101 泥臭さだけは負けるつもりはねェ
現在の戦況。
【シドの残存戦力】
・左陣側
ビショップ――ウィンディーネ。
・中央部
クイーン――ヴァナルガンド。
・右陣側
ルーク――ミノタウロス。
ナイト――ゴブリンロード。
ビショップ――グリフォン。
【ソブラの残存戦力】
・左陣側(シドから見て)
ルーク――オーガ。
・中央部
クイーン――。
ビショップ――悪魔神官バロム。
ビショップ――フレイヤ。
ナイト――ルゥルゥ。
・右陣側(シドから見て)
ルーク――メタルゴーレム。
「(左陣戦場はこっちの負けか……)」
最後に俺から見た右陣側の戦場を確認する。
こちらは唯一、俺の陣営が有利に事を運んでいた。
俺の右陣側の大駒はミノタウロスとゴブリンロードとグリフォンの3体。
唯一空中を自在に移動できるグリフォンを後衛に、脳筋戦闘タイプのミノタウロスとゴブリンロードを前衛に置いたコンビネーションは良く、既に小駒を全滅させている。
更に残った右陣戦場の敵大駒はルーク《メタルゴーレム》のみ。
ソブラにとっても左陣営の大駒――ナイトとビショップを俺の足止めに使ってしまっているので戦力が少ないのだ。
このままメタルゴーレムを倒せれば、俺は大駒3体を所持したままソブラの本陣を攻め込むことが出来る。
「バロム――オーガを転送しろ」
『ギャウッ!』
――が、現実は甘くない。
『ゴラアアアアッッ!!!!』
『キェ――――!?!?』
オーガと戦闘中のウィンディーネはいつの間にか消滅していた。
右陣側の戦力を殲滅したオーガは、悪魔神官バロムの転送魔法により、グリフォンの頭上に出現。
グリフォンの左右の翼に2本の巨剣が突き刺さり、甲高い悲鳴を上げながら地面に墜落した。
『ゴラアアアアッッ!!』
オーガの巨剣はグリフォンの翼ごと地面に突き刺さり、グリフォンを磔にする。
そのまま得物から手を離し、祈るように両指を組むと――頭上に振り上げ、まるでハンマーのようにグリフォンの頭部に叩き付ける!
――轟! 轟! 轟ッ!!
数度の打撃でグリフォンの嘴は折れ、グリフォンの肉体は影の塵となって無散する。
――グリフォン HP0【消滅】
『ゴオオオオオオオオ!!』
『グギャッ!?』
更にオーガの救援とタイミングを合わせたように、メタルゴーレムの鋼の拳が、ゴブリンロードを殴りつけた。
蜘蛛の巣のような亀裂が出来た地面にめり込み、次いでメタルゴーレムの鋼鉄の足による踏みつけ攻撃によって消滅した。
――ゴブリンロード HP0【消滅】
「(ちッ……まずい……まずすぎる)」
俺の残った大駒はクイーンと《ミノタウロス》のみ。
対するソブラ陣営はルーク2体、ビショップ2体、クイーン、ナイト。
2対6――誰がどう見ても勝敗は明らかだ。
右陣側のルゥルゥとフレイヤで俺を足止めし、残った防御力特化型のメタルゴーレムで時間を稼ぎ、左陣側の救援を待つ作戦――まんまとソブラの手のひらの上だったということか。
『どうするシド? 敗北条件は影霊の全滅――ヴァナルガンドは影霊ではないため、ミノタウロスが負ければ妾達の負けじゃぞ?」
「(だが――まだ勝負は終わってねェ!)」
影霊術師としての経験、影霊の質、兵法――全てに置いてソブラは俺よりも上だ。
認めざるを得ない。
だがよ――泥臭さだけは負けるつもりはねェ。
いつだって俺は、地を這いつくばっても何度でも立ち上がって、生き延びてきた。
そのマインドは――影霊にも受け継がれているはずだろ……!
「ミノタウロス! 何が何でも生き残れ! お前が最後の砦だ! テメェは俺が手にした最初の影霊――テメェの強さはダンジョンで鬼ごっこした俺が一番よく知ってる!」
『ブ――ブルガアアアアアッッッッ!!!!』
ミノタウロスは奮起し、メタルゴーレムとオーガの攻撃を同時に捌く。
「ヴァナルガンド! いつまで寝ている! いい加減起きろ! テメェの力はそんなもんじゃねェだろうが! 今お前の腹の中には、毎日お前のバカデケェ身体をブラッシングしてくれてるリンがいんだぞ! 恰好悪い姿晒してんじゃねェ!」
『ワ――ワオオオオオオオオンッッッッ!!!!』
リンの名前を出したのが効いたのか、ヴァナルガンドは遠吠えを上げる。
尻尾を伸ばして巻きついているククルカンの胴の間にねじ込むと、尻尾の力だけでククルカンの締め付けを解いていく。
「なに……ッ!?」
勝利を確信していたソブラが、初めて余裕の表情を崩した。
「ヴァナルガンド、やられたらやりかえせ……!」
『ワオオオオオオオオンッ!!』
上下が逆転する。
ククルカンの拘束から脱出したヴァナルガンドは、ククルカンを押し倒し、喉奥から大量の丸太を吐き出し、ククルカンの口にねじ込んでいく!
以前ゴブリンの森でログハウスを作る際、気合入れて伐採しすぎて余った丸太だ。
ククルカンは鋼の刃を創造しようとするも、丸太の物量に押しつぶされる。
おまけとばかりに――旅の道中で街道を塞いでいた際に回収した巨岩もククルカンにねじ込む。
大蛇の胴が、破裂しそうなまで膨れ上がる。
ヴァナルガンドが体内に溜め込んだ物質はこんなもんじゃねぇぞ。
「まずいな。バロム――ククルカンをアジトまで転送しろ」
『ギャウッ!』
玉座の脇に控える悪魔神官バロムが魔法陣を展開すると、白い大蛇は姿を消す。
「影霊で言うところの消滅扱いってことでいいんだよな?」
『ワオオオオオオオオンッ!!』
見事同格の《五大魔公》に勝利したヴァナルガンドは勝鬨の雄叫びをあげた。
「よくやったヴァナルガンド! フレイヤを殺せ!」
『ワオンッ!』
ヴァナルガンドは闇色に染まった地面にダイブして姿を消すと、右陣戦場のビショップの足元とゲートを繋げる。
水面下のワニが、獲物を喰い殺すように、強靭な顎がフレイヤの胴体を噛みちぎった。
「ア゛ア゛ア゛ア゛――――ガハッッッッ!?!?」
フレイヤが消滅したことで、ルゥルゥにかけていた肉体強化魔法が途切れる。
するとルゥルゥは、更に耳と鼻からも血を噴出し、動きが止まる。
蛇穴穿孔による負荷で、ルゥルゥの肉体はとっくに限界を迎えていた。
それを強化魔法で無理やり動かしていたのだろう。
故にフレイヤが消滅したことで、ルゥルゥの肉体はいう事を効かなくなったって訳か。
「(このチャンス――逃がしはしない!)」
防戦一方だった俺は、ここで初めて攻めに転じる。
復讐を果たす意味も込め――ルゥルゥの首目掛けて《宝剣・バルムンク》を叩きこむ――
――斬ッ!




