110話目 夏の浜辺は恋人達のもの?
夏コミ始まりましたね……行けませんけど!
作中も、コミケ同様の暑さでお送りします!
「湘南、夏の海……その時、その場所は戦後日本の若者にとって、憧れの地である……数多くの青春映画・ドラマの舞台となり、アーティストが夏をテーマに創造した楽曲にも〝夏の海=湘南〟をイメージさせる詩が広く用いられ、夏の湘南はトレンドの最先端として不動の地位を確立するに至ったのである。故に、こうしてこのビーチにはドラマチックな出逢いを求め、愛を求め、或いは育み……日本で最も爛れた浜の一つとなったのであります!」
そんな砂浜に仁王立ちして、生粋のヲタ戦士は、声も高らかに楽しそうに、湘南の海へと吠えたのであった!
「燕の教育上、いくない!」
「へぶうっ!」
容赦なく小町の突っ込みを後頭部に叩き込まれ、勢いよく砂浜に顔面からダイブする桜。怪我はしない筈、地面は柔らかい砂地なので。例え、小町がハリセンを逆手持ちにしていて、その構えがとあるファンタジー世界で、力と速さと闘気を究めた、大地と海と空を切り裂き、そして全てを斬ってしまう人類最高峰の必殺剣技に酷似していたとしても……ハリセンを取り出す瞬間が誰にも認知されない、神速の抜刀術を彷彿させる威力までもプラスされていても、ハリセンだから大丈夫なのだ!
「……さてと、それじゃあ拠点の設営始めましょうね、実鳥義姉さん♪燕♪」
まるで何もなかったように、スッキリとした笑顔で髪をかきあげる小町。大勇者と伝説の人斬りの複合必殺技は、ストレス解消に効果覿面だったようだ。
「……ま、桜ちゃんだし大丈夫だよね」
「こまねぇ、らじゃ!」
一般海水浴客から見ればちょっとした事件であったが、聖家では日常茶飯事な、週に一・二度はあるプチイベントである。特に、驚くべき事でもないのであった。
「きょ、教育上いくないのは、どちらでせう……?」
そしてやっぱり元気(平気ではない)な桜は、砂の上を蜥蜴のように這って三人を追うのであった……多分に一般人を引かせながら。
四人は適当な場所にレジャーシートを広げると、さっそく海の、砂浜ならではの贅沢な遊び……〝ほぼ無限に砂が使える砂遊び〟を始めて、光達がパラソルをレンタルしてくるのを待つのであった。
「いいですか燕たま。海水で砂を固めながら形を整えるのがコツなのでありますよ。先ずは初級編、お山を作ってトンネルを貫通させるのであります!」
「あい!ぐちょぐちょたのしー!」
「砂遊びなんて何時以来かな~?おっきいお山を作ろうね、燕!」
「……それでいいの、中学生……?いや、私もやるけども……」
始めは「それって女子的にどうなの?」と乗り気でなかった小町も、山にトンネルを開通させて、そこに水を流したり、その結果山が崩落したりする頃には、誰よりも熱中し、砂と泥にまみれてはしゃいだのであった。
そんな感じに姉妹四人が仲良く遊んでいると、桜が不意に、周囲がザワついている事に気がついたのであった。
「アレは……あ~、なるほど」
「桜ちゃんどうしたの?……そゆことかぁ」
「当然、注目集まるよね……」
浜辺に、女神と見紛う美の化身が降臨したのであった。
ハイビスカス形の飾りを着けた、つばの広い帽子からは長い黒髪が靡くように風に揺れ、その瞳は凛としつつも優しげで、欠点などとても見当たらない鼻筋と、薄くルージュが塗られた口許は艶やかに笑みを浮かべる。首から肩、上腕にかけて桃色の薄いストールを弛く纏い、水着は涼しげで清楚な白いワンピースタイプで所々控えめに金色の刺繍が施されている。妊娠中である為に少し目立つお腹周りにはパレオが巻かれているが「それがどうかしまして?」と言わんばかりに、ビーチパラソルを小脇に抱えながら颯爽としたプロモデルさながらのウォーキングを披露しているのは、聖家の最高権力者にして天下無敵のお姉ちゃん。太陽よりも輝いちゃってる光様なのであった。
「あらあら……皆して泥んこねぇ。浜辺で砂遊びなんて、童心に返りそうね~」
光は妹達に合流すると、直ぐ様パラソルを開いて日陰を作り、レジャーシートに腰を下ろしたのであった。
「荷物とか私が見ておくから、貴女達、一度海に入って砂を洗い流してきたらどう?」
「「「「は~い」」」」
特に反対する理由もないので、四人は素直に海へと駆け出して行くのであった。そして、そのまま〝水を掛け合ってはしゃぐ〟定番中の定番で盛り上がるのでありました。
「お……お待たせ、しました……」
光からやや遅れ、全身汗だくになりながら、明良が両腕にパラソルを抱えて到着した。
