69 これだからアサシンは嫌いなんだ
前回のあらすじ
アニスは他の《聖痕の騎士団》と違ってシドと戦うつもりはなく、見逃して欲しいと懇願する。
シドはリンに危害を加えなかったことでアニスを信用し、その提案を受け入れるのだが、油断した所で牙を剥いたアニスがシドの腕を切り刻んだのであった。
「リンリンちゃんのいう通りっス。お兄さんって本当――優しすぎるっスね」
『シド――備えよ!』
エカルラートが警告する。
しかしアサシンが繰り出すスピードは、俺の反応速度を遥かに上回る。
俺は咄嗟にヴァナルガンドから、振りの早い短剣を取り出して、無傷の左腕で振りかぶる。
――スカッ!
短剣は空を切る。
既にアニスは俺の視界から消えていた。
「(クソッ! どこいった!?)」
――ザクッ!
「がッ!?」
――上か!
上空から飛来したアニスが、俺の脳天にナイフを刺す。
頭蓋に深々と突き刺さる短剣――不死でなければ今ので即死だった!
「このガキッ!」
後ろ手にアニスの法衣を掴む。
そのまま地面に叩き付けようとするも、振りかざす最中に腕の重みが消失する。
地面に叩き付けたのは、アニスが羽織っていた白い法衣のみだった。
『アサシンの回避スキル、【空蝉】じゃ!』
「小癪な技を!」
「こっちっスよ」
「ッ!?」
背後から囁くアニスの声。
同時に両足首に走る鋭い痛み。
足から力が抜け、膝から地面にくずおれる。
「(足首の筋をやられたッ!?)」
ダメだ。
さっきからアニスの姿を追うことが出来ない。
カイネとの戦いで精神的な疲弊が残っているのも原因だが、完全に油断させてからの不意打ちラッシュ。
かつて【緋宵月】で仕留めそこなったルゥルゥと言い、これだからアサシンと戦うのは嫌なんだ!
「シド! 捉えたぞッ!」
「にゃッ!? 影の中から腕がッ!?」
俺の影から腕だけを出したエカルラートが、アニスの足首を掴む。
法衣を脱いだアニスはほぼ下着のようなシャツと短パン姿。
素肌を掴まれているので、さっきの【空蝉】という回避スキルは使えないだろう。
「でかしたエカルラート!」
俺の現在の負傷箇所は、細切れにされた右腕。
短剣が突き刺さった頭蓋。
切断された両足首の筋。
不死の再生能力を足首に集中させる。
右腕と脳天は後回しだ。
「おらああああッッ!!」
ミノタウロスの斧のみを召喚し――左腕だけで振りかざす。
レベル103――筋力値360の俺にとって、戦斧を片腕で振り回すことは苦ではない。
――斬ッ!
アサシンはスピードこそ特筆しているものも、防御力やHPは低く、動きさえ止めてしまえば一撃で葬ることが出来る。
アニスの細い胴は真っ二つに両断され、上半身が地面に落ちる。
――アニス HP0/580
「……?」
しかし――違和感。
上半身と下半身が分かれた少女の断面からは、血が一切流れない。
――ボンッ!
