25 聖者――オズワルド・ワイデンライヒ
前回のあらすじ
S級ダンジョン【緋宵月】へ足を運んだシドは、鉢合わせした聖教会に先を越されないように最奥部を目指すのだが、道中魔物に襲われているシスターの少女――フローレンス・キューティクルと遭遇する。
「ダンジョンの最奥部にいらっしゃるであろう、聖オズワルド・ワイデンライヒ様の捜索。及び、オズワルド様が装備している聖遺物の回収です」
「オズワルド・ワイデンライヒ……?」
『聖教会の最高幹部――枢機卿団の1人にして、《聖痕の騎士団》のトップの名前じゃな。更には存命の内に聖者認定された傑物よ』
「(枢機卿団に《聖痕の騎士団》?)」
教養のない俺に専門用語を多用されても困る。
賢眼の吸血姫の二つ名を体現するかのように、影の中のエカルラートが捜索者の解説を始めた。
『枢機卿団とはつまる所、教皇の次に偉い身分の聖職者じゃな。《聖痕の騎士団》は聖騎士の中でも特殊な立ち位置で、全7名からなる魔物討伐を主目的とする少数精鋭の独立戦闘部隊のことじゃ』
枢機卿――最高幹部。
《聖痕の騎士団》――聖騎士の中でもずば抜けた戦闘のプロフェッショナル集団。
って感じか?
組織の中核にいつつも、自ら前線に立ち魔物退治もする身分ってことか。
相当な大物の名前が出たな。
『聖教会の最強戦力でもあり、妾はあのジジイに殺されておる。ま――相打ちじゃったがのゥ』
エカルラートと邂逅した時のことを思い出す。
ダンジョンの最奥部――古い神殿のような玄室――中央には胸を杭で貫かれ大量の血を水溜まりのように流していたエカルラートの死体。
そして壁にもたれかかるように、白髪の老爺の死体があったのを思い出す。
あの老爺がオズワルド・ワイデンライヒか!
「(聖教会もS級ダンジョン攻略を目論んでおり、エカルラートに対して最高戦力をぶつけるも相打ち。聖教会は帰りの遅いオズワルドを捜索するためにS級ダンジョン【緋宵月】に乗り込んだ――って事か)」
にしても、単騎でエカルラートと相打ちってどんなバケモノだ……?
不死の肉体を持つエカルラートをどうやって殺すのか想像できない。
『厄介な聖遺物のせいじゃ。あれで妾の不死性を無力化され、急所を貫かれてしもうた』
「(バチバチのメタ装備のハメ技にやられたってことか)」
相打ちとなり無人となった最奥部に俺が迷い込み、俺は始祖の吸血鬼の血を飲み不死の肉体を得て【影霊術師】に覚醒。
エカルラートにかけた【死霊操術】が奇跡的な確率で成功して今に至るという訳か……。
シカイ族を嫌う聖教会の行動が、巡り巡ってシカイ族を覚醒させてしまうとは、世の中どうなるか分からないものだ。
「あの……どうかなさいましたか?」
「いや、何でもない。有名人の名前が出たんで驚いていた」
――本当は今初めて知ったんだけど。
頭の中で念じながらエカルラートと会話していると、シスターの少女が心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
背丈がかなり離れているので、上目遣いになっていた。
「それじゃ、お前はまず仲間と合流するのが先決だな。上の階層へ続く階段まで送り届けてやる。ダンジョンの魔物は滅多なことがなければ階層を移動しない。階段で救援を待て。俺が出来るのはここまでだ」
「待ってください! その、あなたの目的は最奥部へ行くこと、ですよね?」
「そうだが」
「それは困ります!」
もし俺がオズワルドの死体から聖遺物を盗み取れば、聖教会からすれば相当な痛手になるだろうし、オズワルドが死んでいることが露見するのも聖教会からすれば都合が悪く、隠しておきたい事なのだろう。
「俺はそのオズワルドという奴の死体にも、聖遺物にも手を出さない。そしてこのことは誰にも口外しないと約束する。それで満足か?」
「いえ、わ、私も最奥部へ連れていってください!」
「なに……?」
俺の言葉は信用できないらしい。
それもそうか。
馬車で一度顔を合わせただけの他人との口約束が信用出来るはずもない。
だが――まだ下っ端で年端もいかない子供であるにも関わらず、自分の身の安全よりも組織の目的を達成するために動く少女の勇気は――嫌いじゃない。
「分かったよ……それじゃあ一緒に行こう――あんたはそこで上司の死体と聖遺物の回収すればいい。俺は俺で目的を果たす、いいな?」
「は、はい! わかりました! ありがとうございます!」
善は急げと、俺は最奥部へ向けて歩を進める。
「あ、あのっ!」
「ん? なんだ……?」
「そ、その……お名前をまだ、聞いていなくて……私はフローレンス・キューティクルと申します。長いのでフロウ――とお呼び下さると幸いです」
「俺はシド。シカイ族のシド・ラノルス」
「シド……ラノルス……ラノルス氏族の……」
「どうかしたか?」
「な、なんでもありません! よろしくお願いします、シド様!」
「ああ、そんじゃ行くか――フロウ」
少女の名前を呼ぶ。
するとシスターの少女――いや、フロウは嬉しそうにはにかんで、「はいっ!」と大きな声で返事をした。
人懐っこく人を疑うことを知らない世間知らずで、それでいて芯が一本通っている――不思議な少女だ。
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