第38話 地獄の実験と、国宝の工作
「その時ルシアンが言ったのだ! 『お前はもう俺のものだ。大地のように優しく華のように可憐で、大空のように自由な……俺の女神よ』となぁぁぁ!!!」
どうやらマールの冒険譚語りは朝まで続いていたらしい。
そのルシアンは一体どの次元のルシアンだろうか。
「どうだ、わかったか? 我が……何だっけ?」
「(自由なのは間違いないわね……)」
「(『里を出てはいけない』と束縛され続けた反動だろうな)」
あおりを受けたコアちゃんが不憫ではある。
「結論:うそとは……にんげんは、みえをはるいきもの……」
「コアちゃん……!」
間違ってない。その解を得られただけでも、マールの話は無駄じゃなかったようだ。
人は痛みの数だけ強くなれるのだ。
「さてコアちゃんよ、頼みがあるのだが」
「ルシアン様……」
「(あんたも鬼か。少しは休ませてあげて!)」
なんとアイリスだけでなくミラにも非難されてしまった。
「受諾:なに?」
「『絶対防御』と『環境調整魔法』などを付与した魔道具を30個ほど作りたい。深海でも活動可能にするようなものだ」
「考察:しんかいのかんきょうにたいする、りかいがふそく。マグマのうみとおなじか?」
「違うだろうな。体験してみるか」
「(えっ!? コアちゃん死んじゃわない!?)」
死ぬだろうが……そういえばちょうど魔界の倉庫に、おあつらえ向きのものがあったな。
「分体を作れるか? 精神を分割させることは?」
「否定:なにいってんだ?」
「ならば……この体にお前の精神半分ほど俺が移してやろう」
「推測:『個体名:ミラ』のからだ?」
「ああ、ごく一般的な人間の構造と強度のタイプのものだな。コアちゃんの精神を移すぞ」
「受諾:ふわぁ」
これで準備はよし。
あとは深海を再現する魔法だな。
「(ね、ねえ……? 何やってるの?)」
「(使わない体に精神を移して、深海を体験させる準備をしている)」
「(それって……体ぐちゃぐちゃになるよね!? 痛いよね!?)」
「(どうせ治る)」
「(そういう問題じゃ――それにコアちゃんが人じゃないからって無茶させようとしてるでしょ!?)」
成長とは、痛みである。
「吃驚:わたしが、めのまえにいる」
「吃驚:おおきいわたしが、めのまえにいる」
「(ふふ、きょとんとしていてかわいらしいではないか)」
「(そのかわいい子に今からすることを思うと……あんたサイコパスね)」
少しだけ目を見開いて驚いているコアちゃん。
「よし、小さいお前――本体は解析を絶やすなよ」
「受諾:おおきいわたし、きょうみぶかい」
「疑問:どうして?」
「こうするからだ」
大きいコアちゃんを包み込むように、頑健な魔力で球状の容器を作り、中を大量の水で満たす。
「ぶくぶくぶく……」
「解析:こきゅうができない。しかいもわるい」
「ああ、水中は呼吸ができないこと、日の光もどんどん届かなくなるから『環境調整』や視界確保が必要なのだ」
しかし本番はここからだ。
「あ、あのルシアン様……? 一体何を……?」
「おお、魔法の実験だな!? 我も解析してみるぞ!」
「(ああ……かわいそうな大きいコアちゃん……せっかく生まれたのに……)」
実験に犠牲はつきものである。
ということで、魔力を操作して圧力をかけてみよう。
恐らく悲惨な状況になるだろうが、圧力を増やすと同時に容器の色も暗くしていくから見えないはず。
「これが深度30メートルだな」
「ゴボッ!?」
「解析:しゅういのあつりょく、じょうしょうをかくにん」
「60メートル」
「ボゴゴッ!?」
「解析:たいないのくうき、あっしゅくをかくにん」
「100メートル」
「ゴボボボボっ!?」
「解析:たいないのいちぶのはそんをかくにん。にんげんでは、ここがげんかいと推測」
「よし、ではこのまま加速度的に強めていくぞ」
「受諾:どんどんいけ」
小さいほうのコアちゃんはノリノリである。
大きい方はわからないが……生きていることは確かだ。この俺が目の前で死ぬことなど許すはずがない。
