111話目 ナンパは危険と隣り合わせ
まだまだ暑い夏は続く!
阿鼻叫喚。
剣達が原付を駐車させてから海水浴場に到着するまでの僅かの間に、多くの若い男女が悲喜こもごもの声を上げていた。
「判っていても、うざってぇ」
こうなると予想はしていても、それでも愚痴の一つは零れる。剣は、無謀にも翼と希をナンパしようと近付いてくる男達に対して、ガチな殺気を籠めた眼力で怯ませるなどして対処しながら、水着に着替える為に更衣室を借りるべく、近場の海の家に向かっているのであった。
「ごめんなさいお兄ちゃん。希が可愛すぎて」
「翼がセクシーなのは、どうしようもなくて」
「お前らホント、相思相愛だよな。そしてナルシーだよな」
双子が互いの容姿を讃えあうのは、自身の容姿を自慢しているのも同然だ。恐らく、双子の辞書には近親憎悪なんて言葉は存在していても、一生意味を成さないのであろう。
その双子であるが、原付を降りた瞬間にライダースーツを上半身だけ脱ぎ、袖を腰で縛っている。その為、胸元が露出していない水着ではあるのだが、豊かな双丘が、歩く度にゆっさゆっさと揺れているので、通りすがりの誰しもの視線を釘付けにしてしまっているのである。
「いやいや、これでつばぞみが谷間モロ見えなマイクロビキニとか着てたらって考えると……この格好に文句を付けられないねぇ」
「ロリ顔で巨乳で低身長とか、大多数の男の夢を凝縮している奇跡の存在だよな……それが双子とか、注目集めない訳がねぇってハナシか……」
普段から双子と出歩く機会の多い梓は、既に悟りの境地で達観しており、あまり行動を共にしていない遥は、納得したように感心するばかりであった。
海の家に到着し、剣達が更衣室を借りる手続きをしようとしていると、海側の方から、五人とも聞き慣れている怒気を含んだ声と、困ったような脅えているような声が聞こえてきた。
「だーかーら!何度もナンパお断りって言ってるでしょ!さっさと退きなさい!かき氷が溶けちゃうでしょ!」
「お……お願いです、通して下さい……姉と、妹が待っているんです……」
かき氷を買いにきた二人の少女が、少々自意識過剰そうな、黒光りする程に日焼けをしているマッチョメンに囲まれている……そんな構図が出来上がっていた。マッチョメンは四人いて、全員がそれなりに引き締まった体つきで、年頃は二十代前半といったところである。刺青をしていたり、ピアスを沢山着けていたり、髪を派手な色に染めていたり……明らかに相手を威圧するのが目的であろうと察せられた。
「お……お客様!申し訳ありませんが、そのような行為は、うわあっ!?」
「こっちは大事な話をしてんだよ!邪魔すんじゃねえ!」
果敢にも、ガラの悪い四人組を諌めようとした店員だったが、逆に突き飛ばされてしまい、近くにあったテーブルや椅子を巻き込んで倒れ、騒然となる海の家。そこには、少女達を恐怖で大人しくさせようとする目論見もあったのだろう。
だが、活発そうな赤い水着の少女は少しも怯みもせず、大人しそうな黄緑の水着の少女は瞳を僅かに涙で滲ませながらも、暴力に屈してなるものかと、震える足で踏ん張っていた。
「そんな、怖い顔しないでよ~。かき氷なら後でもっといいのを買ってあげるからさ、お兄さん達とちょ~っと付き合ってくれないかなぁ?そんな大胆な水着を着ちゃって、本当は誘ってるんでしょ?」
「デザイン気に入ったから着てんのよ!誰もが発情してると思ってんじゃないわよエロ男!」
「……んだとぉ!もういい……優しくなんてしてやらねっ……?……なんっ、だ?」
男の左肩に激痛が走る。まるで、万力で絞められるように、指が食い込む程の力で、背後から肩を掴まれていたのである。
「どう、優しくしないんだ?まさか、小学生相手に乱交プレイしようとしてたんじゃないだろうな?……そうゆうのは、非現実だけで楽しんどけ、淫行野郎!」
「に、兄さん?」
赤い水着の少女……小町は、都合のいいタイミングで助けに現れた実の兄に、呆気に取られていた。
ギリギリと指に込めた力を増してゆく剣。剣は男に突き飛ばされて尻餅をついたままの店員に対し、問い掛けた。
「傷害に恐喝、器物破損の現行犯。加えて淫行未遂……正当防衛ですよね?」
「え?」
「正当防衛だと、証言してくれますよね?」
「は、はいいっ!」
嫌だと言ったら、判ってんだろうな?剣は笑顔の裏にそんな言葉を隠して、確かな言質を取った。ちょい悪気取りの連中を諌めるべく行動を起こせた勇気ある店員であったが、剣の涼やかな声音に秘められた怒り心頭な迫力には敵わなかった……
「ただのナンパだったら注意する程度で済ませるトコだったが、絶望的に運が無かったな。俺の妹達に、不快な思いをさせてんじゃ……ねえっ!」
刹那、掴んでいた左肩を支点に軽くジャンプすると、剣は男の後頭部に、頭蓋が砕けない程度に加減したドロップキックをぶちかました!
