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135話目 闇絶

うおおぉ……更新が、遅れてしまったぁ……


「く……畜生……!」


「こんな……こんな終わり方……ママ……」


深い森の中、遥とガルミアは憔悴しきっていた。もう、何度目か、実鳥が、ヴェルティエが心の奥に秘めていた闇を、誰にも明かさずにいた記憶に触れ続け、今は正に、ヴェルティエが自らの命を絶った際の記憶を追体験したばかりなのであった。


多種魔法弾による様々な苦痛の果て、愛娘を逃がせた事に僅かな安堵を感じつつも、自らの不始末が原因で守りきれなかった悔悟の念と、何の関係もなく巻き込まれた子供達に何もしてあげられなかった罪悪感。ヴェルティエは自らの心を押し潰し、絶望の果てに、歪な刃で心臓を貫いたのだった……


その、心臓を貫かれる痛みと冷たい感触まで体感してしまったのだから、遥達はまるで、一度死んで生き返ったかのような錯覚にも陥りかけ、なんとか我を取り戻したばかりであった。


「そうじゃ……そうじゃねぇだろ……!何、悔やんでんだよ……どうして、怒りを沸き上がらせねぇんだよ……」


こと切れる瞬間まで、ヴェルティエの心に在ったのは、ネウグル一派に対する怒りや憎しみではなく、罪悪感と悔悟の念だったのである。遥は、それに納得出来なかった。どう考えたって、悪いのはネウグル達であるのに、どうして、自分を責めてばかりなのかと……


「絶対、文句言ってやる!」


ヴェルティエ(前世)でも実鳥(今世)でも変わらない自虐的な性格、或いは異様な責任感の強さ。自己否定から脱却出来ない妹に、どうしても言ってやらねばならない……もっと、我儘を言っていいのだと。遥は臨死体験して折れかけた心を、怒りと使命感から奮い起たせたのであった。


「違うよ……ママは私を守ってくれた……私に、沢山の幸せを与えてくれたんだ……だから、私は生きて……ここにいる!」


ガルミアも、ヴェルティエ(母親)の死に様に衝撃を受け、その苦痛と絶望に打ちのめされながらも、負けてなるものかと這い上がった。遥同様、ガルミアもヴェルティエに言ってやらねばならない気持ちで一杯だった。ずっと、今でも、大好きなんだと。


二人とも、死に至る感覚をリアルに体験し、全身に感じた痛みに身体を震わせたままでありながら、少しも諦めていなかった。どれだけ実鳥とヴェルティエの苦痛と苦難に満ちた悲壮な感情を味あわされても、一切気持ちを揺るがせてはいなかった。


「実鳥……どんだけお前が苦しかったか、よ~く解った……そりゃ、現実から目を背けて閉じ籠りたくもなるだろうな……でもな!アタシは……お前がいなきゃ、嫌なんだよ!」


「ママが死んでたと知って、とても辛かったよ……でも、生まれ変わった先で、ママを大好きな人達に囲まれて幸せに暮らしてるって知って、凄く、嬉しくなったんだ……だから!もっと、もっと……幸せになってよ!」


二人の心からの叫びが、森の中で木霊した。すると、森の景色が次第に薄くなってゆき、辺りは光なき漆黒に変わり、柔らかな土と草の地面もゴツゴツとした硬質的な石と岩に。そして、冷たい風が吹き抜け、空気がジメジメとしていた。


「洞窟……って奴か?」


天然自然と、冒険とは無縁の人生を送ってきた遥にとって、それは知識でしか知らない場所であった。


「そうみたい……あ!ハルカあっち!灯りがある!行ってみよう!」


「いや、行くにしても、辺りが暗すぎるんだが……」


発見した光源は、数十メートルは先を僅かに揺らめき照らしているのみ。足下が覚束ず、自分の手ですら碌に視認出来ない状態なので、遥は地面と壁を手探りで慎重に確認しながら進まねばならないと意見しようとした。


