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バンド  作者: こくぼなり
一章
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緑の決意

 学校に着くと大体の人が、すでに教室にいた。その中には、もちろん青藍もいた。

 しかしバントを辞めると決心した今は、正直話したくない相手だ。

 休み時間になると、必ず青藍と目があった。その視線から逃げるように、結衣に話しかける。

 結衣も薄々感付いていたが、何も言わずに会話してくれた。

 放課後になり、教室を出て渡り廊下に行く。予め紫織を、そこに呼び出しておいたのだ。

 今思えば、メッセージアプリで伝えればよかったのだが、冗談と取られたらめんどくさい。

「久しぶり、緑。体調大丈夫か?」

 唐突に声をかけられ、少し驚く。しかし、一切顔に出さずにゆっくりと振り向く。

 そこには、慣れ親しんだ紫織の顔があった。そう、いつも人を見下しているような顔が。

「久しぶり紫織。もうすっかり大丈夫だよ。」

 何の感情も込めずに、ただただ言葉を発する。気まずそうな顔をして「そ、そりゃあよかったな」と口だけが動く。

「き、今日のバンドの練習この前の続きやるぞ。覚えてるか?」

 沈黙が気まずかったのか、早くバンドの練習に行きたいのか話題を変えその場を離れようとする。

 その姿が滑稽だったが、言うのなら今だと思い口を開く。

「私バンド辞めるから…」

 数秒の沈黙が続き、「え?」と紫織が声を上げる。また数秒の沈黙の後に、「なんで?」と声を出す。

「うん?足引っ張ってるでしょ?それにもう関わりなくないから。」

「え、ちょっ…まって…」

 紫織は混乱しながらも、引き留めようとする意思表示をしている。

「あと、そんなに人を見下さないほうがいいと思うよ。」

 とどめの一撃食らわせて、渡り廊下を後にする。「ドサッ」という音は、多分紫織がへたり込んだ音だろう。

 一回も振り返らずに靴箱まで行き、靴を履き替える。外に出た瞬間視界がぼやけてきた。涙だ。私は泣いているのだ。

 おかしい。なんで泣いているかわからないけれどおかしい。いや可笑しいのかもしれない。

 何がなんだかわからなくなり、家まで全力走った。泣きながら走る人はおかしい人だが、歩いていたら周りの人に、声をかけられそうだ。

 私はメロスにでもなった気分で走った。全力走って家に着き、全力で泣いた。

 その日はお風呂に入り、すぐに寝てしまった。

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