペンギンさん用のプールを作ってもらってからじゃないと、家に来てくれるペンギンさんを見つけても意味がないな、うん」
上手く説得する事を諦め、剣は父親に丸投げする事にした。色々殺意も沸いていたし、精々苦しめばいいと思って。
「わかった!パパにおねがいする!そして、おうちにぺんぺんさんをたくさんよぶの!」
……どうやら、一羽や二羽で満足出来ないらしい。既に燕の脳内では、自宅に完成したプールで何十羽ものペンギンと一緒に泳いでいる画が出来上がっているようだ。
「……けんちゃん、パパりんなら、作っちゃうかも……」
「言うな。もう既に、丸投げしたこと後悔してんだ……」
何十羽は無理でも、十羽程度の小型のペンギンをプールを造るスペースならば屋上にある。それを可能とする財力も。問題は、誰が世話をする羽目になるかだ。……誰も、ペンギンの世話なんてしたことが有るわけない!
「また、姉さんの気苦労案件が増えそうだな……」
「わぁー、この中あっついねー」
翼&希組と交替し、剣達は両性爬虫類館を訪れた。温度変化に敏感な変温動物であり、元々熱帯に生息している動物が多い為か、館内にある熱帯エリアは少し蒸し暑くなっている。
「お、記憶通り。入っていきなりイリエさんだ」
熱帯エリアの入り口右手側に、イリエさんことイリエワニが展示されている。このイリエさん、かなり大きい。どんだけって、人を楽に丸飲み出来そうなぐらい。それが、アクリルだか強化ガラスで隔てられた至近距離にいる。今は砂地の上で落ち着いているが、水に入ると本当に透明な板一枚だけの近さになる。
「動きが無くても、迫力あるよなぁ。パンダとは違うな」
「けんちゃん、パンダに厳しくない?」
「動物の行動に文句言うのは筋違いだと理解しちゃいるが、久し振りに見に来た身としちゃ、少しは……なあ?」
「思い通りに行動してくれないって意味じゃ、人間の子どもも、動物と変わらないけどね」
「……教育、ムズカシイ」
燕の情操教育・教養の為に動物園に来た訳だったが、果たして燕はペンギン以外を見たことを覚えているのだろうか?怪しいと言わざるを得ない。
「でも、燕が執着したのがペンギンでまだ良かったよね。これがパンダだったらと思うと、身震いしちゃうんだけど」
散々待たされた挙げ句、数分で移動しなければならず、顔を見せてくれるかさえ保証がない。
「うん、泣くな」
「パンダ目当てだと、子どもにはハードル高いね動物園」
それに比べると、この館内の亀や蛇や蜥蜴は動きが鈍いが姿をじっくり見ていられるし、蛙は見つけ難いが探す楽しみがある。見た目の好き嫌いが分かれるところだが。
「ふう、なんとか動物園を堪能出来たな。やっぱ、メジャーどころだけでなく、マイナーな珍生物も見ておかないと、でっかい動物園に来たかいがない」
時計を確認すると、翼達と合流するまで十分程度。他の動物を見て回れる余裕は無い。中途半端な残り時間だ。
「どうする?もう戻るか?」
「もう少し、二人でいたいな」
そう言って、剣の肩に頬を擦り付け、組んでいた腕に胸を押し付けた。アニメなら、『むにゅっ』と擬音が鳴った後、主人公が赤面して心の中で「なにやってんのー!?」となるシーンだが、付き合いの長さが熟年夫婦級であり、クール系ポーカーフェイス主人公な剣さんは全然動じない。
「そうか、じゃあゆっくり歩くか」
家にいる時の方がもっと強烈なアプローチのをされているので、さらっと流せてしまうのである。
池の上の、木造の桟橋みたいな通路を二人で歩く。遮る物なく吹き抜ける風が心地よく、剣は目を細めた。
「改めて来ると、けっこう良い場所だよな」
「うん。前より施設が増えたり、綺麗に整備されてるよね。……私達に子どもが出来たら、連れて来てあげたいなー……」
「ああ、そうだな」
迷う間も無き返答に、梓は感激のあまり涙まで流した。
(何?今日のけんちゃんは本当に何なの!?カウンター率が高過ぎだよ!どんな心境の変化?)
「……え、えーとぉ、作ろうか?子ども」
(い、言っちゃったよ私!冗談じゃなくて、マジな雰囲気で)
「それはまだ早いだろ」
「あ、ははは!だよね!私の勘違いだよね!」
「今作ったら、冬にはお腹が目立って学校で騒ぎになるし、卒業にも差し障る。秋を過ぎてからなら問題ないだろ」
(具体的で現実的な計画!これマジだ!)
