緊張
放課後、気乗りしないまま喫茶店のドアを開ける。「どうぞ」マスターはコップを拭きながら、にこやかに奥に目を送る。
紫織はアイスコーヒーをすすりながらスマホを見ていた。
近づいていっても気づかない。勝手に椅子に座るとようやく顔を上げ「よう」と弱々しく言った。
「何?急いでるんだけど。」
ぶっきらぼうに言い放ち嘘を付け加える。
「ご、ごめん。でもちょっと話したくて…」
口をもごもごさせながら、ずっと俯いている。こんな紫織を見るのは初めてだ。
この前言ったことを気にしているのだろうか、青藍の死がこうさせたのか知らないが、前者なら私が悪者みたいではないか。
「で、何?」
苛立ちで言葉がきつくなってしまう。これでは、いつもと立場が逆転してしまっている。
「あの…言いにくいんだけど…バンドもう一回やらない?」
……。は?バンドをもう一回?私には無理だ。
「ごめん。もうベースないの。友達にあげちゃって…」
「そうなの?それなら私が買うから!お願い、また一緒にバンド組もう!」
言葉を選びながらゆっくりと、だけど必死になって私に訴えかけてきた。視線に耐えきれない。そんなにまっすぐな目で、私を見ないでほしい。それにどう返答すればいいかもわからない。
「で、できるわけないじゃん…嫌だよ…もう嫌なんだよ。ミスって惨めな思いするのも、みんなにどう思われてるのか気にするのも、もう嫌なんだよ。そんなにベースが欲しいなら他のやつ探せよ!」
泣きながら叫んでいた。もう、どうなこと言えばいいとか、どんな顔すればいいとか考えれなかった。
紫織の顔が見れなくなり、思わず店を飛び出してしまった。




