第23話
俺たちは実習用のテントや調理食材を早々に買い込んでしまった。肉は現地調達しろと通達されているので調味料や野菜とかだが。卵や牛乳は俺が運搬すれば運べるが、他の生徒に「どうやって持ってきたの?」と聞かれるだろうから今回はパス。野菜は俺が保存しておけば腐らないし、直前になってさも「今買いました」という顔でしれっと持ち込めばいいだけだ。まあ、テントは放置しても腐らないが。食器は何とユーロお手製。ユーロは暇を持て余して木工とかやってたのである。気がつけば木の皿が量産されていた。漆のような、何か釉が塗ってある。俺が提案したら箸も作ってくれた。今ではリオンも結構上手に箸を使っていたりする。俺が人型形態をとり、カブトムシの幼虫のような、白っぽい何かの虫の幼虫を箸で摘まんで食べていたら「もう二度とやるな!」と大不評だった。奴らは虫は食わないらしい。俺は意外と甘くてクリーミーでうまいと思うんだが。確かに人間だった頃は「食べてみようかな?」なんて考えもしなかったな。俺もどんどんモンスター化が進んでいる。非文化的な方向に。
「久しぶりに冒険者活動をしよう。」
リオンが言いだした。
『そういえばリオンは冒険者だったな。』
『そうなんだよ。サニーが定期的に宝石排出してるし、ラヴィたちが森でお金になる魔獣や動物とってきてくれるから、お金に困ってなくて最近すっかり遠のいてたけど、僕も冒険者だったんだよ。』
最近は冬に向けて、狐やら貂やらの襟巻が流行ってるらしくて、森でどっさり狩って来たんだよな。体内に毒を注入する方法なら毛皮は殆ど痛まないし。肉は食えないけど。
『リオンさんは冒険者だったんですか。』
『そんな弱っちくて冒険なんてできるのか?』
『ほとんど街中のお遣いクエストしか受けたことない。でも、今は僕以外に戦力があるし、街中以外のクエストが受けられるんじゃないかと。』
『別に構わんが、リオンは気配の消し方がイマイチだから大人しい動物を狩るタイプの依頼は難しいぞ?凶悪な魔物を狩るタイプの依頼なら、囮か?クレアをつけて囮担当でエアカーテンを使いつつ守ってもらって、その間にユーロと俺で討伐?』
『いや、いきなり討伐はちょっと…まずは薬草採取とか、比較的安全そうな街中以外のクエストを…もし襲われそうになったら助けてもらいたいけど。』
へっぴり腰だな。
『まあ、いいぞ?』
クレアからもユーロからも特に反対意見は出なかった。サニーは自由放浪してるので何やってるのかよくわからん。実習までには帰ってくるように伝えてあるが、少々遠方へ行き魚を食べているらしい。ほんと魚好きね?
サニー以外全員揃って冒険者ギルドへ行った。アラクネが2匹もぞろぞろ入ってきたので注目の的である。クエストボードを見た。因みにアラクネは人間と同じ文字を使うのでユーロもクレアも文字は読める。俺も今はちゃんと読めてるぞ?
『森が良いのか?平原が良いのか?』
『敵が手強くない方。』
『どっちもどっちだぞ?平原は群れで狩りをするウルフ系の魔物が多いし、森は隠密持ちの大蛇なんかが多い。』
『どっちが守りやすい?』
『あんまり変わらん。薬草が多いのは森みたいだがな。』
森ということにした。「ツクモ茸の採取20本、小銀貨7枚。本数によっては追加買取可。期限5日以内。備考:フルーガ森に生えている。保存状態によって買取拒否する場合もあり」と「ヒュルポ草の採取20株、小金貨6枚。採取品の他に50株まで追加買取可。期限6日以内。備考:フルーガ森に生えている。保存状態によって買取拒否する場合もあり」と「アジュリ草の採取10株、小金貨8枚。採取品の他に30株まで追加買取可。期限5日以内。備考:フルーガ森に生えている。保存状態によっては買取拒否する場合もあり」を受けることにした。「最初から3つも受けて大丈夫かな?」とリオンは心配していたが期限は5日は取れるらしいから大丈夫だろう。リオンは学校に行ってる間も俺たちは普通に活動できるし。クエストボードから依頼書を剥がして、持っていき、受付する。それからギルドの2回にある資料室で、薬草のお勉強である。目的の茸、薬草の見た目、特徴、生えやすい場所などがまとめられた図鑑をしっかり脳内登録する。
そしてフルーガの森へ。フルーガの森はキャラハの森なんかに比べると比較的安全な森だ。
『うー…ドキドキしてきた。』
『リオンは俺ががっちりガードするから滅多なことにはならんぞ?ユーロ、クレア。まず一つ目を見つけられるかが鍵だ。見つけたらすぐに念話して来い。』
『ラジャ。』
『わかりました。』
各自散開して探索を開始。クレアがヒュルポ草を見つけた。俺は匂いを覚えて、【超嗅覚】を発動させる。ヒュルポ草の匂いを探して、的確にヒュルポ草を回収している。とったらそのまま俺の収納にIN。これで萎れることも痛むこともない。
