ジェイコブ⑦
翌日。
結局わけもなく気が進まなかったため、ジェイコブはアマンダから受け取ったURLにアクセスしなかった。
パスワードもなんとなくしか覚えていなかった。
いつものように海岸へ行ったが今日は風がなかったため、ジェイコブが拾うようなものはなにもなかった。ただ静かな時間だけが流れていた。
ジェイコブは流木に腰かけ、カニが死んだ魚の腹に潜り込むのを見ていた。
カニは死んだ肉が大好きで、そんなカニが大好きな人種もいたなと思っていた、その時。
けたたましい鳥の声。
顔を上げたその先。
森をえぐって出来たルートをバスが走っていた。アマンダだろうか。
そのバスは猛スピードだった。
カーブが迫っているのにバスはどんどん加速しているように見えた。
ジェイコブがあっと思ったときにはもう。
バスはカーブを乗り越え谷底へ落下していった。少し遅れて派手な衝撃音。バサバサとたくさんの鳥が逃げていき、辺り一面に土煙が舞った。まるで爆撃でも受けたかのような。
ジェイコブは立ち尽くしていた。
足は自然と海岸から離れた。早足で自宅に向かっていた。
パスワード、思い出せパスワードを!
昨日の会話を思い出しながらジェイコブは妙な後悔に襲われていた。
ああ彼女ともっと話が出来ていれば!
観光客ごと彼女は死んだ。強要されていないと言ったが、だが彼女は結果命を捧げたのだ島のために。
パソコンを開き、紙切れの字を追って打ち込む。簡単なことなのに何回も間違った。
ようやくエンターキーを押すと目に映ったのは真っ白な画面。真ん中にレリジャス・ファナティクスと書かれていた。パスワードを入れるためのスペースがあったので打ち込むも画面は変わらない。間違っているんだパスワードが。四回目でやっと画面が変わった(後でアーサーに五回間違ったらロックがかかるようになっていたと言われそのときは胃がきりきりした)相変わらず白い画面には上から下に名前が並んでいた。
一番上にアーサー・グレイフィールド。
その下にリタ・レッドストーン。
二番目の名前はどこかで聞いたことがある気がした。名前を追っていくとアマンダを見つけた。アマンダ・ネイビー。彼女の名前はクリックすることが出来た。他に何人かのを押して試したがどうやら見れるものと見れないものがあるようだ。
アーサーという名も押せなかった。
ジェイコブはアマンダが送ったであろう文章を読んだ。
ここの管理人になるのだろう、アーサーという人物に訴えている彼女の言葉がたくさん残されていた。
彼女が、観光客を島に送迎することにより大きな罪悪感を感じていることが見て取れた。
島の自然を美しい環境を守りたいのに自分はそれと正反対のことをしていると。
生活のために始めた仕事はただ自分を養っているだけで島のためにはなっていない、一体自分に何が出来るのか。
島にたかってくる連中を地獄の底に叩きつける妄想ばかりしてしまうと。
相手からの返信は載っていなかった。ただ身の内の感情を吐き出していた彼女が次第に落ち着き、だんだんと自分の計画にまるで心酔しているかのような文章に変わっていくのがわかった。
素晴らしい思いつきをした、後はどのタイミングで実行しようかとそんなことを。
文章の最後、一番観光客の多い時期、私は行動を起こす。それまでに後継者を見つけたいと書かれていた。
相応しい人物に出会えればいいのだろうけど、と。
……後継者。後継者!
ジェイコブは自分が嫌な汗をかいていることに気がついた。
アマンダの言葉を再度読んでから、画面の下にあったボックスに字を打ち込んだ。アーサーという人物に対して。アマンダのことを、自分のことを。
恐怖も嫌悪も感じていなかった。
こんな場所に出会ってしまったこと、見つけられたことに僅かだが気分が高揚していた。
何が起こっているのか知りたくて仕方がなかった。