「もう……明良くんったら頑張っちゃって……」
「これでも……男ですから。剣君には「身の程知って下さい」とか言われそうだけど……出来るだけ、やんないと……」
(頼られる方が、私は嬉しいんだけど……頑張ってる明良くん、可愛いなぁ……❤)
彼氏の男気を無為にするような不粋な発言はしない、光はそんな気遣いが出来る女である!もし、そんな言葉が発せられたら、明良はプライドを粉々に打ち砕かれて、一生光に依存するだけの惰弱男に成り下がるかもしれない……光は、それはそれで満足かもしれないが。
そんな二人を、桜は海面から首だけ出して眺め……
「光姉様は、男を立てるでありますなぁ……四本までなら、余裕で運べたでありましょうに……」
自身の庇護欲よりも、明良の面子を優先している光の良妻振りに、目を細めて生温かな視線を飛ばしつつ、ママみ溢れる美しき姉の姿に、じんわりしっとりと萌え鑑賞しているのであった。
しかし、そんなまったりとした時間を許すほど、水を得たペンギンと化した末妹は、テンションが緩んでいない!
「さっくねぇ!どーん!」
ぼーっと光を眺めていた桜の背後に、水中から勢いよく飛び出した燕がタックルをかますように飛び乗った!
「はぶうっ!?」
当然、桜は顔面を不意に海へと沈められ、口の中を塩分とミネラルたっぷりな海水で満たされたのであった……
「あばぁ~……一日分の塩分を超過してしまったのですぅ……ぐげほっ!」
「桜姉さん、ベタベタすぎ~。一人で光姉さんに見惚れてたりするからそうなるのよ……気持ちは解るけどね」
姉妹で誰よりも光に憧れている小町。光のように、優雅な雰囲気を醸し出せる大人の女性を目指し、日々精進しているのである。
「それより、燕の泳力がベタ外れしてる方が、私は大問題ではないかと思う……」
実鳥は冷静に、もうじき三歳になる燕が、誰に教わったでもなく潜水して海中を自由自在に縦横無尽する様に、戦慄を覚えずにはいられなかった……
「ホント、光さんの妹達って、仲がいいですよね。喧嘩とかって、しないんですか?」
炎天下の砂浜でありながら、肩を寄せあう熱々カップルな明良と光。何をしていなくとも、その容姿で人目を引いてしまう光であるが、幸せ満開で朗らかな笑顔を浮かべているので、多くの者からチラ見されていて、正直明良は変な緊張感に包まれ、正直居心地が悪くなってきたのである。何気なく話題を振ったのは、気分転換を図る為でもあった。
「喧嘩ねぇ……最近は、特に無いわね。小町が上の子達の生活態度に怒ったりするのはあるけど、険悪になったりって事は……遥も随分丸くなったし……」
「僕、遥ちゃんにはまだ会っていないんですよね。避けられているんじゃないかと疑ってたり……」
少し哀しげに、自虐めいた乾いた笑いを浮かべる明良。無視されたりするのは辛い性分なのであった。そんな明良に、光は苦笑いで真実を告げたりするのであった。
「どちらかと言えば、ぶっちゃけ避けられてはいる……かな?」
「うぐっ!?」
物理的に例えると、心臓に拳を叩き込まれたような精神的ダメージを被った明良。もう少し、オブラートに包んで欲しかったのであった……
「あ……あのね、別に明良くんを嫌ってるとかじゃないのよ?遥は……警戒心が強いだけで、それにバイトが忙しかったりするだけで、私達の事は普通に祝福してくれてるから安心して!」
「いえ、いいんです。警戒されて、当然だと思いますし……」
「その理由については、私に多大な責任があるのだけれども……遥は特に、男性に対して目が厳しいから……うん。お父さんとも、挨拶程度の会話しかしてないし」
「……お義父さんが、とても不敏に思えてきました。同じ家に住んでて、挨拶だけって……」
家族の中でも、敏郎と遥は普段の生活サイクルが噛み合わないので、必然的に会話の数が少なくなっているだけで、遥が敏郎に悪感情を抱いている訳ではないのだが……同居当初から最近までヤンキーメイクで素顔を隠していた遥に、敏郎が怯えて中々話し掛けられなかったのは……当人同士以外の家族全員が公然の秘密としている真実だったりする。
「まあ、明良くんも私の家族との距離感掴むまでは苦労するかもだけれど、私達三人が仲良く幸せになっちゃえば、自然と打ち解けられるわよ。だから、焦らずに……ね❤」
「光さん……はい!僕、光さんと生まれてくる子供の為にも……」
とても甘々で、桃色空間な雰囲気を漂わせる光と明良であった……が!これは二人だけのデートでは、ない!
