↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死なない男は生きる意味を知らない 〜猫獣人の少女と始まる旅〜  作者: 三島 勝仁
第二章 アイルとルル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/35

「ただいま」


「——お前ぇら、なんかあったか?」


 馬車の中の雰囲気に、違和感を覚えたロックが唐突に3人へ水を向ける。


「「……。」」


「何もないが」


 ヴェルはそう言ってのけるが、セシルは膝の上に乗せたナマケモノを抱きしめたまま、言葉に詰まる。

 レイも視線を逸らして押し黙ったままだ。

 ロックは、面倒ごとの空気を察してため息をこぼす。

 ひと足先に戻ってきたレイから、依頼の状況については報告を受けている。

 移動手段がなくなったため、ロックが迎えにきたのだが、他の者を向かわせた方が良かったかもしれないと後悔する。


「ヴェルはともかく、お前ら2人に関しちゃ別に相性は悪くねぇと思ってたんだが、見込み違いだったか」


「……いえ、そんなことは」


「ありませんって顔じゃぁねぇな」


 言い返すと、セシルは俯いてしまう。

 ダメ元でヴェルの方へ視線を向けるが、無言の視線が返ってくるのみだ。

 案の定だが、こいつは何も分かってない。空気の悪さすら察していない。


「——おい、レイ」


「はい」


 ロックは顎をしゃくると、レイはそれだけで意図を察したようで、動き続ける馬車からひょいと飛び降り、後続の馬車へと移動する。

 レイは去り際にセシルへ視線を落としていったが、何も言わぬままその場を後にした。


「さてと、街まではまだかかる。お前さんもこのまま帰ったら、飯がまずいだろ。何があったか言ってみろ。先達として話くらいは聞いてやる」


「何が、と言われても……」


 セシルが言い淀むと、俯きながらちらりとヴェルの方へ視線を向ける。


 (やっぱりこいつが原因か)


 まぁ予想はしていた。

 ヴェルと一緒にいれば、嫌でも倫理観だの、生死観だのというものを考えさせられる。

 セシルに関しても、そのあたりのことが気に掛かっているのだろう。


「セシルの嬢ちゃんは、パーティを組んだことはあるのか?」


「いえ、ありませんけど、旅暮らしでしたから」


「そうか、なら前回のダンジョンや今回の依頼も新鮮だったろう」


 セシルはこくりと頷くと続きを促す。


「パーティってのは、互いに足りねぇところを補い合うもんだ。気楽な一人旅とは違って、他人の仕事にケチをつけたくなる時もある」


「ケチをつけるだなんて、そんな」


「自分の仕事の精度について、周りへ罪悪感を抱くのも同じことだ」


 ロックの言葉を聞いて、セシルは自らの手のひらを見つめている。

 何か思うところがあるようだが、いくらロックが洞察力に優れていても、心のうちまでは見通せない。


「まぁ、今回の依頼において、嬢ちゃんの役割は、目と耳と鼻だ。対してこいつはお前さんらの守護、つまりは盾だ。——その点に関しちゃ、お前さんらは各々役割を果たしたと思うんだがな」


「でも……ヴェルさんは死にました。私を庇って、目の前で」


「そうらしいな」


 セシルが気落ちしている原因は、やはりそこにあるようだ。

 おそらく、レイともその辺りの話をしたのだろう。

 レイはロックが拾ってきた孤児であり、ロックの影響を過分に受けている。

 今口を開けば、ロックはレイと同じことを言うだろう。

 ゆえに同じ轍は踏まない。


「俺は…………」


 ヴェルが何か口を挟もうとしたようだが、それ以上言葉は出てこなかった。

 またも空気を読まない発言が飛び出すかと思ったが、何かを思い起こすようにヴェルは目を閉じてしまった。

 いつもとは違うヴェルの様子に、ロックは目を細めつつ、話の落とし所を探る。


「まぁ、こいつは死ぬことが仕事みてぇなもんだからな」

 