「闇夜に導き、地の底灯せ、標となりし、其の名は〝燐光〟」


途端、ガルミアの手にある魔王の剣の刀身が淡い光を放ち始めた。物体に一時的に光を宿らせる魔法を発動させる詠唱をしたのであった。


「……すげぇ魔法っぽい。剣の奴は無言で何でもやっちまうからな~。正直、味気ないんだよな」


ガルミアの魔法っぽい魔法に、遥は感慨深く感動したのですがった。


「無詠唱の方がずっと高等技術なのだけど……それに、光らせるだけの簡単な魔法なんだけどな……」


ガルミアにしてみれば、松明の代用として以外に使い途が感じられない初歩の魔法であったのだが。必要以上に感動されてしまい、恐縮するばかりであった。


二人は光る剣を頼りに、遠くに揺らめく灯りを目指した。そこで二人が目にしたのは、岩に深々と突き刺さった一振りの古びた剣と、その岩に身体を横たわらせ蹲っている……ボロボロの服を纏った、翡翠の髪を持つ幼女であった




絶え間なく激突する魔法の弾丸と剣の弾幕。互いに遠距離攻撃で牽制しあいながらも、空中を戦闘機のように高速で飛翔しながら、必殺の一撃を叩き込むべき一瞬を伺っていた。


『主様!御二方が辿り着かれました!』


頭に直接響くヒナの声に、剣は思わず笑みを浮かべた。剣は遂に、最低限果たすべき目的を達成したのである。


剣のテンションは一気に上がり、自身の周辺に展開する剣の数が、空を染め尽くす勢いで増殖させていった。


「ここにきて……其方の魔力は、精神力は底無しか!?」


驚愕しながらも、ガルザートは何処か愉しげであった。コピーであるとはいえ魔王。生まれながらの絶対強者であるが故に、魔王は、自らと拮抗する唯一の存在である勇者との戦いでしか充実感を得られないのである。


その筈が、魔王の戦闘欲を充足させる存在が、もう一人いたのである。創られた使命がありながらも、ガルザートは昂る気持ちを抑えられはしなかった。


「正に、剣の化身よ!正に、刃の支配者よ!余に、勇者に並ぶ稀有なる存在!面白い……面白いぞ!」


「そうかよ。ま、俺も否定はしねーけどな!」


剣に戦闘を楽しむ趣味はないが、勝負は拮抗していた方が楽しいとは理解するところであった。人間に転生してからというもの、手加減せずに戦った事がほぼ無く、全力を出せる機会に恵まれなかった気持ちは理解出来るのである。


だが、ガルザートとは大きな違いがあるのも事実。それが、勝敗を分ける要因となったのかもしれない。


「穿ち!貫き!捻り斬る!」


剣は底辺の短い、二等辺三角形の剣を四本出現させた。だが、それは二等辺の一辺が5メートル、底辺が2メートルはある巨大な剣。それを組み合わせ、巨大な四角錐に仕上げたのである。


更に、それを激しく回転させて……自身は錐の内部に飛び込んだのだ!


「喰らえ!ソードリル・インパクト!!」


猛烈な速度で突撃する剣のドリル。ガルザートが放った迎撃の魔法弾を蹴散らし、標的を粉砕せんと尖角が目映く輝きを放つ!


