第1話
鬼に両親を殺され、生活をめちゃくちゃにされたやや病弱な少年・緋川叶は、育ての親であるシキと共に鬼専門殺し屋を営んでおり、鬼を憎んでいる。
そのことは友達や近所の人には内緒にしている。
ある日、ひょんなことから叶はシキが○○であるということを知ってしまう。
そこから叶は、鬼を素直に憎めなくなってしまって───?
姉さんが叫ぶ声がする。
父さんが、逃げろと怒鳴っている。
ガシャンと窓が割れる音がする。
そんなたくさんの音を、俺はベッドの中に潜り込むようにして隠れて聞いていた。
物音はどんどん大きくなるのに、父さんや母さんの声が少しずつ聞こえなくなっていく。
慟哭する姉さんを励ます、兄さんの声が聞こえる。
バタバタと階段を上がってきて、2階にある俺の部屋のドアを勢いよく開けた誰か。
俺は誰が来たのかわからなくて怖くて、ずっとベッドの中で息を殺していた。
でも、もちろん見つかって。
バサリと掛け布団をめくって俺を冷たい空気に触れさせたのは、泣いている姉さんを連れた兄さんだった。
「逃げるよ!走れそうかい?」
兄さんに聞かれて、俺は頷く。
本当はずっとベッドの掛け布団の中に頭まで潜っていたせいで、頭はぼんやりして熱いし、息も切れている。
でも、兄さんにおぶってもらうのは、今はできないような気がした。
――そんなことしたら、ダメなような気がした。
3人で手を繋ぎあって家を飛び出て、ひたすらに走る。
家を出る途中で、そっとリビングを見ると、争った形跡があった。
さらに奥の方を見ようとすると、兄さんがそっと俺の目を塞いだ。
「見ない方が良い。今は逃げることだけに集中するよ。後で説明するから」
ぐちゃぐちゃと何かをかき混ぜるような音が、リビングの奥の方から聞こえてくる。
怖くて、俺は兄さんの言う通りにしか行動できなかった。
ガチガチに固まった体を解すように、兄さんは逃げながら、俺の手を優しくさすってくれる。
兄さんも、怖いはずなのに。
鉄のような匂いがする家から飛び出ると、外は冷たくて、それでも美味しい空気に満ち満ちていた。
空気が美味しいと感じたのなんて、これが初めてだ。
俺たちは家から遠く遠くへ向かうようにただひたすらに走り、複雑な道を曲がりながら家なら遠ざかっていく。
「なんでッ、なんでなのよッ!」
「姉さん……、」
「なんでお母さんとお父さんが殺されなきゃいけなかったの!?どうしてッ……どうして私たちなのよッ……?」
兄さんは姉さんの言葉を受けて、表情を曇らせる。
その意味がわからなくて、俺はそっと兄さんを見上げた。
兄さんはそんな俺を見下ろして、悲しそうに微笑み、俺の頭を撫でた。
「鬼は、知っているよね?」
「……うん」
――嫌な予感がする。
これから兄さんが言う言葉を、聞いちゃいけないような気がする。
それでも、聞かざるを得なかった。
「鬼がね、僕たちの家を襲ったんだ。母さんと父さんは、僕たちを庇って鬼に殺された」
ハッと、目を見開く。
なら、あのぐちゃぐちゃと鳴っていた音は、鬼が母さんや父さんを食らっていた音……?
「これから、私たちはどうしたらいいの……?」
「僕たちだけで生きていくしかないよ」
「そんなの無理に決まってるじゃない!私たちは子供で、稼ぐこともできなくて、たぶん家にも帰れないわよ!そんな状態で、私たちだけで生きられると思ってるの!?」
「それでも!生きていくしかないんだよ。母さんや父さんからもらった命を無駄になんて……」
姉さんと兄さんが、言い争う。
俺はそれに参加できずに、ただただ殺された父さんと母さんを思い浮かべて、自分の体を抱きしめた。
ガタガタと震えが止まらない。
血塗れの父さんや母さんが、鬼に喰われているところを想像しただけで、息が苦しくなってくる。
ふぅっ、ふぅっ、と荒い息を繰り返していると、兄さんがそっと俺を抱きしめてくれた。
その兄さんの体も、震えていた。
そんな俺たちの様子を見ていた姉さんが、ふと俺たちの後ろを見て顔を真っ青にする。
兄さんもそれに気がついてそちらを見て、目を見開いて立ち上がり俺の手を取った。
だが、走り出す前に、俺は後ろを振り返ってしまう。
目の前に、鋭い爪と牙を持ち、瞳をギラギラと鈍く光らせた、返り血塗れの鬼が迫っていた。
――殺される……!
こんにちは。藤宮壱月と申します。
今回の話は、いかがでしたでしょうか。
楽しんで貰えましたか?
さて、私も誤字脱字がないように気をつけてはいるのですが、どう頑張っても私は人間でありロボットではありません。
誤字脱字や言葉の使い回し等、おかしいところがありましたら、御手数ですが教えていただけると幸いです。
よろしくお願いします。
最後まで読んでくださり、ありがとうござぃした。