 ロックの言葉を受け、セシルの表情に影が差す。


 「だが、死なずに済むんならそれに越したことはねぇんだ。——だから、嬢ちゃんがよく見ててやってくれ」


「私に……何ができるでしょうか」


「さぁな、それは嬢ちゃん次第だ」


 ロックはニヤリと口の端を上げると、肩をすくめておどけてみせる。

 実際、ヴェルを見た者の反応としては、レイやロックの方が多数派なのだ。

 セシルやルークのように、友愛のような感情を向ける人間の方が稀だ。

 ロックがセシルに期待しているのも、実のところはヴェルの人間性への刺激だ。

 今回の件は多少のわだかまりはあれど、これで良かったのかもしれない。


「まぁ、帰ったらまた飯でも食いに行くか、店に残したあいつらも、ずいぶんとおもしれーことしてたみたいだしな」


「アイルたちが?——何かあったんですか?」


「そりゃ本人らに聞いてみたらいい。——それよりも、報告では聞いてたが、ナマケモノたぁ珍しいもん捕まえたな」


 ロックはセシルの膝の上の獣を指差して、興味深く観察する。


「あ、はい!探索の途中で見つけたんです。連れてきたらまずかったでしょうか?」


「いや、いんじゃねぇか。魔物ってわけじゃねぇからな。嬢ちゃんにも懐いてるみてーだしな」


 ロックの言葉に呼応するように、ナマケモノはか細く鳴き声を上げる。


 先ほどまで、人形のように微動だにしなかったのに、こちらの言葉を理解しているかのような仕草だ。

 セシルは薄く笑みを浮かべて、ナマケモノを抱きしめる。


「名前、考えてあげないとですね」


「俺は知らんぞ、お前が拾ってきたのだ。——セシル、お前が決めろ」


 会話に割って入ったヴェルの言葉に、セシルは驚いたような表情の後、笑みを深めた。


「一緒に考えてくれてもいいんですよ?」


「俺はいい。お守りは、あれだけで十分だ」


「アイル、きっと寂しがっていますね。早く、会いたいです」



 ——————



 陽が傾き、影が細く伸びゆく頃、セシルたちはフォンティアの街に帰還した。


 (やっと帰ってきた)


 まだこの街に居着いて、数ヶ月しか経っていないのに、帰ってきたという実感が強いのは、待っててくれる人がいるからか。

 セシルは馬車の外を流れる景色に、ほっと胸を撫で下ろす。

 街の門を通り過ぎると、屋台や飯屋が次々と灯りを灯して、活気付いていく。

 肉や魚の焼ける匂いが鼻腔をくすぐる。


「ねぇ、ヴェルさん」


「なんだ」


「よければ、お夕飯の買い出しをして帰りたいのですが」


「俺はかまわんが」


 セシルの言葉にヴェルはちらりとロックを見やる。


「あ?別にいいけどよ、わざわざ自分で作らなくても、どっかに食いに行きゃいいじゃねぇか」


 ロックの言い分はもっともだ。

 馬車での長距離の移動で、皆疲れている。


「でも、できれば今日はおうちでアイルたちと一緒に食べたいと思いまして」

 

「そうかい。なら広場で降ろしてやる」


「ありがとうございます!」


 当初の予定よりも依頼が長引いてしまったため、やっと家に帰れると思うと、不思議な活力が湧いてくる。

 家……などと、住み込みの従業員の分際でおこがましいとは思うが、ヴェルはきっとそんなことは気にしないだろう。


「今日はヴェルさんの分も、お夕飯作ってもいいですか?」


「俺の……?はぁ、好きにしろ」


 返答にため息が混じっていたが、許可は出た。

 今日こそは食べてもらおう。

 できるだけ薄味にして、具も細かく刻んで食べやすいように……。

 などと考えていると、好き嫌いの激しい子供のために献立を考えているような気分になり、顔が綻ぶ。

 そして、不思議そうにこちらを向いたヴェルと目が合い、可笑しくて笑ってしまう。

 急に笑いだすセシルに僅かに眉を寄せながら、ヴェルはまた小さくため息を吐いた。


 その後、両手一杯に食材を買い込んで家に戻ると、何やら家の前に人だかりができていた。


「ん……?何かあったのでしょうか?」


 ヴェルの何でも屋に、人が押し寄せることなど今までなかった。

 何か事件でもあったのかと思ったが、集まった人々は皆笑顔で店の方を見ている。


「あー!!帰ってきた!おーいヴェルー!セシルちゃーん!」


 人だかりの奥でルークが、まるで飼い主を見つけた犬のようにぶんぶんと手を振っている。

 セシルたちが不思議そうに歩いていくと、人ごみが割れて、その全容が明らかになる。


 セシルは目を見張った。

 