「今日のけんちゃんは、本当に大胆だね!どうしちゃったのかな?」
「んー?まあ、燕を連れて来たからかな?こうゆうのも、なんだかいいなと思ったんだ。それに……高三になる節目に、俺の気持ちを言葉にしておくべきかなと」
剣が、とても優しい目をして梓を見つめる。互いの瞳が視線で結ばれた瞬間、梓の心臓の鼓動が激しく跳ねる。既に、興奮状態だったのに、限界突破して破裂しそうな動悸を梓は感じていた。
「ちょ、ちょっとストップ。……心臓がヤバい。これ、初体験のときより凄いんですけど……」
「比較するものが、残念な発言だな……ま、らしいっちゃらしいが。……じゃ、改めてまた今度な」
「ここまで来てそれはないよぉ~」
「いや、許せ。俺も順番間違えてたしな。この話の前に、進路について話しとくべきだったなと」
「進路、決めたの?」
「ああ、農大受けるつもりだ」
「農大?意外……でもないかな?おじいちゃん家で畑仕事手伝うの、けんちゃん好きだもんね」
「まあな。だから将来的には夕樹義母さんの実家で農業やらせてもらいたいんだ。今度じいちゃん家に行ったら、ちゃんと相談してみるよ。農業、真剣にやってみたいって」
「そっかぁ~。よし!私もけんちゃんと同じ農大受ける!」
梓が簡単に進路を決めた事に、剣は口を挟みはしない。これが、予想通りの答えだからだ。
「私の進路は常に、けんちゃんの隣だからね!」
「ああ、今後ともよろしくな」
「あ、お兄ちゃん達帰ってきた」
「梓ちゃんから幸せオーラがダダ漏れしている……」
翼達は、ペンギンプールから少し離れた日陰で休んでいた。燕は翼におんぶされ、背中に希がくっつき、双子にサンドされている。紐無し電車ごっこ状態だ。
「ペンギン姫様、力尽きました」
「このまま、寝かしとく?」
翼の肩に顎を乗せて、燕はくーくー寝息を吐いている。正しく、天使の寝顔。起こしてしまっては勿体なさすぎる。
「無理に起こすのは止めよう。普段なら、昼寝して当然の時間をとっくに過ぎてるしな」
「いきなり、コロンと寝ちゃったから驚いたよ」
「無駄に高い集中力。血は繋がってなくても、流石は梓ちゃんの妹だけのことはある」
「ばめたんがペンギンから動かなかったの、私の所為!?」
翼から燕を受け取り、剣は燕を抱っこしなおした。本当に疲れきったのか、一才抵抗感がなく、これで顔色が悪ければ急病を疑ってしまいそうである。
「さて……そろそろ時間だし、東側をちょっと見たら帰るか?」
「お兄ちゃん、ライオン見てこう」
「お土産買わないと」
「……何か、忘れてない?」
そういえば、何か忘れてるような……?四人とも、顎に手を当てて考えていると……
ズザザザーッ!!っと、剣達の前に奴が靴底を激しく磨り減らして滑り込んで来た!
「ボクが来た!」
濃い笑顔が素敵なナンバーワンヒーローの如くな仁王立ちで、今回のオチが到着した。
「いや、もう帰るし」
「ばめたん寝ちゃったし」
「閉園のアナウンス流れ始めたね」
「あー楽しかった」
固まったままの桜を置き去りに、剣達は桜がたった今走って来たであろう道筋を引き返し始めた。
「あんまりだぜ!神様っ!」
素敵な仁王立ちから、不様な四つん這いに崩れ落ちた桜。
桜の愛は、行間もページもフィルムのコマも超越する事は出来なかったのだった。
そして、泣き咽ぶこと約五分、走る気力も無くしてトボトボ歩き始めると、すぐ近くで待っていてくれたお兄さんとお姉さんを見つけ、泣いて喚いて縋り付いて。置いてかれてどれだけ寂しく悲しかったか、涙と鼻水塗れの顔で訴えたのだった。
余談
桜によって、実鳥も動物園に半ば強引に連れてこられていましたが、桜の勢いに付いて行けず、入園口の左側にある五重塔と鹿を、お茶を飲みながら眺めていたのでした。
「奈良とか京都みたいで落ち着くなー。行ったことないけど」
閉園のアナウンスを聞き、出入り口に移動して待っていると、
無事にみんなと合流出来たのですが……瞼を腫らして戻って来た桜の惨状に取り乱したのは……言わずともですね。
次回から高校生の話。……の前に、現時点のキャラ紹介&設定公開したいと思います。
多分、明日には……