「なれば、錐柱ごと両断してくれるわ!余の全身全霊、うけてみよ!」


大上段に構えた魔王の剣が、唐竹割りの如く、剣をソードリルもろともに断絶すべく振り下ろされた。


ガルザートの一閃と、ドリルの尖端が激突――正にその寸前の瞬間、ドリルが十字に展開した。


「なっ!?」


渾身の力で振り下ろされた剣は止められず、ドリルを切り裂きも断ち砕きも出来ずに空振りされた。しかし、刀身からは衝撃波が発生し、ドリルの内部にいた剣に……直撃した。


衝撃波を正面から受け、剣の身体は左肩から右脇腹にかけ致命傷となる裂傷を深々と刻まれ、周囲の肉が鮮血と共に撒き散らされた……かに見えた。


「ぐ……あぁ……なんてな」


断末魔の苦悶の呻きが、急転直下、余裕を含んだ声に変わった。


満身創痍にしか見えない剣の右腕から〝無銘の聖剣〟が投げ放たれ、衝撃波の側面を滑るように、身を捻りながら、飛ぶ。


流星が夜を貫くように。


〝無銘の聖剣〟は、呆気に取られるガルザートの心臓を貫き、胸の中心に大きな風穴を空けて飛び去ると、悠々とUターンしてガルザートの眼前へと戻ってきたのだった。


「こ……これは、どう、なって」


「やはり、予想外には弱かったなガルザート。ここは精神世界。姿なんて、心のままに変えられるのさ。ま、自分と余りにもかけ離れていたら、苦労はするかもだけれどな」


ガルザートに語りかけた〝無銘の聖剣〟の言葉が、全てを物語っていた。その証拠に、剣の身体は見る間に風化するように散っていった。


そう、剣にとって〝無銘の聖剣〟は自身の身体として全く違和感を抱かないモノ。この戦闘中、一度創造されてからずっと〝無銘の聖剣〟が本体だったのである。


「まさか……リビングソードに化けて……いたとは……」


「卑怯とか思うか?悪いが、俺は自分のベストを尽くしたとしか思っちゃいない。強い奴相手なら、尚更打てる手は打つさ」


そう、ガルザートに不足していたのは、強者との戦闘経験。


剣はここ最近、自分より強い相手とだったり、不利な条件で戦ったばかりであり、前世では平凡な剣士に使われていた事もあった。常人から見れば理不尽過ぎる力を持ちながらも、格上との戦闘経験は豊富なのてまあった。


だから、全力で工夫する。搦め手も使う。騙し討ちだってする。正々堂々なんて考えもしない。騎士道精神なんてゴミ箱にポイッなのである。ルールの無い戦いに清廉潔白なんて求められても「じゃあスポーツでもやってろ」と思うのである。


「……思わぬよ。いや……卑怯ではあっても卑劣だとは思わぬ……またしても、敗者となる己の不甲斐なさを、悔やむのみよ……」


色素が抜け、ボロボロと朽ちてゆくガルザート。その表情には、満足したかのような微笑が浮かんでいた。


再び、ガルザートに引導を渡す事となった剣は、看取るようにしばらく宙に佇んでいた。そして、ガルザートが完全に消滅すると……


「あんたとは、正々堂々と純粋に力比べをするのも悪くない……そう思ったよ。でもな、俺もあの頃とは違うんだ。ヴェルティエだけを守りたかった頃とはな。本当、欲張りになっちまったもんだよ。何をしても守りたい……そして、自分も死にたくなくなっちまったんだからな」


かつて、全てを捨てる覚悟で守った少女がいた。


今、その少女と同等に、大切に想える沢山の家族がいる。その中には、少女の生まれ変わりまでもがいる。


死んでも守る――剣は、その考えを捨てた。


「絶対守る。そして俺も……死ねない」


新たな決意と覚悟。それは、共に生きたいと願う、強い想い。


ガルザートの消滅と共に、魔力高濃度地帯の空間もまた、消滅を開始した。じきに次の空間へと強制転移させられる……そんな僅かな幕間の時に、剣は〝無銘の聖剣〟の姿のまま、崩壊した空間の一点に向けて、音速に迫る勢いで一直線に飛翔した。


「見つけた!このまま、寄り道無しで行くからな、実鳥!」


先行させた遥とガルミアの現在位置を、ヒナを経由して把握した剣は、崩壊して空間の揺らぎが大きくなった場所から正確に察知し、揺らいだ空間を貫くのであった。


今、心の闇を断ち斬る為に。




ガルザートさんと決着しました。

ドリルパカッ!からの、囮が玉砕。あれ?空振ったよね?からの投げられた剣が本体。

いや、ビックリさせ過ぎたかな?狡いかな?

今回のソードリルはグレートマイトガ○ンのエンブレムから着想を、技名は天元突破の頭さんから戴きました。

本文には表記しませんでしたが、聖剣状態での突進技名は〝流星剣〟です。安直過ぎるので書きませんでした……

次回は……遂に実鳥(ヴェルティエ)のターン開始!異世界編入ってからずっと眠り姫……漸くマトモな出番です!サブタイトルは【実鳥】まんまで!

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