アーサー⑤
ヒョウの子、と言っても一歳にもなれば見た目はすっかり大人だ。
アーサーはじゃれついてくる二頭をまともに相手するため生傷が耐えなかった。最初に出会ったのは多分二、三ヶ月くらい、随分と大きくなった。
アーサーは構ってくれ、遊んでくれという頭突きや抱きつきによろめき、倒されながら久々の子育てを楽しんでいた。
ハニーとハートを拾う前は、しばらく狩りとカウンセリングに没頭していたため、動物と共に生活する余裕がなかったのだ。
この子達が独り立ちするまではこちらを優先しよう。まだ密猟グループを捕らえてはいない。駆除しなければ。この子達の母親がハンターの犠牲になっていたら、おそらくまたこの地に戻ってくる。
もしかしたら子供が狙いだった可能性もある。売れるのだ、ペットとして。
猛獣を子供のうちに飼いならしたいという人間はあちこちにいる。首輪と鎖で繋がれるなんてくそくらえだ。
大自然の中で生きることこそ野生動物の本来の姿であるのに。
乾いた土の上で砂埃を上げながら転がりあうハニーとハートを見て、思わず微笑む。可愛らしくて無邪気な子供たちだ。
遊びに夢中で自分たちがいかに脆い存在かちっともわかっていない。
この先覚えることがたくさんあるぞ。獲物の捕り方、水のみ場の位置、他の肉食獣が危険なこと、なわばりに安心できる寝床に、アーサー以外には近寄ってはいけないこと。
アーサーは考えるのに夢中になっていた。なりすぎていた。
一歳を過ぎてからはしょちゅう夜の森に連れて行った。夜の世界に慣れさせたかった。アーサーが常にいるのならば昼間一緒に行動してもいい。だが、いずれは野生に戻る身だ。
他の肉食獣の眠る夜に活動するのがヒョウの生態であり、生き延びるための術なのだ。
アーサーはその日、二頭を木の上に誘導していた。ハニーとハートはアーサーを追い越しどんどん登ってく。
途中、無線が鳴った。聞きなれているはずの機械音に、二頭はびっくりして唸った。
アーサーは無線に答える。保護区の近くにある村で、家畜用の柵が壊されたと住民が騒いでいる、きっと像が壊したんだと。
動物が入ってきたら家畜を守るために殺すと言って聞かないとの話だった。銃口を保護区に向けていると。
じゃあなんだ、俺はそこにいって一緒に柵でも直せばいいのか?一番危険で野蛮な動物は家畜を襲うライオンやハイエナでなくお前自身だと言えばいいのか?
どうせ補償金が欲しいんだろう、家畜を襲われたら支給される補償金が。
この地区では確認をレンジャーがすることになっている。
補償金を出すといったら毎日のように金をたかってきたから、確認が必要だった。
杭についた爪跡一つで金金金、全くここの連中にはうんざりだ。
アーサーは見張りをするから自分たちで柵を直せと言うつもりだった。すぐに帰ってくるつもりで、ハニーとハートを木の上に残して行った。
アーサーがいない最初の夜が今日だなと、そのくらいにしか思っていなかった。
ハニーは遠くを見つめている。森の臭いを嗅ぎ、耳と尖らせていた。ハートはアーサーに一度擦り寄ってきたものの、アーサーが木から下りるそぶりを見せるとハニーの方に戻っていった。ハニーはハートを舐め、それからまた夜を見つめ始めた。
大丈夫だろう、このまま残しても。
ハニーが本当にしっかりして見えたから、アーサーはなんの心配もしていなかった。
この子達がまだ子供で、自分が保護者ということを失念していたのだ。