「んごおぉぉっ!?」
舞い上がる砂埃、男は頭から砂浜に突き刺さり、尻を突き出した無様な格好でピクピク痙攣している。どうやら、辛うじて命は有るらしい。
そして、ブチギレしていたのは、剣だけではない!
「両手が塞がってる女子を、更に倍の人数で囲うとか、圧倒的な卑劣漢め!」
「小町とみどりんに与えたストレス、更に倍返ししてやる!」
「あぎゃ?ひっ?やっ、やめ!?」
翼と希は、二人で一人の男に対して、コンビを組んで攻撃していた。剣のように魔法で身体能力を底上げ可能な訳でもなく、一般女性と大差ない筋力の二人は、手数の多さで攻撃力不足を補っていた。……否、補うと言うには余りある、嵐のような連撃でありながら、正確無比に急所や関節を狙い、最小限の労力で最大のコスパを実現しているが故、その戦技は舞と称して差し支えない、無駄のない美しさがそこにあった。
「い、いい加減に、痛ぁ!」
男が反撃しようと拳を固めた瞬間に、翼がその拳を蹴りあげ、がら空きになった脇腹に希がトゥキックで貫き。希が囮となって蹴りを誘うと、翼が軸足を膝裏から刈り取るようにソバットを叩き込む。マトモな反撃を一切許されず、着実に高速でダメージを蓄積された男は、一分と保たずに精神と身体がボロボロにされていた。
「希、トドメ!」
「アレだね、翼!」
フラフラで立っているのもやっとの男の左右の肩に、翼と希が各々跳び乗ると、男の首を四本の足が交差して挟み込み……翼と希は逆立ちでもするように地面へと身体を踊らせ手を伸ばし……騒ぎを見物していた野次馬から「まさか!?」と、これから繰り出される技を想像してか、驚愕と恐怖の叫びが上がった。
その想像は、現実となった。まるで測っていたように、剣が倒した男の隣に、双子は男の脳天を叩き落とした!
ダブル・フランケンシュタイナー
フィニッシュホールドを極めた双子は、男の首から脚を外して起き上がると、ギャラリーに対して愛想を振り撒いて、自分達が危険人物ではないとアピールするのであった。天然のアイドル性を持つ双子の営業スマイルは恐るべき事に、一方的な蹂躙を一瞬で正義のヒロインによる小悪党の退治劇へと印象操作してしまうのであった……
場の空気は完全に男達にとってアウェイとなり、正常な判断を失わせた。残りの二人は、この場から無事に逃げ出そうとして、最悪手を選択してしまったのである。
「こ、こうなったら……テメエ、一緒に来い!」
一人が黄緑色の水着の少女、実鳥を人質に逃走しようと迫ると、その間に遥が割って入った!
「アタシの妹に、汚い手で触るんじゃねぇっ!」
遥は渾身の力を込めて、男の顔面に平手打ちを放つ!
