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第3話

鬼に両親を殺され、生活をめちゃくちゃにされたやや病弱な少年・緋川叶は、育ての親であるシキと共に鬼専門殺し屋を営んでおり、鬼を憎んでいる。

そのことは友達や近所の人には内緒にしている。

ある日、ひょんなことから叶はシキが○○であるということを知ってしまう。

そこから叶は、鬼を素直に憎めなくなってしまって───?


 学校が終わって、放課後。

 普段はあまり使わないスマホを取り出して、シキさんに学校が終わったから神楽坂に向かうということを伝えようと、メッセージアプリを開く。

 緑の画面がぶわりと視界に広がって、俺は慌ててスマホの画面の明るさを下げた。

 すると、シキさんから珍しくメッセージが来ていた。

 普段は俺が送っても既読をつけるだけで一向に返信してくれないシキさんだ。

 どんな大事なのだろうとトーク画面を開くと、白の吹き出しから「悪い、今日はやめとく」とだけ来ていた。

 あまりにも言葉が少なくて最初は何を言っているのかわからなかったけれど、今日予定していた任務のことだと気が付き、ぱちくりと目を瞬かせる。

 でも、シキさんが決めたことを俺が覆すことはできないから、俺は大人しく「了解です」とだけ返信した。

 はぁ、とため息をつく。

 ここ最近はずっとシキさんとの任務がなかったから、久しぶりのふたりの任務だと思ったのに。

 大人しくスマホの画面を消した俺は、その黒い画面に写っている自分の浮かない顔を見つめる。

 すると、ひょこりと俺の肩口から、辰巳が顔を出した。

「なになにどうしたの?変な顔して」

「変な顔って失礼だな!?……んーまあちょっとね、シキさんと予定してた任務なくなっちゃって」

「あー、楽しみにしてたもんねぇ」

 可哀想に、とわざとらしく言ってくる辰巳は、片手に英語の単語帳を持っていた。

 歩きながら読んだら危ないよと言うと、帰りの車の中で読むから大丈夫と笑い返してくれる。

 そういえば辰巳、学校のすぐ近くまで車で送り迎えしてもらってるんだったな……。

「何かあったのかな?」

 俺がじとりと辰巳を見ていると、辰巳は大丈夫かなとシキさんを心配するように首を傾げた。

 わかんないけど、と俺は呟く。

 普段は突然任務を中止にしたりなんかしないシキさんだ。

 何かあったのだろうと思い、俺は辰巳に先に帰るから、と声をかけて走り出した。

 後ろから、辰巳の呆れるような声が聞こえたような気がしたが、振り返らなかった。

 俺の家は学校からそれほど遠くないから、全力疾走して5分くらいで着く。

 バンッ!と荒々しく玄関のドアを開けて家に入ると、夜ご飯の準備をしていたトウキさんが、びっくりしたように目を丸くした。

「おかえり。どうしたのそんなに慌てて」

「ただいま。シキさんどこ?」

「シキ?シキなら自分の部屋にいるわよ」

 トウキさんにそう聞くやいなや、俺はスクールバッグを放り出すようにして、シキさんの自室がある2階に繋がる階段を駆け上がろうとした。

 でも、階段を登ろうとした瞬間に目の前にシキさんが現れて、俺は後ろにひっくり返りそうになる。

 そんな俺を支え、シキさんは不機嫌そうに眉間に皺を寄せて俺を見た。

「帰ってきて早々騒々しいぞ」

「ごめん、でも仕方ないだろ。なんで任務中止にしたんだよ?」

「中止にはしてない。延期にしただけだ」

 俺の言葉に不満そうにしながらも、シキさんはちゃんと答えてくれた。

 そんな俺たちをキッチンから見ていたトウキさんは、あらあら、と頬に片手を添える。

 いつもの喧嘩だと微笑ましく思っているのだろう。

「別に延期にする必要ないだろ。今日は天気が悪いわけでもないんだし。俺の体調だって万全だよ」

「そういうことじゃねぇ」

「じゃあ……!」

「今夜は新月だろ。新月は鬼が最も力を得る時だ。普段は月光で抑えられていた力が、その制限をなくす日。だから延期にしたんだ」

「別に俺は新月だろうと構わない!」

「お前が構わなくてもこっちが構うんだ。もしそれでお前が死んでみろ。後悔すんのは俺だ」

 シキさんに真剣な顔で言われて、俺はハッとする。

