表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きな女の血が吸えない吸血鬼  作者: 阿久理ヒロミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/3

第一話 不発

挿絵(By みてみん)


牙が‥出ない?。

えっ指‥光らない‥。

陽も沈んだ街中で、二人の男女が向き合い立ち尽くしていた。


数日前の休日。

外箱破れなどで売れなくなり廃棄予定となった食材各種を、圭介が軽バンに積み込んでいた。

「社長、いつもすみませんね、きっと子供達も喜びます」

「気にすんなよ、こっちだってバラして廃棄する手間が省けてるんだからさーーしかし、あんた偉いよな。今日だって本当は休みなんだろう」

「休みだからこそ、気分転換にちょうどいいんですよーーそれじゃあ貰っていきます、ありがとうございました」

ーーーーー。

午後三時過ぎ、圭介の運転する軽バンは、同じ区内にある子ども食堂に到着した。

「待っていたよ前原さん、ちょうど調味料も切れたところだったんだーー本当、毎月助かるよ」

子ども食堂の男性スタッフが軽バンのドアを開け、中に積まれた食材をリレーで施設内へ運び込んでいく。

「昼飯は食べたのかい?未だなら夕飯準備がもうすぐ終わるから食べていってくれよ」

軽バンから荷物を運び終えた男性スタッフが圭介に言う。

ーーーーー。

食堂に入ると、中は出来立て料理の匂いで満たされていた。

二十人ほどが座れる食卓と椅子が並び、子供達の笑い声を聞いた瞬間、孤児院の食堂が圭介の頭を過ぎっていく。

「どうぞ圭ちゃん。ゆっくり食べてってね」

カウンターに食事を準備してくれた年配の女性スタッフが、圭介にそう声をかけてきた。

「すみませんね、遠慮なくいただきます」

「何言ってんのさ、圭ちゃんなら遠慮なんて要らないんだよ」

カウンター前に立つと、厨房の中で次々と料理を作り続ける調理スタッフ達が見える。

「みんな〜今日、圭ちゃんが食材持ってきてくれたからね」

「おう、圭ちゃん、いつもありがとうな」

年配の女性スタッフの声で、厨房にいた調理スタッフが一斉に圭介を見た。

あれ?あんな子いたかな‥。

年配の男女スタッフに紛れて、一人だけ見慣れない若い女性スタッフが圭介の目に入る。

その若い女性スタッフが軽く会釈をしながら微笑んだようにも見え、圭介も慌てて会釈した。

「可愛い子でしょ。たまにボランティアで来てくれているのよ」

ーーまだ若そうに見えるけど‥何でボランティアなんかを‥。

周りの調理スタッフと和やかに話す若い女性スタッフを見ながら、圭介はカウンターから料理を取り、食卓に着いた。


週明けの平日、帝国商会営業部。

「やりましたね!先輩!スポーツバースの独占販売権獲得!」

圭介に近づいた後輩の長澤が興奮気味に話す。

「一仕事が終わっただけだ」

「まったくもう‥そういうところ。もっと素直に喜ぶべきですよーーそう言えば知ってます?取引先ダイブギアの令嬢が先輩を気にかけているって噂」

「知らないな、ダイブギアは俺の担当ではないし」

「ホントその性格勿体ないなぁ‥沙希も言ってますけど、もうちょっと愛想良くしないと、この先で女子社員とうまくやっていけませんよ」


その翌日。

「長澤、契約は明日だぞ。スポーツバースの契約書押印は済んでるだろうな」

長澤の顔から血の気が引いていく。

「す、すみません、い、今から急いで貰ってきます!」

長澤が慌てて自分の机の引き出しを開け、中から大きな封筒を取り出した。

「お前、その封筒!出し忘れていたのかーー貸せ!俺が直接行ってくる」

圭介は長澤から封筒を取ると営業部を出て、秘書室のある最上階へ向かった。

「すまないが至急、押印を頼みたい契約書がある。決済済み稟議も押印申請もここにある、もちろんリーガルチェック済みだ」

受付嬢のいるカウンターに封筒を乗せた圭介が頭を下げる。

「申し訳ありませんが、当日の押印受付は応じかねます」

「それは知っているが、明日が契約日なんだ、すまないが融通できないだろうか」

「ーーそうですかーー私では決めかねますので、上司へ確認して参ります」

受付嬢は封筒を持って秘書室内へと入っていった。

ーーーーー。

「こちらの方です」

秘書室から出てきた受付嬢が、後から出てきた女に圭介を案内している。

「すまない、無理なことは承知しているのだが力を借り‥えっ君‥」

後から出てきた女は見覚えのある顔だった。

女が圭介の顔を見つめている。

「貴方は‥」

「驚いた、同じ会社だったとは」

「それはこちらもですーーともかくお話は伺いますので、あちらのテーブルへ」

ーーーーー。

「スポーツバース様との新規契約の件は社長から聞いて知っていますーー書類はこれでよろしいかしら」

