第36話 【悲報】聖女様、処女を捧げて童貞を奪う復讐を誓う。なお、手遅れな模様
※王国側のお話になります。視点が切り替わっておりますのでご注意ください。
ポルカ=トラム聖教国――世界で最も多く信仰されている宗教、その総本山を擁する国。
その聖女がソニプロフェン王国の王城を目にしたとき、確信が諦念に変わった。
「(あ、終わってんなこれ)」
城全体を覆う黒く濃い瘴気。煌びやかだった装飾や堅牢さを誇った王城は完全に闇に覆われ、かつての栄光は見る影もない。
国全体を漂う瘴気がある時点でほぼ確信していたが、既に自分の対処能力を大幅に超えていると、聖女ラビラビィは諦めた。
「聖女様……」
「ん……行きましょう。人々がわたくしたちの救済を待っている。少しでもお力になれればよいのですが……」
軽くウェーブのかかった長い桃色の髪をなびかせ、不安を払拭させるような笑みで付き人を励ます聖女。
「さすがは慈悲深き聖女様。この程度で尻込みしていた私が恥ずかしいです!」
「(逃げ出したいのはこっちだバカ! これで逃げない人間がいたらバカか邪神の眷属だバカ! これも全部あいつのせい……バカ!)」
付き人の女性の言葉に内心で唾を吐く聖女。
そして、自身が100年近くも聖女の座に縛り付けられる原因となった1人の男の顔を思い浮かべながら、兵士に案内されて王城へと入る。
「お待ちしておりました! 遠路はるばるようこそおいでくださいました、聖女ラビラビィ様!」
謁見の間で彼女を待っていたのは、この国の王族と、角の生えた家臣――大賢者ザイモスだった。
「お会いできて光栄ですわ(うっわ、あいつ魔人化の末期じゃん。王様にも角生えてるし。マジで終わってんな)」
誰しもが癒しと安らぎを覚える笑顔の裏で、再び唾を吐き散らす聖女。
「早速ですが……この国を覆う瘴気、それを払うために聖女様のお力をお借りしたく」
「はい、微力ながらわたくしにできることは何でもやらせていただきます(この王妃……それと王女はなぜ無事なのかしら)」
王の代わりに口を開いた王妃。王は既に喋るどころじゃないのだろうと当たりを付けた聖女は、そのことよりも王妃たちの状況に目が行った。
そして気が付く。
“あの男”の魔力が感じられるネックレスに。
「あいつ……! この国の王女様にも手を出してやがる……! 見境なしの猿野郎が!」
「へ?」
「あっやべっ」
突然の暴言ともとれる発言に、王妃やザイモスだけでなく彼女の付き人たちすら目をパチクリさせていた。
時が止まったような空気の中、付き人が持っていた聖典が床に落ち、乾いた音を立てる。
しかしただ1人だけ、全く意に介していない様子の人物がいた。
「あー、ね。ルシアンっしょ?」
「……な、なんのことでしょう?」
「いーよ隠さなくって。聖女様もルシアンに泣かされてる感じ? 私も――」
「泣かされてるぅ!? そんな甘いもんじゃねーから! 私に禁術である『不老不死』の魔法をかけやがって……おかげでこっちは100年も聖女やるはめになってんだぞ!? あのクソやろう、見つけたらただじゃおかねぇ!」
「ウケる」
「ウケるっておま――はっ!?」
時既に遅し。
誰もが――生気のなかった王までもが、信じられないと言った顔で聖女を見つめる。
「……お、おほほほほ……」
「いーよさっきの話し方で。んでさ、ぶっちゃけどうなの? この国」
「……わ、わたくしの微力を尽くし――」
「そういう建前じゃなくていいから。ハッキリ言ってよ、さっきみたいに」
今更取り繕ったところで仕方がないと、付き人の視線を感じながら聖女が王女に答える。
「無理ね」
「あー、やっぱ?」
「どうしてこの状態になるまで放っておいたの? バカでしょ。もはや聖女である私にもどうにもできないわ。それこそあのバ――ルシアン以外どうにもできないわこれ」
「そっかー」
聖女は、人々を元気づける存在である。
生気のほとんどなくなっていた王ですら、その顔に赤みを取り戻させることに成功した。怒りで、だが。
「貴様言わせておけば……ルシアン、ルシアンと……ここでもルシアンのことばかりか! あの無能男など……貴様もあの男に腰を振る売女なのだろうなぁ!」
「(よし、滅べ)」
王の言葉を聞いた瞬間、聖女の慈悲が完膚なきまでになくなった。
「王よ、その通りですな! 我が編み出しし秘技を使えばあの無能など取るに足りません!」
「おお! やはり頼りになるのはザイモス、そなただけだ!」
「(ならどうして呼んだのかしら。私を侮蔑するため? なら納得。死ね!)……失礼しますね」
どうやら聖女としての役目は終わったようだと、踵を返す聖女。
「(心残りは……罪なき民ね。そっちはどうにかしたいけど……)」
「ちょい待って、ラビちゃん」
付き人を連れて王城を後にしようとした聖女、それを呼び止めたのは王女だった。
そして彼女の横にいる王妃が深々と頭を下げながら口を開いた。
「先ほどの強い侮蔑の言葉、王に代わって謝罪申し上げます」
「……いえわたくしも口が過ぎました。今からでも民のために何かできればいいのですが……」
「それでしたら、王都の近くにある私の実家――公爵領にお越しいただけませんか? 多くの民がそこに避難しております」
「(さすがに、この状況で何もしていない訳がなかったか)ええ、もちろんですわ」
「では……私たちも準備してきます。少々お待ちください」
「(どうやらこの機に乗じて王妃と王女も逃げ出す算段をしていたらしいわね)」
逆に今までよく耐えていたものだと思いながら、それを成せた例のネックレスに――その製作者であろう男に思いを馳せる。
「(あの男、ぜってーゆるさねぇ。今度会ったら――そうだ、あいつ確か肩のマスコットの身体を取り戻すまで本番はしないと言っていたな。こうなればマスコットの前で私が奴の童貞を奪ってやる。そうだ、それがいい。血をダラダラ流しながら泣き叫ぶ顔が目に浮かぶぜ……私の血だがな。しかしあいつが許しを請うなら……優しく抱かれてやっても――)」
聖女は知らなかった。
ルシアンがとっくに童貞じゃないどころか、この国の王女とも既に本番をしていたことに。
「ラビちゃん、どった? 顔赤くして」
「べっ! 別に!? 少し感情的になってしまって……おほほほ!(――クソガキの初めてを、この私が蹂躙してやるのよ!)」」
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