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第28話 『平和の都』


 西の国は平和だった。

 どの街に行っても争いというものが存在していなかった。

 今まで色んな国を歩いてきたが、ここまで平和な国は初めてだ。

 なんの危なげもなく王都へ辿り着いた。


 宿を見つけて部屋で一息つく。

 窓から王都の景色を眺めていたエメリが呟く。


「こんなに平和なのに終焉の魔王が支配しているの?」

「分かんないっすよー。こういうのって表に出ないところでヤバいことしてるのが定番なんすから」

「シーフの言い分も一理ある。とりあえず情報収集をするぞ」

「差し迫った危機もないから、ちょっとは観光してもいいんじゃないかな?」


 賢者がそう提案する。

 賛同するようにエメリとシーフも頷く。


「確かにそうだな。好きなようにしてくれていい」

「やった!」

「やりぃ!」


 エメリとシーフが楽しそうに部屋を後にする。

 その様子を賢者が微笑ましく見送る。


「あの二人は仲良いね」

「互いに変わり者で歳も近いからな」

「それ聞いたら二人とも怒るよ」

「だからいないところで言っているんだ」


 俺と賢者はしばらく談笑をしてから、各々外へ出た。



×××



 しばらく街を散策した俺は、ベンチに腰掛けて酒を嗜んでいた。

 近くには木があり、いい具合で木洩れ日がベンチに射し込む。

 陽気も良く、吹く風が心地良い。


「………………」


 こんなにも落ち着いた気持ちになったのは何年振りだろうか。

 思い返してみれば、ここ数年はずっと何かに追われていた。

 使命だったり、敵だったり、悪意だったり。

 だが、今この瞬間だけは何もない。


 俺は酒を飲んで息を吐く。

 冷静になった思考で、集めた情報を精査する。

 と言っても情報は一つしかない。


「終焉の魔王はいない」


 終焉の魔王が西の国を支配していたのは数十年前の話らしい。

 それ以降、これといった脅威もなく西の国は今日まで平和を築いてきたという。


 これはどういうことだ?

 エメリの記憶だと、魔王は終焉の魔王に会うために西の国へ向かった。

 だとしたら、魔王も西の国でこの事実を知ったのか?


 どちらにしろ終焉の魔王が存在しないとなると問題だ。

 魔王への手がかりがなくなる。

 ここで行き止まりなのか?

 俺は未だに魔王のことを、君の名前すら知らないというのに。


「隣いいかの?」


 頭を抱えて悩んでいると声をかけられた。

 顔を上げると、穏やかそうな表情を浮かべる爺さんが目の前に立っていた。


「ああ」

「感謝するぞ、若いの」


 そう言って、爺さんは隣に座る。

 しばらく経ってから、爺さんが話しかけてきた。


「お前さん、この国の者じゃないの?」

「ああ、旅の途中で立ち寄った」

「どうじゃ、この国は?」


 俺は酒をひと飲みして答えた。


「良い国だ。色んな国に行ったが、こんなに平和な国は初めてだ」

「多分、ここより平和な国はありゃせんよ」


 爺さんはカラコロと笑う。

 だが、次の瞬間に衝撃的な発言をした。


「なんせ、勇者と魔王が同じベンチに座って話ができるからの」

「なにっ!?」

「良い反応じゃ、それが見たかった」


 コイツが終焉の魔王だと?

 信じられん。

 今、こうして対峙しているのにコイツからは敵意が一つも感じない。


「本当にお前が終焉の魔王なのか?」

「紛れもなく儂が終焉の魔王じゃ」

「だが、街では数十年前に滅びたと聞いたが」


 終焉の魔王は仙人のように伸びた髭を触りながら、あっけらかんと言う。


「それは儂が流布した噂じゃよ。儂は魔王として振る舞う気は無かったからの。死んだことにすれば誰も挑んではこんじゃろ?」


 それは一理ある。


「では、なぜ俺には正体を明かした? そもそも、なぜ俺が勇者と分かった?」

「質問の多い奴じゃの。お前さんが勇者だと分かったのはちとした反則技じゃ。正体を明かしたのは、儂があの娘の企みに賛同したからじゃ」

「魔王の」

「そうじゃ。しかし、お前さんに伝えるのはまだ早いの」


 終焉の魔王は俺を見て言う。

 その瞳の奥に宿っているソレはとても一般人とは違った。

 そこでようやく、俺は目の前にいる爺さんが終焉の魔王と確信した。


「それはどういうことだ?」

「お前さんはこの世の仕組みを全く理解しておらん。入口すら知らんでどうやってダンジョンに入るんじゃ」

「待ってくれ、言っている意味が分からない」


 終焉の魔王は「だろうな」と呟き、


「お前さんが勇者になった時から、ずっと側におった奴が全て知っておるよ」

「────っ」

「知るべきことを理解したら、儂のところに来るといい。儂はこの先にある孤児院におるぞ」


 終焉の魔王はそれだけ言い残して立ち去った。

 杖をついて歩く後ろ姿はただの老人にしか見えない。



 俺は何もできずにしばらくそこから動けなかった。



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