 今まで、シキさんからそんなことを言われた記憶はなかった。

 いや、俺とシキさんが組んで新月に任務に出ることがそもそもなかった。

 任務や依頼自体はあったのだろう。

 だって新月の夜は、シキさんはトウキさんを連れて必ずどこかへ行くのだから。

 俺の代わりにトウキさんを連れて行っているのはやや不満だが、それもシキさんなりの愛情なのだろうか。

 そう思うと、何も言えなくなった。

 俺のことを想ってこうやって言ってくれていることがわかったからこそ、俺を大切に思ってくれていることがわかったからこそ、その気持ちを無下にはできなかった。

 俺は黙り込み、シキさんの言葉に納得せざるを得なくなった。

 ――でも。

「じゃあ、最後にひとつだけいい?」

 シキさんは何も言わない。

 それを肯定と受け取って、俺はそっとシキさんの顔を見上げた。

「今夜、もし神楽坂の鬼が暴れて人が死んでも、シキさんは後悔しないんだね?」

「……」

「俺は後悔するよ。新月だろうが、俺たちが向かっていれば死ななかった人も、死ぬかもしれないんだ」

「……俺らには関係のない人だ」

 シキさんが、苦しいのを絞り出すように言う。

 シキさんだって、そうやって死ぬ人がいるということは考えなかったわけじゃないだろう。

 運動神経が良い上に頭が切れて、更にルックスも良いという天才的な彼がそんな簡単なこともわからないとは思えない。

 でも、俺の命を優先して、そういう人たちを「知らない人だ」と割り切って。

 シキさんは仏頂面をしているせいで怖く思われがちだけれど、本当は優しい良い人だ。

 道端で死にかけていた俺を、拾ってここまで何ひとつ不自由なく、本当の親のように俺のことを育ててくれた。

 小さい時、実の親じゃないだろ、と意地悪な子達に言われた俺が部屋でひとり泣きじゃくっている時も、そんなの気にしなくていい、血の繋がりはなくとも家族だからと慰めてくれた。

 不器用だけれど、とても優しい人だ。

「とにかく、今日の任務は延期だ。いいな?」

「……はーい」

 まだ心の底から納得はできていない俺の頭をくしゃりと撫で、シキさんは自室に戻って行った。

 階段下で複雑な心境に駆られている俺のところに、洗った食器を拭き終わったトウキさんが来る。

「気にしなくていいのよ。たぶん、あの人は今夜辺りひとりで神楽坂に行くと思うから」

「やっぱり、そうだよね」

「なぁに?頼られないのが寂しいの?」

「……」

「え、うそ本当に?冗談のつもりだったんだけど……?」

 叶くんはいつまで経っても反抗期が来ないわねぇ、と嬉しそうにトウキさんが笑う。

 ふわふわと揺れる、彼女の長くて白い横髪(触覚ともいうらしい)を見て、俺はそっと自分の髪に触れる。

 そうしても、何か変わるわけじゃないけれど。

「そんな顔しないで。あの人は貴方を頼りたくないわけじゃないのよ。逆に、貴方に社会の厳しさを教えるために、もっと外に連れ出したいと言っていたくらい。でも、危なことはさせたくないのよね」

 特に貴方は、と言葉を紡ごうとして、トウキさんは口を噤む。

 そして、困ったように眉尻を下げて笑った。

 何となく、トウキさんが言おうとしたことがわかるような気がした。

 ――俺には、鬼に関してのトラウマがある。

 だから、シキさんはそれを更に悪化させないようにしている。

 俺に鬼専門殺し屋なんていうものの相棒を任せておきながら、あまり危険なところや|(むご)いところに行かせようとはしない。

 俺はそれが嬉しくもあり、ありがたくもあり、そして同時に、寂しくもあった。

 こんにちは。藤宮壱月と申します。

 今回の話は、いかがでしたでしょうか。

 楽しんで貰えましたか?

 さて、私も誤字脱字がないように気をつけてはいるのですが、どう頑張っても私は人間でありロボットではありません。

 誤字脱字や言葉の使い回し等、おかしいところがありましたら、御手数ですが教えていただけると幸いです。

 よろしくお願いします。

 最後まで読んでくださり、ありがとうござぃした。

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