「解析:めんたま、はそん。しかいふりょう」
「(あんたの目でしょうが!)」
「解析:けっかんのはれつをかくにん」
「あ……あわわわ……コアちゃん……!」
「解析:ないぞうのはそんをかくにん」
「ルシアンよ! 海底には魔物……巨大イカがいるのだろう!? その攻撃も実験に加えろ!」
「解析:しょうげきにより、さいぼうがこまかくなり、まざりあった。しょうげきのつよさが、そうていより……はるかにおおきい」
よし、この辺でいいだろう。
「『魂の記憶・肉体再構築』」
「驚愕:えきじょうかしたにくたいがもどっていく!?」
「え、液状化……?」
「それが本当なら……回復魔法の限度をこえているな!」
回復と言うよりは、魂の情報から肉体を再構築しているものだ
さすがに既存の回復魔法で液状化した体は治せない。精々が切断された四肢の結合くらいだ。
「……おに……」
「疑問:おおきいわたし、どうだった?」
「しねないことが……こんなにもつらいとは……」
「羨望:それは、いいけいけんをしたな」
安心しろ、その経験は本体である小さいコアちゃんのものになるぞ。
「『真魂顕現』。精神よ、再び1つに」
「(鬼)」
コアちゃんもノリノリだったし、経験を羨ましがっていたし大丈夫だろう。
「コ……コアちゃん……?」
「…………」
再び1つの体に戻ったコアちゃん。
しばらく何も反応しなかったが……ツーっと一筋の涙を流し、呟くように一言。
「……おに……」
「(サイコパス)」
「ひどいですルシアン様!」
「ルシアン……さすがにそれはあんまりだぞ?」
非難轟轟である。
しかしマールよ、お前はとどめの一撃を提案していただろう。
「さて、では早速――」
「(いい加減コアちゃんを休ませてあげてなさいよ! さすがにかわいそすぎ!」
「――俺が魔道具を作るのを見てろ」
一体何のための実験だったのかわからなくなるが……ミラに言われたら仕方がない。
「まず、魔力を超圧縮して魔石を作る。想定される圧力と防壁の維持に相当必要だがな」
「結論:わたしにそのまりょくは……よういできない」
「で、この魔石に『魔力強化・深』と邪神の攻撃にも耐えられる『絶対防御』と『環境調整』――酸素の供給は当然として、圧力を相殺する『内圧調整』と水の抵抗を調整する『比重調整』と視界を確保する『高透過視界』を普段より強く構成して、それらに加え声を共有する『音声伝達』と足元から推進力を得られるように風の――」
「(ちょっと! そんなの国宝どころじゃないでしょ!? 見ず知らずの人にあげていいものじゃないわよ! 邪神でも倒させる気!?)」
むぅ……確かに、これではまるで『お手軽誰でも邪神討伐装備』だ。
仕方がない、これらはアイリスたち用にして、強度を落としたものを用意するか。
どんなものでも自分の作る物に手を抜くのは性に合わないのだが。
「……これでいいか。水深3000メートル程度を想定した劣化版だ。数は1000もあれば十分だろう」
「驚愕:わたしのげんかいをはるかにこえている……」
「で、こっちの方はアイリスたちに。劣化版とは比べ物にならない性能だぞ」
「あ、ありがとうございます!」
アイリスたちに渡したのは、魔石をピアスとして作成した魔道具。
それを耳につけながら、コアちゃんが解析を始める。
「解析:――――――不能……」
「大体深度30000メートルでの戦闘には耐えられるだろう」
「結論:ルシアンはにんげんでも、おにでもない……かみ……?」
「そんなことはない」
俺にも苦手なものはある。そう、例えば――。
「この1000個分の魔法付与された魔石、体につけられるような装飾品にしてくれ。無から有を作るのは苦手なんだ」
「……じゃしん……だった……ぶくぶく……」
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20時10分頃
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