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イントゥーザの町

「あーっ、皆さんやっと街が見えて来ましたよ!」


シスターさんが指さした先を見ると、色とりどりの家々が建ち並ぶ街の外壁があった。


「うむ、やっとか。ここまで来るのにずいぶん時間がかかってしまったな」


タッシャさんが言う。


ずいぶん歩いたけれどようやく街と呼べるような場所についた。


シスターさんとタッシャさんに出会った村は交易所周辺に小屋が並んでいるだけの集落だったが、この街はその倍くらいの大きさはある。


街の入口に近づくにつれ人の数も増えていき、がやがやと賑やかな声や美味しそうな匂いが漂ってきた。


私と同じような恰好をしている人間はいないようだが、誰も気にしてない。自分のことに精一杯で周りのことなど気にしていられないのかもしれない。


「あっ、すごいですよみなさん!掲示板がありますよお!」


シスターさんがぴょんぴょんと横っ飛びしながら街に立てられた掲示板に近づいて行く。


何がすごいんだ、と思ってみたが……確かにすごいかもしれない。

依頼書のようなものがびっしりと隙間なく貼られている。


「すごいな……」


私は感嘆の息を漏らす。


やれ、借金を取り返してこいだの、どこそこにたむろしている山賊団を追い払えだの野良猫を箱に詰めてポンと叩けばニャーとなる楽器を作れだの、結構物騒な依頼が多いが私でも出来そうな内容もちらほらとあった。


「ふむふむ、確かにすごいな」


タッシャさんも掲示板に群がる人だかりを見て感心している。


これはお金を稼ぐチャンスだ、あまり使い道のない最強パワーを役に立てる絶好の機会かもしれないと私は思った。


(それに……正式な依頼なら流石のシスターさんもお金なんてとんでもないですよ~とは言い出さないだろうし……)


「ほら、そこ!新しい依頼が貼り出されてますよ!ナヅキさん!見てみましょう!」

「はい」


シスターさんは貼りだされたばかりの依頼書にぐいと顔を近づける。


そしてしばらく眺めていたかと思うと、唐突に依頼書をびりびりと引き剥がしてしまった。


「はい」


「…………」

「……あ、あのー……シスターさん?どうなさいましたか?」


少し慌てた様子のシスターさんは破れた紙を掲示板にこすりつけていたが、もちろんそんなことをしても貼り直せるわけもない。


「ふえ、はわ」


「……」


シスターさんに呆れているのか、それともこの程度の奇行は見慣れているのか、タッシャさんは小さく息を吐くと石板に目を落とした。


「あ、あの、シスターさん?」

「大丈夫です。私にはまだ鼻水を使うという奥の手が残されています」


「いや、そうじゃなくてなんで破いちゃったんですか?……鼻水!?」

「すみません、よく読もうとしたら間違って千切っちゃいました!てへっ!」


「……えぇ……下手したら私たちの手で解決しなきゃいけなくなりますよ……それで?その新しい依頼というのはどういう内容なんですか?」


「はい、えーっとですね。この依頼書によるとですね!悪魔が出たそうなんです!」


「これは無理ですね。シスターさん、鼻水を用意してください」


「ずびび!ダメですよナヅキさん!悪魔のせいでうるさくて眠れなくて困ってると思いますよ!」


「いやそんな蚊みたいに……でも悪魔って、私たちでどうにか出来るようなものじゃないでしょう。悪魔退治なんてそれこそ専門家に任せるべきですよ」


「でも~!ムオン様は最強ですし!ムオン様からご加護を授かったナヅキさんも最強のはずです!それに困っている人がいるのなら助けるべきだと思います!見捨てるわけにはまいりません!」


シスターさんはずるずると鼻水をすすりあげると、上唇を奇妙に尖らせて前歯を見せる。


いきなり悪魔と戦えとは、この人はどこまで勝手なのだろうか。


「……あの、じゃあシスターさんは悪魔を倒す方法をご存知なんですか?」


「ふっふっふ、そこは大丈夫ですよ、ナヅキさん」

「へ?」


「悪魔とは神に仇なす者!大きな力を持っていることは間違いありません。しかし何も倒さなくてたって追い払うという選択肢だってあるはずですよ」


「な、なるほど……!」


シスターさんは自身満々に胸を張る。


……いつもめちゃくちゃだし、話してると忘れがちだが、この人は聖職者なのだからこういう分野に強くたっておかしくはないだろう。


悪魔退治に関する知識も持っているかもしれない。


「それに、私がうっかり依頼書を破いてしまったことだって神の思し召しなのです!この失敗を逆手に取ったアプローチで悪魔を退けてさしあげましょう!」


「は、はあ」

「というわけでタッシャさん、悪魔を追い払う方法って知ってますか?」


「……」


(なんでシスターさんって人任せなのにこんなに自身満々なんだ?)


「タッシャさん?」


「……え!?あ、ああ、すまないシスターさん。ちょっと考えごとをしていて……悪魔悪魔、悪魔か……そうだな」


タッシャさんは石板をなぞる指を止め、しばらく目を伏せたかと思うと、やがて口を開いた。

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