「ーーありがとう、恩に着ます。このお礼は必ず」

圭介は名刺交換を済ませると、封筒を持って秘書室を後にした。

ーー秘書室主任 伊崎加穂里か。

交換した名刺にはそう書かれてあった。


翌日、スポーツバースとの契約は順当に進み、上司への完了報告を済ませた圭介が席に着く。

ーーーーー。

終業時間間際、圭介は秘書室のある最上階へと上がっていった。

「主任のおかげで無事に契約が取れた。本当に助かった、ありがとう」

「良かったですね、前原さん。きっと社長も喜ぶと思います」

二人は秘書室前のロビーで話をしていた。

「ーーそれでお礼と言っては何だけど、食事など奢らせてもらえませんか?」

「私は普通に仕事をしただけですから、そんな気遣いは要りませんよ」

「いや、気遣いというようなものでは‥伊崎主任がどうしてあの食堂にいたのかも興味ありましてねーーあっでも、ご迷惑なら取り下げます」

「ーーそうでしたね。私もどうして前原さんがあそこに居たのかは知りたい気がしますーーそれじゃあ、お言葉に甘えて」

「よかった。それなら都合はいつなら大丈夫そうですか?」

「そうですね‥今週なら空いていますけど」

「今週‥では金曜日はどうですか?お店も予約しておきますよ」

「そんな予約して行くようなお店じゃなくていいですよ。お話ができればそれで私は構いませんから」

「‥そう、ですか‥では当日、会社を出た足で六本木方面へぶらっと、飛び込みで行きましょうか?」

「そういう方が気軽で好きです。でしたら金曜日は十八時に下のロビーでいかがですか?」

「わかりました。では、そういう事で」


金曜日十八時、帝国商会一階ロビー。

人待ちする圭介の前に、OLスーツ姿の加穂里が現れた。

美男美女の組み合わせに退勤していく社員達の視線が集まる。

「ごめんなさい、待たせてしまって」

「大丈夫ですよ、それでは行きましょうか」

「はい」

二人はロビーを出ると、霞町交差点を六本木方面へと歩いていき、カジュアルなイタリアンレストランへ入っていった。

ワインを飲みながら、話題が契約の話から子ども食堂に変わる。

「前原さんは、あそこによく行くのですか?」

「よくではないですけど、平均すれば月二くらいかな。伊崎さんは?」

「私は不定期で‥やはり月二くらいです」

「失礼かもですが、どうしてボランティアを?」

「前原さんがそれ聞きます?ーー私、母子家庭で育ったの。それで中学校くらいまであそこでご飯食べさせて貰っていたから、ちょっとだけその時の恩返しーー前原さんこそどうして?」

「俺は営業で取引先からフードロス対策の相談をされて、不要食材の受け入れ先を探していた時に縁あって、それ以来ずっとーー俺も孤児院で飯を食わせて貰って育ったから、それなら俺にもできるかと思ったんですよ」

「なんか意外ね、そんな事しないタイプの人かと思っていたわ」

「そんな事しないって、どうしてそう思ったの?」

「女の情報網を侮らない方がいいわーー前原さんは素っ気ない人って事になっているわよ」

「素っ気ないか‥まぁ外れてはいないけど‥」

「ふふふ、そうなのねーーでも、まさかあそこで同じ会社の人に会うとは思わなかったわ」

「まったくだ」

運ばれた料理を食べ終わる頃には、二人ともフランクな感じになっていた。

いい感じの子だなーーこの子となら長く付き合えたりするのかな‥でも彼氏とか旦那とかいそうだよな。

圭介は食後に運ばれたコーヒーを口に運んだ。

まぁいいか‥試せばわかる。

圭介が会計を済ませ、二人は店を出た。

「今日はありがとう」

「こちらこそ、ご馳走様」

店入り口横の陰で二人が向き合い、見つめ合う。

いくか‥。

圭介が加穂里の肩に手を乗せ、加穂里が圭介を上目遣いに見上げる。

ーー牙が‥出ない?。

ーーえっ指‥光らない‥。

二人の体がバッと離れる。

どういうことだーー落ち着け、俺‥そうだ、今日は契約のことで、きっと疲れているんだ。ともかくここは取り繕わないと‥。

何で?今までこんな事なかったのに‥取り乱しちゃダメ‥誤魔化さなきゃ‥。

「えっと‥伊崎さん、帰りはどっち方面です?俺は西新井の方だけど」

「えぇ!私も西新井です」

「同じ?ーーあっでも、そうか‥あそこで会うってことは、そういうことですよね」

「そう言われれば、そうですよね‥」

六本木から電車に乗り、西新井に着くまで、圭介は差し障りのない話題で、終始会話が切れないよう話し続けた。

乗ってる時間がいつもの倍、長く感じる‥。

西新井に着き、二人は駅ロータリーで手を振って別れた。

ーーーーー。

その夜。

圭介は眠れなかった。

「‥‥何で牙が出なかった」

同じ頃。

加穂里は天井を見つめていた。

「どうして‥‥指、光らなかったのかな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