「消えたッ!?」
直後――アニスの死体が白い煙と共に消失した。
「どこだ!?」
右腕の傷が全快したのを確認してから、脳天に突き刺さったままの短剣を引っこ抜く。
そして周囲を警戒し、来るアニスの襲撃に備える。
「いやー、やっぱ強いっスねェ」
「そこかッ!」
背後の木の上から、アニスが話しかけてくる。
さっきまで脳天に突き刺さっていた短剣を投擲するも――アニスは片腕でそれをキャッチした。
「油断を誘ってからの不意打でも3発が限界っスか。不死相手じゃそれも数秒で全回復されちゃうし、やっぱりウチじゃシドお兄さんを倒すのは無理っスね」
木の枝の上に立つ少女には、戦斧で叩き斬ったはずのダメージが見受けられない。
【空蝉】で脱衣したはずの法衣も、汚れ1つなく羽織っている。
まるで狐につままれた気分だ。
確かにHPが0になったのを確認したはずなのに……。
名前:アニス・レッドビー
クラス:アサシン
レベル:61
HP:1060/1060
MP:430/860
筋力:164
防御:128
速力:354
器用:310
魔力:140
運値:182
再度ステータスをチェックすると、どうしたことか、最初に見たステータスより数値が増えている。
『なるほどな……予め【分身】を使っておったな――一時的にステータスを半分にする代わりに、実態を持った分身を作り出すアサシンクラスのスキルじゃ』
「(つまり俺は、レベル差が約50も下で、かつステータス半分の奴にこれだけ翻弄させられたって事かよ)」
『あの身のこなしはステータス補正ではなく、小娘本来の身体能力――ルゥルゥと同じで、10代とは思えんまでに鍛え込まれた肉体を有しておるぞ』
面倒くさがりで信仰心も薄いガキだと舐めていたが、腐っても《聖痕の騎士団》――あのふざけた態度も全ては俺を油断させる布石ってことか。
「んで、どうすんだ? この通り俺はノーダメージだ。お前はスキルを連発したみたいでMPを随分消耗してるようだが、MPポーションでも飲んで仕切り直しか?」
「いえ――もう結構っス」
アニスは木の上で腕を正面に向けて〝待った〟のポーズを取る。
「不意打ちで倒しきれなかった以上、ウチが勝てる見込みは0っス。死にたくないというのは本当っスからねェ――まぁ、こんだけ奮闘すればヨハンナばあちゃんも許してくれるっスよね?」
アニスは両指を組み合わせ手印を作る。
「それではシドお兄さん、約束通りウチはこれで退散するっスよ」
「どう見ても約束通りじゃねェだろうが!」
「――これにてドロンっス!」
アニスの身体は煙に包まれ――煙が晴れた時には赤毛の少女の姿はどこにもなかった。
念のため1分ほど警戒を続けた後、奇襲が来ないのを確認してから構えを解いた。
「エカルラート、最後のもスキルか?」
『アサシンの逃走用スキル――【土遁】じゃな。土煙を巻き上げ後方へ瞬間移動するスキルよ。どうやら本当に逃げたようじゃな』
「ちッ――あれだけコケにされたんだ。実質負けたようなモンだ」
カイネとの戦いも相打ちとはいえ、敗北感に打ちひしがれたことに変わりはない。
2連敗の屈辱で虫の居所が悪くなる。
やはり――もう1度、本格的な修行をする必要があるかもしれねェな。
頭をガリガリと掻きむしりながら、隠れ家のログハウスに戻る。
「おかえりなさいませ、ご主人様。あの……アニス様は?」
俺の言いつけ通り家の中にいたリンは、アニスと戦闘があったことなど知らない様子。
面倒臭がって窓を作らなくてよかった。
「ああ、もう日暮れだし帰ったよ。森から出る道を教えて欲しいっていうから、途中まで送り届けてたんだ」
「そうだったのですね! ああ、しかしご主人様……家を守る役目を仰せつかっていながら、勝手にお客様をあげてしまい申し訳ございませんでした」
「気にするな」
しょんぼりと、怒られるのではないかと項垂れるリンの頭をそっと撫でる。
ああ――本当、自分を叱りつけてやりたいくらい、俺はリンに甘すぎる。
「またリンに会いたいって言ってたぞ」
「本当ですか! えへへ、また、お会いできる機会があればいいのですが」
アニスは森の中で道に迷ったという嘘でリンに取り入った。
だが王都で悪漢に襲われていたリンを助けたというのは事実だし、リンは同年代かつ同性の友人が出来たことを喜んでいる。
そんなリンの夢を壊したくなくて――俺もまた、嘘をついた。
アニスは確かに影霊術師の抹殺を掲げる《聖痕の騎士団》だが、リンに抱いている好意は嘘ではないと――リンの初めての友人のことを信じたかったから。
「(いやでもあいつリンのこと性的な目で見てるかもしれねェからな……やっぱ次会ったら殺すわ)」
前言撤回。
《聖痕の騎士団》に更なる恨みを募らせながら、嘘つきレズ赤毛を必ず殺すことを誓うのであった。
現在の《聖痕の騎士団》の加入順と年齢は、
1番目《聖痕之壱》オズワルド70歳(故)。
2番目《聖痕之弐》ヨハンナ70歳。
3番目は同時期に《聖痕之肆》《伍》カイネ&セルヴァ。共に37歳。
4番目《聖痕之参》シーナ25歳。
5番目《聖痕之陸》アニス17歳。
6番目《聖痕之漆》フローレンス12歳。
となってます。
シーナはカイネ、セルヴァより世代が0,5程下ですが、序列は上です。強いので。