「痛て……あばっぁぁぁぁ!?」
「え?……あ、あれ?……なんで?」
遥の平手打ちを喰らった男は、乾いた音の一拍後に、砂浜を転がるように海へと吹っ飛んだのであった。当然、常人に過ぎない遥の腕力ではそんな威力を生み出せる筈がなく、誰よりも遥が困惑していた……
「消える螺○丸、上手く出来たなぁ」
誰かさんが、そんな呟きをしていたのは、誰にも聞こえなかったのであった。
そして、最後の一人は小町に襲いかかろうとした瞬間に、梓に背後から頭を椅子で強打され、昏倒していた。ちゃんと壊された椅子を使っている辺り、梓は冷静で強かであった。
「こまたん平気?怪我してない?」
「梓姉さん……み、見れば解るでしょ!あんな奴等、ちっとも怖くなんか……ちょ、恥ずかしいって……」
「はいはい、こまたんは強い子だね~よく頑張りました」
強がりながらも震えていた小町を、梓は愛おしそうに抱き締めた。
「お、お姉ちゃ~ん……」
「……お、おう。実鳥も、小町を置いて逃げたりせず、よく踏ん張ったな。いつの間にか、お前もお姉ちゃんになってたな……にしても、さっきのは一体……」
泣きながら抱き着いてきた実鳥の頭を左手で撫でて慰めながら、遥は未だに釈然としない思いで、右手を閉じたり開いたりして確かめていた……
取り敢えず、観衆が盛り上がって五月蝿いが危険は排除し終えたところで、剣は周りを見回して首を傾げていた。
「こんな騒ぎに……桜は何やってんだ?」
剣のその言葉に、実鳥と小町は、揃って苦々しく笑いを浮かべたのであった……
「成る程、見事に定番だ」
「に、兄様~……水分を、塩分を~」
剣がビーチの拠点に到着すると、桜が首から下を砂に埋められていた。かなりデトックスしている様子であった。
「遅くなってゴメンね桜ちゃん。はい、かき氷だよ、あ~んして?」
「実鳥たま~地獄が一気に天国なのであります~」
実鳥からかき氷を食べさせてもらい、桜は正に、天にも昇りそうな幸福に包まれた……
「姉さんさぁ……事情は小町から聞いたけど、最近桜に対する当りが強くない?まぁ、桜もお仕置きを望んでいる節があるけどさ」
呆れるばかりの剣の台詞に、光は悪びれる様子もなく、小町達が買ってきてくれたかき氷を、甲斐甲斐しく明良に食べさせていた。
「桜なんだから大丈夫!ちゃんと冷たいお茶は用意してたし、燕が海水を掛けて冷やしてくれてたんだから。ま、それはそれとして」
「それはそれって……まあ、桜は頑丈だけども」
「それよりね……燕が色々凄すぎるのよ」
「……確かに。父さんの血が、ダイレクトに反映されたかな?これ、燕が一人で?」
桜の首から下になる砂地が、見事な人魚姫の身体の型に盛られていた。とても、幼児が一人で造形したとは考え難いレベルの仕上がりである。
「手の指とか細かい部分は私が手入れしたけど……大まかな形は燕が一人でやったのよ。大仕事だったから、疲れてお昼寝しちゃったけどね」
パラソルの日陰で、すやすやおねむの燕ちゃん。仕事が終わると眠ってしまう辺り、父親の血をしっかり受け継いでいるのかもしれない。
「……これは、見事な芸術である」
「直ぐに壊すのは惜しい。しばらく桜はそのままで」
「翼姉様、希姉様、御無体な~」
末妹の力作を後世に遺すべく、双子はカメラのシャッターを切りまくった。当然、桜の恥じらう表情込みである。
「とゆうか、何ですお二方の水着は?陸上競技のアスリートですか?露出度が少ないのです~!」
「色々と訳アリ」
「スク水に言われる筋合いは無い」
双子は写真に納めるのに満足すると、新たに桜の死角に広げたレジャーシートに座ると、サンオイルを取り出して、お互いの身体に、ネチョネチョと艶かしい音をさせながら塗りあい始めたのであった。
「あううっ!見たい!音だけなんて生殺しなのであります!だけど、首がそこまで回らないのです!自力で脱出出来ないのです~!兄様!どうか掘り出して下さいませ~!」
「……壊していいか、燕が起きてから聞くから、それまで待ってくれ」
「殺生な~!!」
基本的に、年下の妹の気持ちが優先される。それが聖家のルールなのであった。
妹のピンチに容赦なしの兄&姉達でした。
剣がマジキックすると、頭蓋が砕けるどころか、脳漿をブチ撒けちゃうんですよね、凄くスプラッタ……武装○金かよ!
梓と遥の水着は次回に……