次にユーロからツクモ茸を見つけたという連絡があった。当然匂いを覚えて乱獲。因みにツクモ茸は高級食材らしいので俺らが食う分も採取している。勿論俺の収納にIN。
最後はアジュリ草。これがなかなか見つからなくて難儀した。少ない株数で報酬が高かったから、見つけにくいだろうとは思ってたけど。なんとかリオンが探し出したので、匂いを覚えて探索しつつ数を揃えた。
途中で蛇だの熊だの猪だのに襲われたのでしっかり食肉に変えてもらった。蛇は食わないらしいので、俺が処分(食べた!)しておいた。ついでに鹿も出たのでクレアが狩った。勿論食肉用である。
夕暮れになったが。
『なんか1日で全部終わっちゃったね。』
『俺が匂いを嗅いで探し当てたが、ウルフ系のモンスターをティムしてる奴でも同じことが出来るはずだから、普通こんなもんなんじゃないのか?』
『テイマーって意外と便利なんだな。』
『熊って美味しいです?アラクネの集落の近くにはいませんでした。』
『鍋なんかにするとおいしいって聞いたよ。今日は二人の分もお鍋にしとくね。熊鍋なんて初めて作るからあんまり味に自信はないけど。』
『リオンさんの料理は美味しいです。』
ワイワイキャッキャとはしゃいで、街に帰って行った。
リオンの持つ大きめの袋の中には俺が入っている。ギルドに入っていき、受付のお姉さんの所へ行く。
「依頼品とってきたので。」
「リオンさん、複数の依頼を受ける場合は袋も複数持つべきです。」
「ああ、これ内ポケットで小分けにされてるので依頼品は混ざってませんよ。鮮度も自信あります。」
リオンが大法螺吹いた。俺の時空魔法から出すんだけどな。
「そうなのですか?ならいいですけど…」
「まずはツクモ茸から…」
リオンが袋に手を突っ込んできたので、ツクモ茸を握らせてやった。丁寧に20本取り出して見せた。
「あら。土も綺麗に払ってくれたのね。素人が水洗いすると風味が落ちちゃうんだけれど。もしかして、洗った?」
「いえ。洗ってませんよ。土を手で払っただけです。嗅いでみてはいかがです?」
多分受付のお姉さんが匂いを嗅ぐアクションしてるんだろうが、袋に入った俺には見えない。因みに受付のお姉さんは犬っぽい感じの獣人だった。モフモフさせてほしいけど、うら若い女性にそんなこと言えまへん。
「まあ!すごく香り豊かだわ!まるで採れたてそのもの!傷も殆どないし。」
ついてる傷は採取前からついていたものだけだからな。とりあえず品質には納得してもらえたらしい。ヒュルポ草とアジュリ草も極めて保存状態が良いとかで、高評価だった。追加買い取り分も含めて、自分たち用のツクモ茸以外の全部の薬草を放出した後そっとリオンの足元に転移した。
リオンに抱き上げられて帰った。
リオンは自室で熊鍋調理中。先にクレアたちの分は大鍋で作って、獣舎に運んだ。多分今頃舌鼓を打っていることだろう。今度は別鍋でリオンの食べる分を調理しているのだ。塩と香辛料の味付けの鍋だがニャルカの天日塩の味は究極である。リオンは味見しながら唸っている。
「美味しいなあ…」
『さよか。』
「ラヴィも食べる?多めに作ってるし。」
『なら少し貰おうか。』
たっぷり煮えた鍋をリオンと俺(人型形態)がつつく。
『うむ。うまい。塩も肉もいいが、ツクモ茸がまた良い出汁を出してるな。コリコリして何とも言えず旨いし。』
消化液を出せば噛む必要などないのだが、わざわざ歯の形を作って噛みごたえを楽しんでいる。堪らん。スライムは3大欲求のうち睡眠欲と性欲は消えているので食欲くらいしか楽しみがない。
「そうだね。流石の高級食材。」
『今度、暇だったらまたとってこよう。ツクモ茸。』
「うん。また一緒に食べようね。」
何だかリオンはニコニコ嬉しそうだ。俺はあんまり気にしてなかったが、リオンも一人で食事をとるのは寂しかったのかも。まだ子供だもんなあ…時々は一緒に飯食ってやろうかな。
『今日は冒険者っぽい活動できて良かったな。』
「うーん…僕の役立たず感が半端ないけど。」
『リオンは特技とかないのか?』
「……料理とか?買い物するとき値切るのも得意だけど。価格つり上げて売るのも得意。」
『さっさとミュリと結婚しちまえ。』
根本的に冒険者向きの性質してない。
「商人になると、ティムモンスターはあんまり活躍しなくなるかなあ…って。」
『サニーは大活躍だがな。クレアたちは将来的には集落に帰る予定だし。いいんじゃないか?俺はあんま役には立たんが、護衛兼話し相手ぐらいにはなれるぞ。』
「うん。頼りにしてる。」
リオンがニコッと笑った。くそう。リオンの癖に可愛いとか生意気だぞ。まあ、ある意味マスコットキャラ感はあるけど。モンスターに比べるとすごくか弱いし。(恐らくミュリと比べてもすごくか弱いとは思うが。)