この時、聖シスターズの末四人は、波打ち際でビーチボールを投げたり打ち合ったりして遊んでいた。複雑なルールを理解出来ない燕に合わせた、如何にボールを上手くキャッチしたり、遠くに飛ばせたりするかを比べるだけの単純な遊びである。当然、燕以外の三人はボールを遠くに飛ばしすぎないように力を加減して遊んでいたのであるが、足下にボールが転がってきた瞬間、燕の遊び心に火が点いてしまったなだった!
「こーてーぺんぎん!」
燕が全力で蹴り跳ばしたビーチボールは、放物線を描かずに、真っ直ぐ明後日の方向へと、突き刺さるように……明良の頭に直撃した。
「痛あっ!?」
バチーンと音を立て、ボールは明良に衝突し、その威力によって、明良は仰向けに倒された。
「明良くん!?……燕!周りに気を付けなさい!それにその技!桜!また変な入知恵したわね!?」
光にキッと睨まれ、桜は目を反らして口笛を吹いて誤魔化した。しかし、実際ネタを仕込んでいたのは自分であるので、炎天下でありながら、ちょっぴり冷や汗も流していた。
「な、なんのことでありましょうな~?ボクはただ、男子対象の健全な熱血スポ魂サッカーアニメを見せただけでありますぅ~。それが短パン好きなお姉様方に大ウケしている作品であって、二次創作で大量のBLが氾濫しているからといって、燕たまを今から乙女道の求道者へと教育しようとしているなどと、言い掛かりも甚だしいのであるのです~」
「桜ちゃん。語るに落ちてるよ……」
「……腐った目で見なければ楽しい作品だからね!」
小町も、浅草っぽい名前の学校のサッカー部が主役のアニメのファンであるのだった。因みに、作品そのものを評価しているのであって、カップリング論争には興味がない。……ないったらないのだ!
「あたた……ビーチボールでこの威力って……?燕ちゃん?」
明良が起き上がると、燕が申し訳無さそうに、トテトテ近付いて来ていた。
「あきにぃ、ごめんなさい……です」
「あ、いや……僕の方こそ、ぼーっとしていて避けられなくて……全然大丈夫だから、気にしないで」
明良がにっこり微笑むと、燕は安心したように天使の笑顔を見せた。その可憐さに、思わず顔を綻ばせる明良であった……が、
「よかった~。あきにぃはへなへなだから、ばめは、ひとごろしになっちゃうかとふあんでした~」
「ぐああっ!?」
明良の精神に痛恨の一撃!幼児にへなちょこと思われていた現実は、光でも容易く立ち直らせられないダメージであった……
「義兄殿は、繊細な方ですなぁ」
「いや、あれが普通なんだってば。ウチの家族がチートなだけだから」
「てゆうか、さっきの燕のシュート……普通のボールだったら……妹の将来がコワイ……」
実鳥は燕の今後を憂いつつ、残り四人の姉と剣が合流する前からの混沌っぷりに、そこはかとない不安を募らせるのであった……
小町のハリセンがどんどん可笑しな威力に。
ストラッシュと龍閃の合体剣技……我ながらアホ。
燕には、あの技をやらせたかった!いつかネタにするだろうと思われてたかな~?
そして、幼さ故の残酷さ……
頑張れ義兄!
次回は原付組が合流します。