 そこには、大小様々な、そして色とりどりの花があたり一面に美しく咲き誇っていた。

 店の壁にも蔦が伸び、綺麗な花々で埋め尽くされている。

 夕暮れに照らされたそれらは、見る者全てを惹きつける。


「これは、一体……?」


 セシルは目の前の光景に、呼吸を忘れ、しばし呆然となる。


「せしうー!!」


 立ち尽くすセシルに向かって、アイルが走ってくる。


「あ、アイル!?」


 セシルは胸に飛び込むアイルを抱きしめる。

 アイルはセシルを見上げて、顔いっぱいに笑顔を浮かべる。


「お、か——いり!」


「……っ!はい!ただいま……ただいま帰りましたよ。アイル」


「ヴェルもおかえり!無事に帰ってきてくれてよかったよ」


 ルークはヴェルの方をぽんぽんと叩く。

 

「ああ、——だが、これはなんだ?」


「うん……ヴェルたちが今日帰ってくるって言ってたから、店の周りを飾りつけようとしたんだけど……」


 ルークは視線を逸らしながらそう言うと、耳の後ろをぽりぽりと掻く。


「ちょっとやりすぎちゃったね!」


 ぺろっと舌を出し、反省などまるでしていないルークを無視して、その肩に座るルルへ視線を向ける。

 

「別にいいでしょ、花くらい。——それより、その猿なに?お土産?……あんまり美味しくなさそうだけど」


「食べはしない、あいつが拾ってきた」


 ルルはふーんと適当な相槌を打つと、もう興味を失ったようで、アイルの元へ飛び去って行く。


「……アイル?どうしたのですか?」


 ヴェルが振り向くと、アイルは何やらセシルの前でもじもじとまごついている。


「セシルちゃん、目を瞑ってくれる?」

 

 ルークの言葉にセシルは不思議そうにしながらも目を閉じる。

 そしてアイルは意を決した表情で、後ろ手に持っていたそれをセシルの頭の上に乗せる。


 セシルが目を開けると、アイルがニコニコと笑いながら花冠をかぶっている。

 そして頭の上の僅かな重みもおそらくは……。

 セシルはアイルを抱き上げ、窓に映った自分を見る。

 とても綺麗な花が、セシルの頭の上に咲いていた。

 流れそうになる涙を必死に堪えながら、アイルをギュッと抱きしめる。


「ありがとうございます……アイル、とっても綺麗です」


 セシルはアイルを抱きしめたまま、もう一度窓へ目を向ける。


 夕暮れの光を受けた花冠が、淡い色に輝いている。


 窓の向こうでは、ルークが何やらルルに怒鳴られ、ヴェルがそれを鬱陶しそうに眺めていた。


 いつもと変わらない。

 きっと、明日も変わらない。

 そう思えることが、こんなにも嬉しい。


 セシルは胸の中に込み上げたものをそっと飲み込み、アイルの頭を優しく撫でた。


「……ただいま」


 その言葉は、今度こそ自然に口からこぼれた。

 夕暮れの風が、色とりどりの花を揺らしていた。


 

第二章はここで終わりです。

第一章に続きここまで読んでいただきありがとうございます。


更新が不定期で申し訳ありません。

この作品は、私が小説家になろう様に初めて投稿させていただく作品となります。

そのため、何があってもどんな結末であっても、必ず完結させてあげたいと思っております。

誤字脱字など、読みづらい点はそのつど修正いたします。

皆様に楽しく読んでいただけるよう、これからも頑張って書いて参ります。


いただけるのならどんな感想でも構いません。

励みになります。

皆様のお力で拙い私にご教示ください。

よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。